オーナー(代行)の地位といわゆる実刑判決

平成30年2月13日,ソウル中央地裁は,千葉ロッテマリーンズオーナー代行である重光昭夫氏(以下,昭夫氏という。)に対して,懲役2年6月(求刑4年)のいわゆる実刑判決を言い渡した。昭夫氏が控訴しているため,この判決はまだ確定していないが,仮にこのまま実刑判決が確定した場合,オーナー代行の地位を失うことになるのか検討する。

1 オーナー及びオーナー代行に関する規定
プロ野球協約(以下,「協約」という。)上,オーナー及びオーナー代行がどのように定められているかを確認する。オーナーについては,協約18条3項に規定がある。

第18条 (オーナー会議の構成等)
3 オーナーとは、この組織に属する球団を保有し、又は支配する事業者を代表する者であって球団の役員を兼ねる者をいう。球団は、オーナーの氏名をコミッショナーに届け出なければならない。

この規定は,「保有」や「支配」の意味が協約上判然とせず,「又は」がどこに係るのかわかりにくいが,少なくともオーナーは「球団の役員」であることが条件とされているものと思われる。そして,球団は発行済み資本総額1億円以上の株式会社であることが求められている(協約27条本文)から,ここにいう「球団の役員」とは,会社法(以下,「法」という。)上の役員(法329条)とほぼ同様の意味であると考えることもできるが,協約の規定振り及び実際の運用(各チームのオーナーはすべて取締役に就任している。)からすると,おそらくここにいう役員は「取締役」のことを指しているものと思われる。なお,オーナー代行については,協約22条1項に規定がある。

第22条 (出席者等)
1 各球団は、オーナーに事故がある場合に、その職務を代行すべき者(以下「オーナー代行」という。)を定めてあらかじめコミッショナー事務局に届け出ることができる。オーナー代行は、オーナー会議に関してはオーナーと同一の権限を有するものとする。

規定上は,オーナー代行は役員であることを求められていないが,実際の運用からすると,オーナー同様に球団の役員であることが求められているようである。
以上,オーナー及びオーナー代行には,株式会社の取締役でなければ就任できないと思われる。そこで,次に,いわゆる実刑判決を受けた場合,取締役の地位に影響があるのかを確認する。

2 取締役の地位と実刑判決
日本では,取締役がいわゆる実刑判決を受けると取締役の地位を失うことになる(法331条1項4号)。なお,会社の経営に関する一部の犯罪については,執行猶予の場合でも取締役の地位を失う(同項3号)。

法第331条
1 次に掲げる者は、取締役となることができない。
三 この法律若しくは一般社団法人及び一般財団法人に関する法律…の規定に違反し、又は金融商品取引法…の罪、民事再生法…の罪、外国倒産処理手続の承認援助に関する法律…の罪、会社更生法…の罪若しくは破産法…の罪を犯し、刑に処せられ、その執行を終わり、又はその執行を受けることがなくなった日から二年を経過しない者
四 前号に規定する法律の規定以外の法令の規定に違反し、禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまでの者(刑の執行猶予中の者を除く。)

したがって,オーナー及びオーナー代行が,日本において,いわゆる実刑判決を受けた場合,取締役の地位を失うため,同時にオーナー及びオーナー代行の地位も失うことになる。
もっとも,昭夫氏は,韓国において実刑判決を受けていることから,法331条1項4号にいう「法令」に「外国の法令」も含まれない限り,オーナー代行の地位は失わないことになる。
各種コンメンタールや裁判例をざっと調査した限りでは,外国法における実刑判決を受けた場合に関する記載がされているものは見当たらなかったため,確定的なことはいえない。
法331条1項4号の立法の趣旨からすると,外国法における実刑判決の場合でも,日本法における実刑判決と同様の処理をするのが妥当だと思われる。一方,同項1号の規定では,「外国の法令」の場合をわざわざ規定していることからすると,同項4号の「法令」に「外国の法令」が含まれると解釈するのは困難なようにも思われる。

法第331条
1 次に掲げる者は、取締役となることができない。
二 成年被後見人若しくは被保佐人又は外国の法令上これらと同様に取り扱われている者

感覚的には,外国法における実刑判決の場合でも,日本法の場合と同様に解釈した方が妥当だと思うが,法の規定振りからすると厳しいところだろうか。とりあえず,昭夫氏とその兄である重光宏之氏はロッテの経営権を争って,訴訟になるほど揉めているから,この辺りの問題について何らかの判決が出ると面白いなと思っている。

という記事を書いている間に,オーナー代行が退任してしまったため,まだ中途半端な状態だが,このまま記事を公開する。オーナー変更の手続についても触れようかと思っていたが元気がない。
なお,昭夫氏は現在控訴中とのことだが,今シーズン中に昭夫氏がオーナー代行に復帰するのは難しいと思われる(韓国の刑事訴訟の進行はよくわからないから,もしかしたら今シーズン中に判決が出ることもあるかもしれないが。)ため,新オーナー代行にどれだけの権限があるのかよくわからないが頑張ってもらいたいと思う。

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