SF創作講座(2022) 第2回梗概感想

こんにちは。SF創作講座6期生の岸本です。
課題提出者一覧をご覧になった方、あるいはTLで私の悲鳴を聞きつけた方はすでにご存じかもしれませんが、今回岸本は梗概を提出できていません……。
なぜかというと〆切5分前にサイトにログインしようとし、挙句IDとパスワードをすっかり忘れていたからですね。
しばらくの間へこみにへこんでいましたが、ウルトラマンをたくさん観たことやnoteで公開した梗概を読んでくださった方々のおかげでメンタルが復活したので第二回梗概の個人的な感想を全員分書きます。自分もできてないのになとか不遜じゃないかなとか思いつつ……。

中川 朝子「風を痛む」
梗概としてはやや文章に修飾が多く、抽象的な印象がありました。おそらく「土地/地面を踏み固める」「果てしなく優雅で、緩徐なる死への階段」などが物語にとっても重要なポイントになっているのではないかと思いますが、もう少し具体的な説明があったほうがわかりやすいかもしれないです。「侵害受容器の機能停止」は麻酔の代替としてあるのか、それとも麻酔とは全く違った意味合いを持つのかが特に気になりました。砂塵が吹き荒れる中、人々は痛みを恐れ室内に引きこもるというメランコリックなヴィジョンは最高です。「人はいかにして痛みに負けるか」という過程から描かれるのでしょうか。楽しみにしてます。

伴場 航「手先の器用なテントウムシ」
アンドロイドが造られた理由に当たる「天皇制のこの先」というのがめちゃめちゃ気になりました。それはいわば「天皇制のこれまで」「現状の天皇制」などに対する考察とニコイチでとても面白そうなのですが、割とサラッと流されている印象です。私自身を含め、多くの人は「天皇」をそれほど具体的には捉えていない(漠然と「なんかめっちゃ偉い人」みたいな認識)でしょうし、ある程度今現在の天皇制に関する認識を読者と作者が共有できていた方が、「天皇を自称する(天皇になり損なった)アンドロイドが隣に引っ越してくる」というアイデアから発生する、諸々の具体的なシチュエーションの面白みが伝わりやすいのではないかと思います。

難波 行「もう一度産むから、まって」
前回の「惑星トルクワァン」に引き続き独特のセンス(あるいは作家性?)が発揮された文章で、個人的にはすごく好きです。凄惨にも思える場面だけれどもあくまで美しく、という哲学みたいなものが緻密かつ執拗なディテール描写を通じて垣間見えました。梗概というよりは実作のラストシーンを切り取ったような印象を受けましたが、逆にこの場面に注いだ熱量はしっかり伝わってきました。アピール文の一節の「単為生殖が可能な変異体が生まれた村で、その秘密は女同士の連体により隠され続けていたが、単為生殖しかできない個体が生まれたことで秘密が明るみに出て、危機を感じた者たちに絶滅させられる話」というほうがどちらかというと梗概らしかったです。

夢想 真「奇々怪々な機械の世界」
いきなり「機械」の定義から始まったり、「(この世界にはこのような技術が存在する)」という割と当たり前のことがわざわざ書かれてあったりという謎の面白さが作品全体を覆っています。自動改札を通ろうとして「相容れない」と言われるのは一見ちぐはぐなようで、しかし作中世界の論理からすると全くの必然であるのがとりわけ面白いです。二人の特殊能力がどこからどこまでを「機械」と判定するのかが気になりました。

古川桃流「失われない羊」
「¥に横棒を足した通貨記号から「羊」の愛称で呼ばれる。」こういうの大好きです。ブロックチェーンの知識がないせいか、やや話のポイントを掴みづらいところがありました。また、日本円の信用が下落し、その代替として仮想通貨が普及するのはそこそこあり得る話なのでしょうか? 政府と金融機関が主導する「羊」は実態的に日本円とそんなに変わらないのではという疑問がありました(主に信用度の面で)。これは妄言ですが、「羊」がクリプトキティのような形で視覚化・キャラクター化された世界も見てみたいです。

