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セーラームーンが町に来る

「セーラームーンが町にやってくる!!」

親戚の「りえ」ちゃんが言った。


「セ、セーラームーンが、ここに来るがけ?!!レイちゃんは??レイちゃん!」


アタシが聞き返すと、

「もちろん、、、来るよ!!!!」

りえちゃんが言った。


「美少女戦士セーラームーン」は当時、全国の女の子たちにめちゃくちゃ人気があって、自分は男の子だったが、親戚の一つ年上の、りえちゃんの影響で、セーラームーンに熱狂していた。

セーラームーンの中でも、

僕は「レイちゃん」こと、火野レイというキャラクターが大好きだった。

レイちゃんは、普段は神社の巫女さんなのに、敵が出てきたら、指から炎をだして、敵にその🔥をおもいっきりなげつけて、燃やすのだ。

その様が、めちゃくちゃカッコよくて、可憐で、メラメラ美人で、何よりも、指から🔥をだすから、最高に恋してた。


レイちゃんのジグソーパズルまで買って、

「レイちゃんわかるよね?結婚だよね?」

と、ジグソーパズルに対して、意味のわからないことを言っていた。


そんなレイちゃん率いるセーラームーン軍団が、わが町にやってくるというのだ。

ジャパンエキスポというイベントが小杉の街であるらしく、そこにセーラームーンたちが来る。

「レ、レイちゃんが!?!」

何度も聞いた。

親戚の「りえちゃん」に、

本当にくるのか、どうやって来るのか、レイちゃんは本当にこの町にやってくるのか?本当のところどうなんだ?嘘なんじゃないか?

など、しつこく問いただした。

しかし、何度聞いても、

りえちゃんは

「必ず、、、来る!!!」

しか言わなかった。


それを聞いて、確信した。。


セーラームーンが、

レイちゃんが、

わが町にやってくる!!!!


さらにりえちゃんが胸高鳴ることを言った。

「セーラームーンたちのサイン、もらえるんやて!かっちゃん!」

「えっ!?!」

子どもながら、腰を抜かしかけた。


サインがもらえる!!

レイちゃんの、サインがもらえる!!!

僕は胸踊った。

レイちゃんに、レイちゃんに、

レイちゃんに、、、会える!!!!!

サインまでもらえる!!!


そして、運命の日がやってきた。

ー日曜日ー

朝早く起床。親を起こし、田舎の山道を自動車で駆け抜け(親が)一時間かけて小杉街まで向かった。

会場につくと、りえちゃん家族と合流した。

ものすごい手をふりながらこちらに向かってくるりえちゃん。だいぶ興奮しているみたいで、

「セーラームーン!セーラームーン!」

しか言ってなかった。

しかし僕も、

「セーラームーン!セーラームーン!」

としか言ってなかった。

会場の入り口から大行列ができている。

セーラームーンがわが町にやってくるのもあって、中は激混みだった。舞台がセッティングされており、セーラームーンのショーがまず開催される予定らしい。

周りを見渡すと自分と同い年くらいの子どもだらけで、中には男の子もいた。

「君もレイちゃんを好きなんじゃないだろうな、、!?」とライバル視線をむけていると、

会場が「どわああー!!」と湧いた。


『みんな〜!こ〜んにちわー!!!』


舞台に、セーラームーンたちが登場したのだ!!!

セーラームーン!

セーラーマーキュリー!

セーラージュピター!

セーラーヴィーナス!

そして、、手を振る、

セーラーマーズこと、レイちゃんが現れた!!!

「レ、レイ、ちゃ、、!」

実写版の綺麗なレイちゃんに、僕はもう大興奮だった。

「レイっっちゃーーん!!!」

その日1番の興奮だ。

会場からは、

『セーラームーン!セーラームーン!』

と声が何重にも重なって呼応している!

そらそうだ。わが町にセーラームーンがやってきたのだから!


そして何やら敵も出てきた。

敵「ぬははははー!!」

デーモン閣下みたいな姿の、よくわからない敵が出てきた。

そんな奴に対して、皆

『やっつけろー!!』

『セーラームーン!!』

『負けるなー!』

と声援を送る。

僕も「レイちゃんー!!炎🔥〜!!いつもの指から出してー!!」

と声援を送る。


しかし、敵がなかなか強く、セーラームーンたちが次々とやられて、負けそうになった、、!

