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Oさんが言ったこと

 先日家人より尋ねられた事があった。
「あなたにとって、親先祖や先師に対する報徳とは?
どうしたら先師たちの徳に報いる事になるのだと思う?」と。

私は迷わず答えた。
「親先祖や先師達が大切にしてきた思いを自分も頂き、彼らがしてきた事と同じ事を自分もさせて頂く事」と。


私がOさんに初めて会ったのは一昨年の2月だった。
ある日、心密かにオジジ様と呼ぶ人から
「おもろいヤツ連れてくから明日の朝8時に待ってて。何でも分かりよるヤツやねん。あ!そや!近所の○○寺の和尚も呼んどいて」
と電話があり、その"おもろいヤツ"がOさんだった。

私同様朝にめっぽう弱い和尚はNGを出して来なかったが、面白いヤツであるはずのOさんがまるっきり喋らず、会は30分でお開きとなり彼らが早々に帰ったので、忙しい和尚が来なくて良かったと私は心からホッとした。

そんなOさんと再会したのは去年の9月頃であった。
オジジがふらりと連れてきたのだ。
この時のOさんは前回とは打って変わって雄弁で、後々オジジ様が
「あいつがあんな喋るん珍しいで」という程によく喋った。

「神様にいったいどんな祈り方してんの?」
和室に案内するなりOさんに尋ねられ、私は少し狼狽した。
私が身を寄せる宗教の宗教用語で説明したって通じないし、どういう意味でOさんがそんな質問をするのかがわからなかったからだ。

余計なツッコミを入れられないよう、キレイ事を簡潔に言葉にするとOさんは、

「前来た時はな、神様から帰れ言われたからすぐ帰ってんけど、今回は来い言われてな・・・。
だから僕、さっき御神前に行ったやろ?
で、神様からあなたに伝言なんやけど。
神様からあなたに伝えて欲しいって言われた事があるねんけど」

Oさんは続けた。
「あなた・・・なんか・・・自分の要望神様に通すのに、交換条件で神様に自分の何かを捧げてない?でも神様はそれは違うと言うてはる。どう?やってる?」

私は首を横に振って、そんな事はした事がないときっぱりと否定した。

するとOさんは
「おかしいな。神様がそう言ったんやけど・・・。
ああ、そうか。
あなた未来でそれをやるんや。
でもな、神様はそれは違うと言うてはんねん!」
Oさんは言葉の最後語気を強めた。

「もうちょっと聞いてみたげよか?」
Oさんは和室を出ると神前に向かって大きな声でゆっくりと天津祝詞を唱え、私に座るように言い、本当かどうかは知らないが神様からの言葉とやらを私に伝えた。

「神様は、食糧難の事を言ってはる。
いずれ食糧難がやってくるって言ってはる」
「ああ!その時私は小さい子供を助ける為に、自分の何かを交換に神様に祈るんですね!分かります。やりそうです。」
「そう。その可能性はある。
まだあるねん。
いずれ食糧難が来た時に、神様が人類を振るいにかける。
もしかしたら宗教が復活するかもしらんね。」
「私が信仰している宗教では、それを神世って言うんです。神の世と書いてかみよって言うんです。今の世は人の世で、にんよって言うんです。」
「うん。
まだあるねん。神様はその時にどうすればいいか言ってはる。それは感謝やねん。
感謝が鍵やと言うてはる。
だからあなたはどんな事があっても笑ってて!」

そして、
「他になんか聞きたい事ある?なんでも聞いて。なんでも答えるよ」
と言うので、何年も前から疑問に思ってきた事に加えて荒唐無稽な質問をしたが、Oさんは全て答えてくれた。

その後みんなでコーヒーとケーキを頂きながら雑談に興じ、西の空が暗くなった頃にOさんとオジジ様は帰って行った。

実のところ、ほんの少し私はOさんが苦手だった。それはOさんのせいではなく、Oさんがくっつけている目には見えない何かのせいだった。

それでも翌日、私はOさんに対して大きな感謝の念が湧き、その気持ちをそのまま神様とOさんに手を合わせてお伝えした。

Oさんの事だからすぐに伝わったのだろうか。暫くすると
「忙しいのになほんまにもう!
おーい!O君からの伝言やー!」
とオジジ様がやってきた。

「神様の前で聞いたって欲しいねん」
と言うので御神前に座るとオジジ様は言った。

「O君から電話があってな。
あんな、O君はな、あなたがものすご純粋な人やと言うわけ」
「はい、そうです」
「そこがあかんねん!
それがあるからあなたが騙されて先々大損するねん。それでは孫の代までこの仕事が続かへん!潰れてまう!
だからな、あんな、そうならへん為にな、親先祖や先師達が大切にしてきた思いを自分も頂き、彼らがしてきた事と同じ事を自分もさせて頂く事。これさえ出来てたら大丈夫!これがO君からの伝言や!」


Oさんにはその後会っていない。
この話には続きがあるが、怖がりの私は怖くて書けない。
魑魅魍魎チックな何かが絡んだ出来事がオジジ様とOさん2人に起こり、それを機にオジジ様は車の運転をきっぱりやめた。








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