2023/09/23 ずっと茄子の炊いたんの話
近所のスーパーで茄子を見かけて、買うことにした。気が付けば買ってた。茄子は誇張抜きで年中高い。見てくれの印象や料理の活用幅、味に対して釣り合う値段ではないと思う。もちろん生育や物流にかかるコストなんかを厳密にはじいてみれば妥当なものなのかもしれないが、そこまでする気力もない。とにかく高い。その割に定期的に食べたくなる。愛しいくらい。
子供のころから茄子は好きだったと思う。煮物、焼き物、てんぷら、浅漬け。母さんは茄子料理をたくさん作ってくれた。そしておれはそれをたくさん食べた。特に好きなのは煮物で、うちでは「茄子の炊いたん(炊いたやつ)」というメニュー名だった。茄子を縦半分に割って隠し包丁を入れ、油で炒めて水やしょうゆ、みりん、酒、白だしをいい感じに放り込んで煮崩れる二歩くらい手前まで炊くといった簡単な料理だが、これが恐ろしく好きだった。どのくらい好きかというと、小学校の授業かなにかで「好きな料理は?」といった質問があるたびにバカの声量で「茄子の炊いたん」と回答していたくらい。今思えば正直恥ずかしいが、まあ悔いはない。
この料理はいつ食べても最高であることに違いはないのだが、その時々の季節が後押しする良さもある。手指までかじかむ冬場に出来立て熱々をいくのもいいが、冷蔵庫でぐっと冷やすとこれがまた味が沁みてうまいんだ。夏場(もちろん夏以外でも)(まあでも茄子がそもそも夏野菜だしな)に、大根おろしをのせてかぶりついたらもうおしまい。そうめんと一緒に食べてもおしまい。小ねぎやかつおぶしを””山盛り””のっけてショウガを添えてもおしまい。おしまいってのは言葉の通り最後って意味合いで、要は行きついた果てみたいなもんで、つまりはこれ以上を見込めない、これより上はおよそ想像つかないってくらい、うまいってことだよ。
大学を卒業して、社会人になるタイミングで親元を離れて一人暮らしを始めた。簡単な料理なら日常的に作るし、気が向けば休日に多少は手の込んだものを作る時もある。茄子の炊いたんは超簡単だし、常備菜として座りがいいので便利。よしなしごとにくたびれて帰路についたとき冷蔵庫で冷えてるって思うだけで幸せになれる。ああくそ。これ書きながら茄子の炊いたんが恋しくなったのでまた作る。でもなあ。茄子高いんだよ。い~や、作るね。たけえ茄子で作るからうまいのかもしれない。愛しい。概念としてある「おふくろの味」って、実際そんなのないよなあと思っていたけど、おれにはあった。まじで愛しい。
茄子と一緒にしし唐も炊いたら、もう、食べなくてもうまい。わかるんだよ。というかしし唐もナス科だし。さもありなんって感じ。食べたら絶対こういうに決まってる。おしまい。
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