相田 健史「酒球」
冒頭の軽さと「アルコールに汚染された地球」の重厚さにいい感じのギャップがあって素敵です。せっかくだから地上服が破れるなどのトラブルによって主人公も酩酊状態で冒険することになったりしたら面白そうだと思いました。

瀧本 無知「頭の悪さはたゆまぬ努力のたまものです」
能力主義が過去のものとなっても、なお自らの知能(そして目的のない「可能性」)を追求している点で紬は前時代の苦悩を背負い込んだ子供と言えなくもない気がします。来年『シン・仮面ライダー』が公開された折にはこの作品を念頭に観ることになりそうです。

柿村イサナ「光の文字で綴れ」
かなり少ない文字数で表現されていたにもかかわらずカルタのビジュアルに関して色々と想像が膨らみます。何となく成田亨のデザインした宇宙人みたいな感じかなと思いました。カルタが何かする度にその異質さが表れ、底が見えないのがいい感じです。

長谷川 京「熒惑の信仰者たち」
海と火星の対比がいいなと思いました。信仰の場が火星に、主体がロボットになったことが今後教義にどのような影響を与えるのかが気になります。一方宗教に感染したイルミヤ達が社会にもたらす脅威があまり描かれておらず、ミナの怒りや葛藤の理由がふわっとした感じになっているのが瑕疵と言えるかもしれません。タイトルかっこいいです。

広海 智「『秘密の花園』の秘密」
『秘密の花園』未読のため理解できないネタがやや多かったのですが、「鍵がかかって中に入れない庭園」が邸の敷地内にあるという設定が好きなので、広海さんなりの語り口でどう描かれるのか楽しみにしています。

イシバシ トモヤ「エギィァアバキリッ…ジュドドロ…ッルッン」
ここまで執拗に描写していてあまりグロく感じないのは、これがあくまでも「食」であって「殺」じゃないということに起因するのかなとか思いました。個人的にはヒトがグルマンの存在を知らずに過ごしている辺りが好きです。このままでもショートショートとして成立していることは長所とも短所とも言えると思います。あとグルマン同士の会話も読んでみたいです。

霧友 正規「わたしと七人の「わたし」たち」
シンプルに面白いです。「人生設計カリキュラム」は今の時代にぴったりのガジェットだと思います。単なる寓話ではないこれを何と呼ぶか、考えてみるとやっぱり「SF」しかないですね。

岸田 大「帰省」
これが「人類」ではなく「地球の知的生命体」に対する呼び声であることに何となく含みを感じます。「惑星の意志=母」が知性に関して人間ほど偏狭な考え方をしていないとしたら……。

渡邉 清文「無名(関数)祭祀書」
愉しい作品ですね。ソリッドに構築された世界観で「何かとてつもなくバカなことをやっているのでは?」と一瞬芽生えた疑いがすぐさま「いあ!いあ!」に変わる。再帰計算のプロセスはいまいち理解できなかったのですが、論理の飛躍を「いあ!いあ!」で塗り潰す方向性であればむしろこのままで煙に巻かれてたほうがいいのかなという気もします。

降名 加乃「砕けた瓦礫の願いより」
冒頭からフィクショナルな舞台が提示されたのち、いきなり「六畳の部屋」というある意味卑近な表現が出てくる落差が何とも言えない味になっています。登場人物はロボットなのかと思いました。

コウノ アラヤ「ギャラン・ドゥは二度死ぬ」
出だしから面白く、最後まで笑えます。実作ではもっと頭皮にクローズアップした描写になるのでしょうか?

真中 當「白々と朝も夜も無く部屋照らす光がせめて暖かければ」
「自分が成長しても、美しくはなれないと実験の予測でわかっていたため、ちやほやされる幼女のままでいることにしている」が強烈に良かったです。この一発でキャラがわかります。

牧野大寧「イミテーション・アニマルズ」
素晴らしい怪獣ですね。ギの背景ストーリーは梗概の段階で入れていたほうがいいかもしれません。ただこれは怪獣プロセスをメインディッシュとしたエンタメとしてばっちり成立している反面、そこに別のストーリーを入れることでテーマがブレたりするのではないかという心配はちょっとあります。

