大悲観妄想:みんなが右手をまっすぐ伸ばして忠誠を誓う

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その人の気配がするだけで、直立不動姿勢に入り、見える前から忠誠を誓うポーズをとる。こらえきれない感情は涙となりポーズを崩さないのでみっともない顔をさらす。それが統領のお気に入りだ。恥を忍んで忠誠を誓ってくれる。それこそが絶対的総統の証左であるのだ。

あの時、軽傷で済んだ。その強運が総統への道のはじまりだった。統領選まで現在の親衛隊は雌伏の時を過ごした。統領選で勝利した瞬間、親衛隊は統領の最前列に陣取り統領に向かってあのポーズをとった。その時は「浮かれた支持者の道化」と捉えられていた。メディアの扱いもやや冷笑であった。しかし、その2か月後、その国の憲法を変える大騒動が起こる。

その背景は伏せられた。出来事とは再び統領が狙われたのだ。統領に選ばれた二か月後、国民の前で一般教書演説をしている最中である。右肩を弾丸が貫いた。壇上下から小さな爆発が起こる。シークレットサービスが統領を保護し、あの時と同じように保護の隙間から顔を出して左手を高く突き上げ、「不滅である」と連呼した。

議会はその責任を警護に関するあらゆる組織に追求の手を回した。統領派の議員は動議を出し「統領の危機は国家の危機」として憲法秩序の一時停止を要求した。議会の同意を得て療養を早々に切り上げた統領がサインをする。

統領が指令を出すまでもなく、国家の暴力装置である組織は親衛隊に道を開いていった。親衛隊の暴力装置への助言は「総統からの命令」と解釈され、直ちに実行に移された。すべての国民はローマ式敬礼(手のひらを下に向け腕と指を完全に伸ばして前方を向くジェスチャー)で総統を迎えることが法として定められた。

西ローマ帝国の再興である。その前に、欧州は「ロシアによるローマ帝国の復興」が成功を収めており、それ以前から「アジアの大帝国・中華帝国」が復興しており、世界は「西ローマ」「東ローマ」「中華帝国」の三大帝国と「ヴァルナ・ヴィャワスター(インド)帝国」により支配されることとなった。

中東やアフリカは資源の取り合いで帝国の代理戦場と化し、常に飢えと苦しみの中に置かれた。

総統は敬礼の返礼に右肩を負傷していたので右ひじを曲げる独特のポーズをとる。年齢は110歳を超えているはずだが50代の風貌のままだ。細胞を常に置き換える最新の生命科学の賜物である。あの時訴えた「不滅である」を実践している。中国の秦の始皇帝が求めてやまなかったことである。

滅したのは「民主主義」のみ。もう、滅してから50年を数えようとしてる。

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こうは、ならない。なってはいけない。民主主義は不滅なのです。それが、妄想とならないために何をすればよいのか・・・皆目、見当がつかない世の中になりつつあります。



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