角田裕毅2022年振り返り 全体編+2023年の展望

1.はじめに

角田選手の2022年シーズン全体の振り返り、そして2023年への展望を書いていきます。2022年シーズンについては、前半戦と後半戦に分けてレースごとの振り返りも書いていますので、良ければこちらも合わせてご覧ください。

2.2022年シーズン全体を振り返る

・成績から見る角田裕毅とアルファタウリの2022年

上記は以前Twitterで上げたアルファタウリ勢の成績比較です。
これを見て分かるのが、2021年→2022年でドライバー2人ともが大きく成績を下げていることです。特にガスリー選手は2021年には110ポイント獲得していたのに対し、2022年は23ポイント。約2割にまで減ってしまっています。
これはガスリー選手のパフォーマンスの問題なのか?そうではないと思います。原因としては、純粋にアルファタウリの2022年仕様の新車、AT03の戦闘力不足です。
なぜ戦闘力が不足したのか?についてはおそらく複合的な要素があり一概に言えることではありません。しかし開幕時点ではある程度中段勢の中で戦えていた車が、他チームのアップデートが入るごとに後れを取っていったことを考えると、シーズン中の開発が相対的に進まなかったことは苦戦した理由の一つとして言えるでしょう。

ドライバー2人は年間を通してマシンのポテンシャルを限界まで引き出していたように感じます。しかしながらマシン自体が非常に不安定で、特に相性の悪いコース(オーストリア、ハンガリー、日本、ブラジル等)ではどれだけ頑張ってもポイント争いには程遠い位置しか走れない状況であり、優秀なドライバーを揃えたところでどうしようもないなと感じていました。(もちろん、アルファタウリチームは全員が全力を尽くしていたと理解しています)

角田選手個人に関してはガスリー選手と同様、ポイント数や予選でのQ3進出回数を見ると、1年目の昨シーズンより数字では下回りました。ただもう一つ言えるのが、チームメイトのガスリー選手との差が大幅に縮まったことです。
特に昨年21-1と苦戦した予選成績が今年は10-9にまで接近しました。(※角田選手が予選で比較可能なラップを計測しなかった3戦を除く)
Twitter等で上がっている各種タイム比較でも、アルファタウリは2022年シーズン全体で最もドライバー同士の差が少なかったチームの一つでした。集計の方法にもよりますが、GAPとしてはおよそ0.1秒ほどと思われます。

思い返すと、昨年の2021年シーズンはアルファタウリのマシン・AT02がチームの歴代ベストとも言える戦闘力を持っており、予選では特に力を発揮。ガスリー選手はQ3進出18回(うちトップ6が16回)という中団トップクラスの素晴らしい成績を残していました。(個人的にガスリー選手はグリッド全体の中でもBest Qualifierの一人だと思います)
これだけの結果を残せる速さを持ったガスリー選手に対し、2年目のシーズンで肩を並べられるところまで持って行った角田選手の進歩はかなり急激なものだったと言えるでしょう。

角田選手は今期、週末を通してのビルドアップが非常に強力で、金曜時点のポジションからマシンのセットアップ、ドライビングのアジャストによって大きくゲインし、予選で順位を上げてくる場面が多くありました。
昨年はF1での週末の組み立て方を理解し、FPを有効に使えるようになるまで時間を要しましたが、その経験がかなり生かされているように感じました。今シーズン終盤になると、週末の走り始めのタイムがあまり良くなくても、予選になれば確実に上げてきてくれるという信頼感がありました。
弱みだった部分をむしろ強みに変えてしまう、この成長曲線がやはり角田選手の魅力だなと再認識させられる今期の予選パフォーマンスでした。

決勝の成績では、予選と比較すると少し差は開きますが、それでも昨年と比較すると明らかにガスリー選手との差は縮まっています。昨年は決勝の中でガスリー選手に対して周回を重ねるごとに差を開けられるというレースが大半だったことは否めません。
しかし今シーズンはむしろ角田選手がレースを通して先行する、もしくは後ろの順位で走っていても同等のペースで周回するといったシーンは珍しくなく、予選の進歩も素晴らしかったと思いますが、私は個人的にこの決勝レースでのゲインが非常に印象的でした。

さらに付け加えるなら、今期の角田選手はミスが大きく減りました。昨年はF1に慣れていない中でひたすらにプッシュしようとしてFPや予選でのクラッシュを繰り返してしまいましたが、2年目はそのようなクラッシュはありませんでした。
逆に、昨年には無かった決勝中の単独事故やチームメイトとの接触が今期は起きてしまいましたが、これらは角田選手がステップアップしたことによって起きた事象だったように思います。例えばカナダ、イギリスでのクラッシュは、ともにガスリー選手とのポジション争いで焦ってしまったことが主な要因でした。

昨年よりもガスリー選手との差が縮まり、近いポジションで走るようになったことから生まれた、新しい課題でした。角田選手もこれらのアクシデントがあった時期はチームメイトのことを意識しすぎていたと語っています。
イギリス以降は同様のミスはしておらず、この点はしっかりシーズン中に課題をクリアできたと言って大丈夫だと思います。
シーズンを通して見たときのミスの総数は明らかに1年目より減っており、今期のミスも成長過程で起きる必要なステップだったと言えるものでしたので、来期以降に向けてはあまり心配の必要はないと感じました。

あらゆる課題との直面、そして成長とまたアップダウンのある一年でしたが、総じて言うならば角田選手の2022年は、確実に成熟したF1ドライバーへの階段を登っていった、得られたものの多い一年だったように思いました。

