【深い社会】15 愛する人の命を取るか。それともルールを守るか。
トロッコ問題と似たジレンマ問題に「ハインツの葛藤問題」があります。
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ハインツの妻は死の病で臥せっています。
薬屋にはその病に効果のある薬が売っていますが、非常に高価です。
薬屋の主人は値引きをしてくれません。
ではもし、ハインツがその薬を盗んだとして、その行動は正しいでしょうか。
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キリスト教の十戒では、「汝盗むなかれ」と説きます。
しかし、別に「汝殺すなかれ」とも説きます。
みなさんはこの葛藤問題どう判断しますか。
さて、デューイの価値分類をさらに発展させたのが、
コールバーグです。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%90%E3%83%BC%E3%82%B0
コールバーグは、デューイの価値分類をさらに2つに分け、
6段階にしました。
「慣習以前のもの」
【第1段階】 罰を受けたくない
【第2段階】 得したい
「慣習によるもの」
【第3段階】 良い子と思われたい
【第4段階】 ルールを守りたい
「自律的なもの」
【第5段階】 みんなが納得するルールで判断したい
【第6段階】 人として正しいことをしたい
その上で、人間は第1段階から次第に第6段階へ向かって次第に発達していくとしました。
幼児、低学年、高学年
小学校教師にとては非常に腑に落ちる分け方です。
さらに、コールバーグは様々な実験をしてこの価値分類について分析しました。
ユニークな実験を紹介します。
まず、最初のハインツの葛藤問題で、
その人が大事にする価値観を、明確にしました。
「ハインツは薬を盗むべきです。
ハインツは罪に問われるかもしれませんが、
奥さんは世界にただ一人しかいないものです。
失ったら二度と手に入らないです。」
このような考え方は、損得によるもので、第2段階となります。
「薬を盗むべきではありません。
どんな理由があっても、盗むことは悪いことです。」
これは、第4段階です。
そこで、第2段階のグループと第4段階のグループを分けました。
まず、被験者にマジックミラーのある部屋に入ってもらいます。
隣の部屋には別の人が座っています。
こちらの様子は相手には見えません。
そこで、スイッチを渡して言います。
「これから実験を手伝ってもらいます。
隣の部屋にいる人物がちゃんと課題ができているかを私が判定しますので、
合図をしたらスイッチを押してください。」
スイッチを押すと、隣の人物に電気が流れます。
人物は、罰を受けてびくっとなります。
実は、その隣の人は事情を知っている演技の上手な人なのです。
本当は電気が流れていません。
手伝ってもらいます、と言いながら、実験の対象になっているのは
スイッチを押す側です。
調べてみると、
第2段階の、物事を損得で考えるグループは、実験をやめずに罰を与え続けました。
対して第4段階のグループはほとんど実験をやめてしまったのです。
「そんな残酷な事許されるわけがない。」
この実験から分かることは、価値段階の発達と、道徳的行動は結びついているということです。
教育で価値段階を上昇させていけば、道徳的判断ができる人間を育てることができると言えそうです。
このような理論に基づいて展開されたのが、「モラルジレンマ」の授業です。
ハインツの葛藤問題のような価値の葛藤について考えさせ、他の人間と対話させていくことで、道徳的行動につなげるという狙いがあります。
この考え方は、さきに指導要領改訂による道徳の在り方にも影響を与えています。
指導要領 特別の教科道徳 解説より
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道徳教育においては,人間尊重の精神と生命に対する畏敬の念を前提に,
人が互いに尊重し協働して社会を形作っていく上で共通に求められるルールやマナーを学び,規範意識などを育むとともに,人としてよりよく生きる上で大切なものとは何か,自分はどのように生きるべきかなどについて,時には悩み,葛藤しつつ,考えを深め,自らの生き方を育んでいくことが求められる。
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しかし、このモラルジレンマを徹底的に批判した人物がいます。
そう、あの人です。
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