短編小説

『鏡に映った赤子は泣くことをやめた。』

相変わらず穏やかな風の中、君たちは真っ直ぐ歩く。
何気ない日常が淡々とやってくることは、当たり前である。
自然に起きて食べて話して寝る。
変わることはない。

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今日は風の勢いが強すぎる。
髪は乱れるし目は痛いし肌も荒れてきた。

限りなく自由な風に吹かれて君たちは思う。

「今夜は荒れそうだね」

そう言って、普段やらない机や棚を整理し始めた。
偽りのない風の流れは誰も疑わない。
移り変わりの激しい自然の中で、過ごして来たお陰で
何も言わなくても、ある程度は分かるようになったのだ。

荒れた風、乱れた空、澱んだ空気、耳を裂く音。
恐怖すら覚えそうな雑踏の中、君たちは足早に帰路に着いた。

『今日は家族で暖かいシチューでも食べよう。』

近所のスーパーで普段、買わないような具材を購入し、ぎこちない体で自宅に戻り息を吐く。

「疲れたぁ〜!風すごいな〜!」

そう自然に息を吐きながらソファーに体を預け、買い物袋をぷしゅぷしゅ音を鳴らしながらコトコト何かを呟いているのである。

その姿に君たちは限りなく人間味を感じ思わず目が輝いてしまった。

自然な食卓とバランスの悪いブラウン管が置かれたリビングでの会話が面白くてしょうがなかったのだ。

透き通るようなシチューを啜りながら君たちは笑い合い、自然の流れに心が揺れていた。

当たり前のように明日もやってくる事実に胸の高鳴りが抑えられなかったのである。

予想通り窓越しの夜空が美しいもんだから、君たちは食卓のスープを飲み干し、タンっタンっタンっと外へ飛び出してしまった。

『ひゅーる。ひゅーる。ふぁーさらら。』

目の前にいた猫とニッーこ、と笑い合い、ゆっくり空を見上げると
言葉が枯れるほど美しいまんまるが描かれた景色に瞳が輝く。
そして君たちは一層強く感じてしまったのである。

限りなく哀愁と悦びの狭間に導かれて明日はやってくるのだろうなぁと。

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