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【深い社会】11 トロッコ問題の真実をあなたは理解しているか。

30人の子どものために、残業しても頑張りたい。
でも、無理に残業したら精神を病むかもしれない。

さあ、みなさん、残業しますか!

トロッコ問題は、NHKの番組「白熱教室」サンデル教授をきっかけに広まりました。
もともとは1960年代からある思考実験です。

この問題で取り上げられるのが「功利主義」です。
わかりやすく言えば、損得問題です。

カントの義務論と比較されることが多いです。
カントは、思いつく善を何も考えず実行せよ、と言う人です。
損得を考える功利主義と真反対に感じます。

自分が関わって、1人を犠牲にするか。
ほっといて5人を犠牲にするか。
どちらの選択がよいか。


5人の命と1人の命を天秤にかければ、5人を助けたほうが、5-1で4人分得です。

いや待ってください。


自分が関わったらそれは殺人です。
殺人は無条件に罪です。ならば何もしない方が良いのでは。

Aは命を1つに数え、損得に入れて計算しています。
このような考え方を主張したのが、ジェレミ・ベンサムです。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%AC%E3%83%9F%E3%83%BB%E3%83%99%E3%83%B3%E3%82%B5%E3%83%A0

Bは、無条件に善の行動をとろうとしています。
カントの義務論です。

では、もしも、功利主義を作ったベンサムがこのトロッコ問題を知ったら、どう判断するでしょう。

答えは・・・否です。

おそらく猛烈に怒ることでしょう。
なぜなら、このトロッコ問題の目的は、
功利主義の目的と大きく違っているからです。

ベンサムが功利主義を打ち立てたのは、
貴族や一部の資本家が大きく利益を得ていた19世紀です。
庶民は資本主義に巻き込まれ、不安定な暮らしをしていました。

重い税を払わなければならない。
いつ、解雇されるかもしれない。
明日食べる物もない。

そのような状況を改善しようと考え出されたのが功利主義です。
一部の人間だけが得をして快楽を感じる社会は間違っている。
多少、貴族や資本家が利益を損ねても、
人々全員が得をして快楽を感じる社会が正しい姿だ。
ベンサムは、これを、

「最大多数の最大幸福」

と呼びました。
もうわかりますね。
トロッコ問題のように、1人でも5人でも苦痛を感じる人がいれば、その問題自体が間違っているのです。
そもそもこのトロッコ問題は、功利主義を攻撃する「功利主義批判」の学者が、
攻撃するための根拠として持ち出した問題です。
間違っていることが前提の問題なのですから、
皆が不快感を示すのは当たり前なのです。

カントは「判断力批判」の中で、私たちが判断する種類に、

規定的判断(~は事実か)
反省的判断(~は良いか)

があるとしました。
これは現在、それぞれ事実判断、価値判断と呼ばれています。

トロッコ問題のように、どちらの選択がよいか、という判断は価値判断です。
問題自体が間違っていますが、多かれ少なかれ、
私たちはこのような価値判断をしながら日々を生きています。
これらの問題はすぐに解決できない難しい問題です。

前述のマイケル・サンデル教授はアメリカハーバード大学の政治学者・倫理学者です。
彼の立場は明確に功利主義を否定する立場にあります。
しかし、このトロッコ問題を学生に考えさせる時、明確な答えは出しません。

なぜなら、教授は、功利主義の概念を教えるための教材としているだけで、
トロッコ問題自体に意味があると考えていないからです。

残念ながらNHKは、この辺のサンデル教授の目的をきちんと伝えることに失敗しています。
その授業方法だけが取りざたされ、価値づけされ、広まってしまったのです。


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