烏丸ストロークロックのこと

ちょっと昔の話から始めます。
2009年に東京芸術劇場の企画運営委員になりました。それまではただただ。舞台を観て原稿を書き、これから始まる舞台のためのインタビューをする仕事を積み重ねていましたが、ある日、野田秀樹さんを芸術監督とした新体制を準備中の劇場から「あなたは若い劇団をいろいろ観ているらしいから」と電話がかかってきて、具体的な説明もなかったし、正直、仕事の内容はまったく理解できないまま、その何とか委員を引き受けました。そして野田さんの、新しい劇場をこうしたい、というビジョンの中の「才能のある若い人たちに使ってもらえる場所」という言葉を聞いて、自分はそういうつくり手を劇場と観客をつなぐためにここに呼ばれたのかと解釈し、「旬の劇団の中でも特に芸劇がプッシュしたい人たち」という枠として芸劇eyesをスタートさせました。ハイバイ、モダンスイマーズと芸劇はこの時からのお付き合いです。

幸い、順調にスタートが切れたものの、2011年は芸劇が大改修で、劇場が使えなくなる事態になりました。何とか芸劇eyesを継続したいと提案したところ、水天宮ピットの大スタジオなら使える、ただし稽古場なので公演として使えるのは4日間という条件で、ひねり出したのが、当時、私が「今までと違う新しい人たちが出てきた」と感じていた劇団を20分の短編をショーケース形式で紹介するというアイデアで、芸劇eyes番外編「20年安泰。」と名付け、ロロ、範宙遊泳、ジエン社、バナナ学園純情乙女組(現・革命アイドル暴走ちゃん)、マームとジプシーに登場してもらいました。この「新しい人たち」の感触は、のちに書籍『演劇最強論』にもなります。

1年置いた2013年、若い女性作・演出家の作品に、やはりそれまでの女性作・演出家とは違う表現、衝動を感じ、2回目の芸劇eyes番外編を実施します。うさぎストライプ、鳥公園、タカハ劇団、ワワフラミンゴ、Qに出てもらいました。

実は芸劇eyes番外編には、幻の第3弾がありました。とても魅力的な地方の劇団に続けて出合っていたので、その人たちの作品をショーケースで東京近郊の観客に紹介したいと考えたのです。
ちなみに芸劇eyesも番外編も、私が独断でやれているわけでは当然なく、ラインナップは野田さん、劇場の担当者と合議して決められ、さらに予算は別の機関で決められます。
諸事情により、第3弾は実現できませんでした。でも私の、東京の観客がなかなか観る機会を持てない劇団──それも芸劇eyesとしてプッシュできるくらい才能ある人たち──を上演することは、実は相当重要ではないかという気持ちは変わらず、短編のショーケースではなく、むしろ芸劇eyesとして本公演を上演してもらいたいという願いになりました。

そして何が何でも呼びたかったのが、京都の烏丸ストロークロックです。これまでに2本の作品(『短編:神ノ谷第二隊道』、『凪の砦』)と1本のリーディング(音楽と物語『まほろばの景』)を観て、1本の戯曲(『新・内山』2015年、岸田國士戯曲賞に最終ノミネート)を読み、いちいち鳥肌を立てているのですが、10年単位で考えて、せりふに文学性と生々しさがこんなにも拮抗し、両立しているのは、岩松了と烏丸の柳沼昭徳しかいないと思っています。
別に比較する必要はありませんが、あえて書くなら、岩松が人と人の深い交わりを描くなら、柳沼は人と自然の深い交わりを描いています。柳沼が書く風景は、夏なら強い草の匂いがし、冬は鼻孔を乾燥させる枯れ草の匂いがします。打ち捨てられた家財道具は、雨と土の混ざった匂いがします。そこでは自然が恐ろしい生命力を持っていて、出て来る人間はみな、それに対抗するように強い業を抱えています。そしてそれがたまらなく官能的です。

『まほろばの景』は、東日本大震災後の仙台で取材した話と、柳沼が近年興味を持っている日本の山岳信仰が、肉と骨のようにつながった話です。
3月1日(木)〜4日(日)まで、もちろん東京芸術劇場シアターイーストで。タイムテーブルなどの詳細、チケットなどはこちら↓で。
http://www.geigeki.jp/performance/theater165/

烏丸ストロークロックの公演が好評で、これからも東京に地方の優れた劇団を呼び続けることができたらというのは個人的な夢ですが、それはともかく、ぜひこの機会に烏丸ストロークロックを多くの人に観ていただきたいのです。応援よろしくお願いします。

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