・ガスリー選手との関係性

2023年、ピエール・ガスリー選手がアルピーヌへ移籍することになりました。角田選手がF1デビューからの2年間、チームメイトとしてコンビを組んだのがガスリー選手でした。彼と同じチームで走ったことが角田選手にとってどれほど大きな意味を持っていたのか、計り知れません。

デビュー直後、まだF1に対するアプローチを知らず、ただがむしゃらにプッシュするだけだった角田選手が、仕事の仕方を学べたこと。成長の度合いを測るためのベンチマークになったこと。簡単に上回れない強大な壁として、高い目標として、立ちはだかったこと。
レース以外では、ヨーロッパに来たばかりでF1に上がって知り合いも多くなかった角田選手をドライバーの輪に入れてくれたこと。今では角田選手は多くのドライバーから愛される存在になりました。
そして角田選手を弟のようにかわいがり、リラックスした時間を与えてくれたこと。2年目になって、密着した距離感がより多くなりました(笑)

角田選手本人が話していましたが、ガスリー選手がいなければ、今の角田選手はいないと思います。2年間ともに走り、最後はパフォーマンス面でガスリー選手に肩を並べるところに来ることができたと思います。この経験が角田選手のこれからのF1キャリアにとって大きな財産となることは間違いありません。

Merci beaucoup, Pierre!

3.2023年に向けて

移籍するガスリー選手に代わり、2023年からは初のF1フル参戦となる、ルーキーのニック・デ・フリース選手がアルファタウリに加入します。デ・フリース選手はF2、FEでチャンピオン経験を持っており、WECなど耐久レースでも活躍したドライバーです。
F1に関しても、2020年から3年間メルセデスでリザーブドライバーを務めており、すでにルーキーながらF1での仕事の仕方を知っている選手と言えるでしょう。
そして、実はF1のレースもすでに経験しています。今年のイタリアGPで体調不良になったアルボン選手に代わりウィリアムズから1戦限りのデビューを果たし、そのレースでなんと9位入賞を掴んでいます。

ここまでの経歴を見てわかる通り、経験豊富で非常に手強いドライバーです。来年、彼をチームメイトに迎える角田選手からすれば、強力なライバルとなるでしょう。
F1へのフル参戦は初めてですが、多くのカテゴリでレースキャリアをしっかりと積んでおり、シーズンの最初から安定した高いレベルのパフォーマンスを発揮するものと思われます。(今年のルーキー、周選手のイメージに近いかも)
フィードバック能力についてもすでに高い評価を受けているため、チームのマシン開発のためには非常に心強い戦力であり、その点では、フィードバックに関して改善に取り組んでいる角田選手も彼から学べることがあるかもしれません。

チームとして心強い選手ということは、上でも書いた通り角田選手にとっては強力なライバルということにもなります。角田選手にとって来期はF1での3年目となり、トスト代表の言う「成熟したドライバーとして力を発揮する」ためのシーズンとして、これまでの2年以上に明確な結果が求められる年となるでしょう。
現実的に考えると、チームメイトのデ・フリース選手に対して遅れをとることがあれば、そのときはシートを失う危機も訪れるかもしれません。

ただ、チームメイトとの比較やシート争いに関して、私は心配していません。
角田選手がF1デビューからの2年、確実に積み重ねてきた進歩はとても大きいものです。事実、数字として今シーズンは5年目のガスリー選手に対して2年目の角田選手が非常に接近したところまで行けています。
特に終盤戦はミスなく安定して高いパフォーマンスを発揮することをしっかり継続、レベルアップしていました。この走りができる状態で開幕を迎え、さらにこれまでの成長曲線から来シーズンもさらに実力をつけていくであろうことを考えれば、2023年の角田選手の飛躍に何ら疑いはありません。結果は確実についてくるはずです。

もし上手くシーズンが進まず、結果が出なければそのときはそのときです。私の見る目がなかったんだと諦めがつきます。
でも、そんな未来は想像する必要ないかなと。来年はアルファタウリはもちろん、レッドブルやF1界全体に対して角田選手の持っている力を存分に見せつけるシーズンになると思っています。
それがひいては角田選手の将来に繋がっていくはずです。2023年は角田選手のF1キャリアにとって間違いなく大きな意味を持つ年になります。

ファンにとっても開幕からまたドキドキしながら観戦することになると思いますが、全力で応援したいですね。

4.終わりに

2022年振り返り前半戦・後半戦に引き続き、全体の振り返りと2023年に向けた展望を書きました。
ファンとしてはまた昨年と違った方向でタフな一年だったなと思います。
昨年は角田選手が自身のポテンシャルをなかなか引き出しきれない苦しさ、悔しさがありました。今年は角田選手が全てを出し切っているのに結果に繋がらない、というもどかしさが大きかったです。

はっきりとした結果がなかなか出ないことで、SNSでもあまり見たくない言葉を目にすることもありました。
ただ、それよりも大きな声で応援するたくさんのファン仲間の方の言葉で励まされましたし、特に鈴鹿では今まで見たことのない数のファンの方がいて、感動したことを覚えています。
その応援は間違いなく角田選手にも届いていたはずで、少しでも後押しになっていたらいいなと思うばかりです。

来年の今頃、「今年の角田選手は最高だった」と振り返れるようになっていることを願って、また一年たくさん楽しんで応援しようと思います!
前後半の振り返り含めて大変長くなりましたが、ご覧いただきありがとうございました!

最後はやっぱりこの2人!

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