電気代は安ければいいのか?
こう問われたら、多くの人は、
「そりゃ安い方がいいに決まっている!」
と言うでしょう。しかし、「安い」という背景には、単純に歓迎できない事情もあります。
ということで、再生可能エネルギの話の続きです。前回の記事は、
●再生可能エネルギのコストを試算
太陽光発電所の電力量 "kWh" 当たりの原価を、ザックリ試算してみます。
メガソーラー発電所の現在の建設費は、だいたい27万円/kWと言われています。
メガソーラーと言われているほとんどの発電所は「高圧(6.6kV)」での接続となっています。2000kW以上の出力だと「特別高圧(66kV)」での接続となり、設備コストが上がってしまうため、2000kW未満に抑えられています。
なので、だいたい出力は、1950kWとします。ただし太陽光パネルは、雲などの影ができても発電量が落ちないように、パワーコンディショナーの出力に対して余裕を持って設置する(「過積載」と言います)ので、設置費用を算出するkW数は、2200kWとします。
ちなみに、2MWの太陽光発電所でも、これだけ(以下のリンク)大きいです。
稼働年数は、現在の「FIT制度(固定価格買取制度)」では、メガソーラーの買取期間は20年間となっているので、とりあえず20年で計算します。
太陽光発電の「設備利用率(24h365日発電したとする発電量に対する実際の発電量の割合)」は、平均で13%と言われています。なので、13%で計算します。
20年間の平均kWh当たり原価は、
メガソーラー発電所建設費用:¥270,000×2200kW = ¥594,000,000
20年間の発電量:1950kW×20年×365日×24h×0.13 = 44,413,200kWh
電力量単価:¥594,000,000 ÷ 44,413,200kWh = ¥13.4/kWh
実際の電力料金は、これに送配電事業者の託送料や、発電事業者や小売電気事業者の利益などが乗ってきますので、これより高くなります。
ちなみに、太陽光発電のコストは、2014年では¥29~30/kWhだったことを考えるとだいぶ下がっています。おそらく今後も下がり続けるものと見られています。
風力発電も試算してみます。現在、地域や条件によって幅がありますが、例えば陸上風力では、だいたい35万円/kWと見積もることが出来ます。
風力発電の建設コストは、太陽光とは逆に高騰し続けています。タービンの単価は下がっているものの、環境アセスメントに関わる費用や土木工事費など、法規制が厳しくなったためのコストアップと考えられます。
先ほどと同様、2MW(=2000kW) の風車とします。ちなみに、2MWの風車でも、ローターの直径は88mもあります(以下リンク参照)。
陸上風力の利用率は、これも地域によって風況に大きな差がありますが、太陽光よりは高く、平均で20%と言われています。
風力発電のFIT制度の適用年数も、20年となっています。但し、風力発電の場合、太陽光とは違ってメンテナンス費用が大きくかかってきます。年間のメンテナンス費用は、建設費の2%程と見積ることとします。
この条件での、陸上風力発電の20年間の平均kWh当たり原価は、
風力発電所建設費用:¥350,000×2000kW = ¥700,000,000
20年間の発電量:1950kW×20年×365日×24h×0.20 = 68,328,000kWh
20年間のメンテナンス費用:¥700,000,000×0.02×20 = ¥280,000,000
電力量単価:¥(700,000,000 + 280,000,000) ÷ 68,328,000kWh = ¥13.6/kWh
だいたいメガソーラーと同じくらいの原価となります。
尚、これは2MWの風車を1本建てるだけなので、例えば5MWの風車を何本も建てれば、もしかするとスケールメリットで、これより安くなるかもしれません。また、現在盛んに開発されている洋上風量の場合は、陸上よりも10~20%利用率が高くなるため、建設費のコストダウンが図れれば、よりコストの低い電力となる可能性もあります。
●火力と比較するとまだ高いが・・・
以上の太陽光と風力のkWhあたり原価は、天然ガス火力の最近のコストが ¥10/kWh、石炭火力が ¥12/kWh あたりで推移しているのと比較すると、割高と言えます。
しかし、火力発電のコストの中身は、ほとんどが燃料費です。そして、資源の乏しい日本は、その燃料の殆どを輸入で賄っています。(以下の記事もご参照ください。)
つまり、火力発電に支払った電力料金は、そのまま海外に出ていくお金となると言っても過言ではありません。ちなみに東日本大震災の後、日本が原子力発電所を停止して火力発電を増やした際、日本の貿易収支は赤字に転じたのです(以下リンク参照)。
一方、再生可能エネルギであれば、パネルなどの部材は輸入に頼っていたとしても、電力料金の大半は、国内の再生可能エネルギによる発電事業者や、発電所の建設業者に渡るお金となります。つまり、
再生可能エネルギによる電力を増やすことは、資源の乏しい日本の国内経済を潤わせることに貢献する
ことになります。
特に、太陽光や風力だけでなく、最近は地域の自然を生かして、小水力発電や、間伐材を利用したバイオマス発電も盛んになっています。それらの電力を利用すれば、地域の経済を支える事にもつながります。
だから最近は、日本国内での再生可能エネルギ需要の拡大を見込んで、そのマネーを狙う外資系の事業者も、多く参入してきています。
●コスト以上の技術的な問題
「だったら、もっと沢山再生可能エネルギを増やして、コストも下げられるようにすれば良いではないか?」
と思うかも知れません。しかし、電力供給には、低コスト以上に大事な使命があります。
それは、「安定供給」です。
再生可能エネルギによる発電は、自然のエネルギを利用した発電方式です。人間が24時間活動するのに合わせて、エネルギを供給してくれるわけではありません。
だから、それを安定させる工夫が必要になります。それを、次回考えてみたいと思います。
※ちなみに、コストに関して
「圧倒的に安い」
と言われる「原子力発電」については、また別の問題の方が大きいので、あえて触れませんでした。一つだけ申し上げておくと、
「コスト構造が不透明過ぎて試算できない」
というのが一番の問題です。機会があれば、取り上げてみたいと思います。
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