『セーラームーン😭』

『いやああ😭』

『負けないでー😭』

会場の皆が「もうダメだ」思ったとき、


「まてーい!!」


「彼」の声がした。

ジャラジャンー。音がなり、薔薇が飛んでくる。

そう、「タキシード仮面」だ。

いつもセーラームーンのピンチになるとかけつける、謎のタキシード仮面姿の男。

そんなタキシード仮面がなんと今回も助けにやってきたのだ。

「うわああああああ!!?!」

僕のボルテージがさらに上がる。

タキシード仮面まで、わが町にやってきた!!

まわりも、

「うわあああタキシード仮面ー!?」

「うわあああタキシード仮面ー!?」

「うわあああタキシード仮面ー!?」

全くおなじことを言っていた。

タキシード仮面はデーモン閣下に薔薇の🌹で攻撃をして、相手が怯んだところで

「今だ!セーラームーン!!!!」

と叫んだ。

そこからセーラームーンたちの怒涛の攻撃ラッシュが始まった。

今思えばひどいのだが、デーモン閣下1人に対して、セーラームーン5人がおのおの全力で必殺技を繰り出していった。

「ムーンティアラーアクション!」

『うぎゃあああ!!』

「シャボーンスプレー!!」

『うぎゃあああ!!』

「ファイヤーソウル!!」

『うぎゃあああ!!』

「シュープリームサンダー!!」

『うぎゃあああ!!』

「クレッセントビーム!!」

『うぎゃあああああああああああああ!!」


敵はセーラームーンたちによる怒涛の必殺技に倒れ、力つきた。

会場からはわれんばかりの拍手がおこり、ショーは終演した。


そして、待ちに待ったサイン会である。



思い出すのは、信じられないことが起きたということ。



なんと、



なんと、



午前中のショーは、サイン会が

セーラームーンと、タキシード仮面だけだというのだ。

セーラーマーズこと、レイちゃんがいない。。!


僕はガッカリした。

親も、午後のショーまでは待てないらしく、帰らないといけない。

りえちゃんが、

「かっちゃん、しょうがない、並ぼう!」

と手をとられ並ぼうとしたら、ギョッとした。


セーラームーンの列が、大行列になっているのだ。

これではダメだと、どうしようと、

リエちゃんが

「かっちゃん、タキシード仮面でもいい?」と聞いてきた。

タキシード仮面は今回カッコ良かったのもあって、

「うん!」と答えた。

いいじゃないか、タキシード仮面。レイちゃんを助けてくれて、カッコよかったもん。

そんなタキシード仮面の列もかなり人気で、長蛇の列ができていた。

そこに並び、りえちゃんとセーラームーンはああだったとか、こうだったとか、ショーの余韻に浸っていた。


ああ、、

楽しかった。

あっという間だった、、。

セーラームーンたちは、やっぱり最高にイカしてた。

レイちゃん。

また、会えたらいいなあ、、!


そんなことを考えていると、


りえちゃんが


「あ!!!!!」


と声を出した。

「ど、どうしたの、りえちゃん?」

りえちゃんが、目をまんまるにして、

「あ、あれ!!」

タキシード仮面を指差し、



「あれ、荒木のおじさんだ、、!!」



そんなことを言った。

「荒木の、おじさん??」


「荒木!荒木のおじさんだ!」



りえちゃんが言うには、集合住宅に住んでいる自分のマンションの、二階に住んでる荒木さんというおじさんに、タキシード仮面がそっくりだというのだ。

「かっちゃん、あれ!タキシード仮面じゃない!!」

僕は混乱した。

タキシード、仮面、じゃない、、?

あら、アラ、キ??

荒木のおじさん?、、?