山本真幸「睾猫譚」
いきなり訪ねてきて睾丸をよこせという猫人間もやばいけど、猫人間の言うことを信じて睾丸を渡すササキさんも相当やばいですね。梗概ではササキさんの内面はほぼ描かれていませんが只者じゃないのは伝わってきます。「過去の破局」というワードは聞き慣れないのでもう少し説明があると嬉しいです。

大庭繭「とろける微睡み」
人間の空想する活動そのものに焦点を当てた話のように思われました。「竜骨」という一つの嘘に乗ってどこまでも意識を飛ばすこと。それだけできれば人生の残りの部分はおまけかもしれないですね。実相寺昭雄監督の短編ドラマ「夢(ウルトラマンティガ第40話)」をほんのりと思い出しました。

中野真「消えない星屑」
「ハードフォーク」の意味がわからなくてググったのですが暗号資産関係の用語なんですね。さくっと大学卒業を諦める辺りが潔くていいと思います。

水住 臨「創造的休暇は突然に」
出来上がったものの見た目とか匂いではなく、その調理過程で美味しさが伝わってくるアップルパイというのは王道のようで変化球ですね。『太陽を盗んだ男』で城戸が自宅で原爆を作る過程しかり、『アイアンマン』で囚われのスタークがこっそりマーク1を作る過程しかり、何かを作る過程とはいつも私たちをわくわくさせてくれるもので、この作品にもそういう魅力がありそうな予感がしています。アップルパイ作りが実作でどういうふうに描かれるのか楽しみです。

方梨 もがな「二十日鼠が死んでいた。」
アルベールのネズミに優しいのか優しくないのかわからない感じが個人的に好みでした。アルベールが介入することで人類史にも時系列のねじれのようなものが生じそうで面白いです。

中野伶理「神はよるべなき声の果」
ヒビキとカオルの関係性が強調される一方、カオルがミレイをどういうふうに思っているのか、そもそもなぜミレイの前に現れたのかといったことに関しては記述がないため、最終的にカオルがミレイとの再会を望み死後の世界から帰ってきた理由がよくわからないところがありました。ヒビキは立派な人のようだけど謎めいていてこの人のことをもっと知りたくなるというような雰囲気があり、好きなキャラクターです。ミレイもカオルもヒビキの大きな影響のもとで生きているがゆえにお互いに色々な感情を抱くことがありそうですね。

向田 眞郵「それは小さなバトンだけど」
自我を持ったアバターがやったことに陸本人はどこまで関わっていたのかなと思いました。ジュブナイルはジュブナイルでも、昔読んでいた『怪談レストラン』とか『ちゃおデラックスホラー』を思わせるトーンで、個人的にすごく懐かしい印象です。

岡本 みかげ「穴が空いた日」
「この事故で弟を失った女の子はたくさんいる」というのがぞっとする感じで良かったです。それは他ならぬ平行世界のえり子なのかもしれないけど、ただ一人のえり子という訳ではない。次元移動実験を行った科学者は数いるえり子の中で少なくとも穴に落ちなかったグループだから、えり子が死を選んだ時点で穴が空いた原因の科学者ではなくなるというふうに解釈しました。そう考えるとまるで呪いみたいです。

櫻井 雅徳「少女の夢」
ポンヒロの合成に至るまでの経緯にしっかり理が通ってて良いなと思いました。「夢が黒塗りされる感覚」が実作でどのように描かれるのか楽しみです。

伊達 四朗「髪がない」
サイトウは一種のトランスヒューマンだけど社会的な秩序の中で管理されていて、いわゆるサイバー「パンク」ではないのが何となく新鮮でした。機械人類には鬘や植毛などの選択肢はないのでしょうか?