「かっちゃん!荒木!ぜったい荒木だ!」

「で、でもりえちゃん、なんでこんなとこに、」

「荒木のおじさんだ!ケツアゴ!ほら、かっちゃん見て!あのケツアゴ!!」

りえちゃんのいうには、荒木のおじさんはケツアゴらしく、タキシード仮面を見たら、たしかに仮面の下がケツアゴだった。

「ちょ、ちょっとまってよ、、りえちゃん」

「荒木だ!荒木のおじさんだ!!!」

「りえちゃん、」

「荒木のおじさんだ!!荒木の!」

「、」

「絶対!そうだ!!荒木のおじさんだよ!」

「、」

「かっちゃん!

あれ、荒木のおじさんだよ!!!!」



りえちゃんが熱弁する。

絶対に荒木のおじさんだ、自分は何度もみたことがあるからわかる。間違いなく荒木のおじさんだ。信じられないが、あのケツアゴ、間違いないよ、荒木だ。荒木のおじさんがタキシード仮面のふりをしてやってきた。荒木だ、かっちゃん、あれは荒木のおじさんだ。かっちゃん、荒木だ。荒木がきたよ。


列の先にいるタキシード仮面は、

完全に「荒木のおじさん」に変わった。


『次の人どうぞ〜』



列が進んでいく。




「かっちゃん、絶対、荒木のおじさんだ!!」





僕はこれから、





「かっちゃん、あれ荒木だ!ケツアゴ!!」




タキシード仮面のふりをした、




「荒木!荒木のおじさんだ!荒木!荒木!」




荒木のおじさんの、サインをもらう、、。




「かっちゃん!あれ、荒木だよ!荒木!!」




タキシード仮面をかぶった、、




「荒木、荒木!!ケツアゴ!!かっちゃん!」




ケツアゴの荒木のおじさんに、、




「かっちゃん!!ケツ!ケツアゴ!!!!」




サインを、サインをねだりに、、




「かっちゃん!!荒木ケツアゴ!!」




並んでいる、、。







僕は今日、

朝早く起きて、

一時間をかけて会場まできて、

セーラームーンのショーを見て、



「かっちゃんホラ!荒木!ケツアゴ!!」



荒木のおじさんに、サインをねだるのだ。。



そして、いよいよ次は僕の番になったとき、

後ろでりえちゃんが、


「かっちゃん!大変!荒木じゃない!!!」



衝撃の発見をした。


!?!?



「よく見たら荒木じゃないけど、タキシード仮面でもない!ケツアゴだもん!」


もう、メチャクチャだった。

荒木?じゃなくて、?タキシード仮面?でもない、、?

え。


え?

あ、え?



誰、、??



『次の人〜!』


僕の番になった。



誰か「やあ、名前は??」


「か、かずやです」


誰か「かずやくんだね!」


サラサラと色紙にサインをしている。

タキシード仮面でもなければ、荒木のおじさんでもない、ケツアゴの誰か。


「さあ、どうぞ!!」


渡された色紙には、

「かずやくんへ、タキシード仮面より!」

と書いてある。


タキシード仮面でもない、

荒木のおじさんでもない、

ケツアゴ誰かのサイン。


続けてりえちゃんもサインをしてもらっていた。

顔が引きつっていた。


「りえちゃんへ、タキシード仮面より!」


タキシード仮面でもなければ、

荒木のおじさんでもない、

ケツアゴ誰かのサイン。


あれだけ騒いで熱狂して、最後には2人とも引きつった顔で、ケツアゴ誰かのサインをもらっている。


帰りの車で、お互いサインを見せ合った。

自分たちは、誰かわからないケツアゴ人のサインをもらった。


「かずやくんへ、タキシード仮面より!」

「りえちゃんへ、タキシード仮面より!」


タキシード仮面ではない、ケツアゴ人のサイン。

まだ車の中なのに、もういらない感じになっていた。

こんなことならセーラームーンの列に並んでおけばよかった。

まあしょうがない、セーラームーンショーは最高だったじゃないか


「かっちゃん、でもさ!セーラームーンカッコよかったよね!」

「うん、そうやね、!」

「あ!帰ったら、家でドンキーコングやろうよ」

「え!ドンキーコング?!」

「パパが買ったんよー!」

「やったー!!」


子どもの頃、

次の瞬間には違うことに夢中になった。


「ドンキーコング!ドンキーコング!」


レイちゃんのことも忘れて、

帰ったらできるドンキーコングに、夢中になっていた。