和倉稜「冷めない鉄の軌跡は円」
謎の提示と解決のテンポが良くて最後まで飽きずに読めました。「2020年の挑戦(ウルトラQ第19話)」を思わせるところや、金属製の義体と吸血鬼の取り合わせが個人的に好みでした。

佐竹 大地「神の石ころ、人の一手」
日本棋院の地下に「機関」があるという設定がツボでした。量子論関係の説明はちょっと難しかったです。余談ですがそういえば「FPS症候群」というのがあったなとこれを読んでふと思い出しました。

花草セレ「梅歌を齧る」
白梅が節操なく喋り倒すのではなく、あくまでも和歌を介してのみコミュニケーションが可能なのが、純粋な「知音」という感じで良かったです。また「齧る」という言葉には何か硬いものに歯を立てるイメージがあり、花であればむしろ「食む」とかのほうが合ってるのではないかなと思いました。本文とは全然関係ないですが、プリキュアの教えに従うのはめっちゃいいと思います。

織名あまね「杉田+杉田≒杉田」
もし差分が拡大した状態でマージを行うとどんなとんでもないことが起きるのか気になりました。この状態ならではのハプニングというのももっと色々見たいです(例えば一方の杉田がチカと喧嘩したとき、もう一方の杉田は二人とどう接するかとか)。

多寡知 遊「ぬいぐるみと駆け抜けよう、古代宇宙遺跡」
ピートはいい感じに哀愁漂うキャラクターで好きです。ピートの目的はもといた場所に帰ることだったのでしょうか。最後に《門》を通じて(単独で)帰ることができたのなら、なぜ最初からそうしなかったのか、という辺りの説明があるとわかりやすいと思いました。

柊 悠里「孵らなかった星間文明への鎮魂歌」
どうせ戦争にはならないので戦費拡大のため多方面に喧嘩を売りまくるというのは面白いアイデアだと思います。ただ「先制攻撃こそが最大の防御」という人間の屁理屈がどこまで人工知性に通用するのか、そもそも人間側が人工知性に対して何かしらアプローチする余地はあるのかという疑問はありました。

やまもり「絡む、稲妻と怒り」
この世界において呪いや予言がどのように位置付けられているのか気になりました。仮にハルゲルズが宴の支度に呪いを使っていたとして、それは彼女自身の能力「ではない」ということになり得るのでしょうか。

猿場 つかさ「君と蹴鞠だけをしていたかった」
「酒の雨降る」が好きです。個人的に蛇神はでっかくあってほしい。かなり情報量が多く、50枚前後に収まるのかな……という気はします。でも無理やり規定枚数に収めるよりは、多少長くなっても必要なだけの紙幅を割いたものを読みたいです。

髙座創「ギガンテック ブルー ピル」
タキオンがどういう粒子なのかが説明からはちょっとわかりづらかったです。主にどんな場所に、どのくらいの量存在しているのか、など。性質としてはアカシックレコードに近いのでしょうか。地球をでかくするのはアイデアとして最高ですね。

継名 うつみ「スキット・スキャット・スキャタラー」
面白かったです。明確な目標(タワマン最上階!)のおかげで物語全体がエネルギッシュになっていると思います。ライバルたちのおしゃべりが実作でどういうふうに描かれるのか、楽しみにしてます。

馬屋 豊「ディープフェイクおばあちゃん」
碌でもないことやってるのに爽快感があります。「大戦で日本が勝利した世界」がこういうトーンで描かれること自体珍しい気がしますね。ディープフェイク部隊の三人の老人がそれぞれどんなキャラクターなのか気になりました。

八代七歩「月うさぎは眠らない」
うさぎを並べていくの、いいですね……ところで月うさぎの前足はどのくらい威力があるのでしょう。餅がつけてしまうくらいだから、ジンの顔面はえらいことになってしまいそうですが。

邸 和歌「ポピポピポピポピ」
この作品におけるポピーと人類の関係のように、目には見えない変なものが、文明や社会のあり方を人知れず規定している話は大好きです。ポピーが咲き乱れる世界の描写と、主人公以外の人々の認識とのギャップがリアルに描かれるのを楽しみにしてます。

夕方 慄「その舌触りは絹のよう」
タニカワがなぜコバコを扱いきれなくなったのか気になりました。「昭和」がもとと思しき「照和」であったり、シフォンケーキが一般的ではないということで昔っぽい印象がありつつ、マンションやタイムパトロールまで出てくる独特な世界観の匂いや手触りが感じられるような実作を密かに期待しています。

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