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アニメスポンジボブの神回について話したいのだが聞いてくれますか

あなたはスポンジボブをご存知だろうか。
目が潰れるような鮮やかな黄色の直方体がスーツを着た、あいつのことを。数多のアミューズメントやイベントに絡んでメディアに露出することも多く、その存在概念自体は幅広く認知されていることだと思う。

ほんの少しだけ質問を変えよう。
あなたはスポンジボブのアニメをご存知だろうか。
架空の海底都市ビキニタウンを舞台に、スポンジボブと愉快な仲間達が様々な出来事を巻き起こしていくギャグアニメは、日本では2000年ごろから放映を開始し、シーズンを重ねて今もなお放映が続いている。──そしてこれが、たまらなく面白い。

たいていのエピソードは霰のように降り注ぐ突拍子もないギャグで構成されており、その常識を疑うような突飛さ、下品さ、そしてシニカルなユーモアは、(とりわけ)子どもの心に深く刺さる。で、当時小さな子供だったおれの心にも、例に漏れずぶっ刺さったという話。
今思い返せばなにがそこまで魅力的だったのか、こと細かに思い出すのは難しい。自信を持って言えるのは、間違いなく幼少の自分を形作ったコンテンツのひとつではあるということ。
そして本作、カテゴリとしてはギャグアニメであることは疑いようもないのだが、時折変化球的に面白いエピソードが流れることがある。今記事ではおれの一番のお気に入りのエピソードを紹介したい。

「イカルド楽団」(原題:BAND GEEKS)

シーズン2 第15話 / 初回放送日 2001年9月7日
イカルドという"タコ"のキャラクターがいる。彼はこの世界において唯一といっていいほどまともで、常識があり、生まれつきの不幸体質もあってか、かなりひねくれた性根の持ち主でもある。音楽が趣味で、いつかプロになることを夢見てその資金集めのためにスポンジボブと同じ職場(ハンバーガーショップ)に勤め、常に不機嫌でナルシストでもあり、作中では専らスポンジボブらに振り回される役回りが多い。今話は、そんな彼に焦点を当てた話。

1.人生の転機

ある時イカルドは、学生時代からの知人であるイカリムから連絡を受ける。イカリムは裕福で、才覚にあふれ、イカルドが失敗したすべてのことに成功した奴で、イカルドにとってはライバルでもあり、痛々しい嫉妬の的でもある。そんなイカリムが持ち掛けた話というのが、フットボールスタジアム「バブルボウル」での幕間コンサートをしないか、というものだった。曰く、元々出演する予定だった自分の楽団が多忙につき、出場辞退しようとした中で、イカルドにその権利を譲るべく声を掛けたという訳で、その打診にイカルドは驚きを隠せない。
というのも、イカルドにとってバブルボウルでのコンサートは、生涯を掛けた望みのひとつであり、そして叶えられなかった夢だった。
しかしどれだけコンサートに出たいといっても、イカルドには楽団がない。楽団がなければそもそも話にならない。イカルド以上に性根の曲がったイカリムはその事実を知りながら、敢えて連絡を寄越してきたことを悟ったイカルドは意地を張り、その場でコンサートへ出場することを決めてしまう。そして本番までの僅かな期間に、楽団メンバーの募集から始めることになるのだった。

2.練習、断念、そして結束へ

ビキニタウン中の住人に声を掛けることでなんとか人員の確保に成功したイカルドは、バンド練習を呼びかける。プライドの高いイカルドらしからない丁寧な教え方にはバブルボウルへの憧憬が滲んでいるが、楽器なんて一度も触ったことのないメンバーは、めいめい好き勝手に音をかき鳴らすばかりで、とてもではないが音楽とは呼べない。それでも途中で投げやることなく、イカルドは辛抱強く彼らに向き合い続ける。
そして熱心な指導の末に、コンサート直前になってようやく下手ながらも曲を通せるまでになる。のだが、ふとした拍子にメンバー間で喧嘩が起こり、最初はただの口論だったのが次第にエスカレートし、楽器で殴り合う大喧嘩にまで発展。ほとんどすべての機材がめちゃくちゃになってしまい、ついにイカルドは心が折れてしまう。
バブルボウルでのコンサートなど、どうせ才覚のない自分には過ぎた願いだったと涙ながらに悔み、コンサート当日は来なくてもいい、バンドメンバーは事故に逢って死んでしまったことにすると言い捨て、帰ってしまった。
メンバーは喧嘩を止め、イカルドの夢を壊してしまったことを反省する。そして、自分達を信じてバンドに誘ってくれたイカルドの為に、コンサートを成功させることを誓う。それから夜を通してバンド練習に打ち込むのだった。

3.胸のすく、とろけるような勝利

コンサート当日。生きた心地のしないイカルドがバブルボウルに向かうと、そこにはイカルドの失敗する様を見に訪れたイカリムの姿が。楽団はどこかというイカリムの問いにイカルドが窮していると、背後からスポンジボブを筆頭にした楽団メンバーが、お揃いの制服を身に纏って立っている。仰天するイカルドを引きずるようにして舞台に立ち、コンサートは始まった。
憧れの舞台で大恥をかいてしまうことを恥じ、この街で自分の姿を見るのも今日が最後になるだろうと嘆きながら、イカルドが恐る恐る指揮を振ると、練習の時と打って変わって荘厳なファンファーレが鳴り響く。そして思わず息を吞むほど魅力的なロックが流れる。
かかったのは"Sweet Victory"という実際に存在する楽曲で、その非の打ちどころのないライブパフォーマンスにイカリムはたまらず失神。そしてイカルドは、響き渡るサウンドを全身に浴びながら、願いが成就したことを噛み締めるのだった。

初めてこのエピソードを観たとき、幼い時分ながらいたく感動したことを覚えている。普段は皮肉屋で良いことの少ない立場のイカルドが報われる数少ないエピソードであり、また"Sweet Victory"という楽曲が痺れるほど格好良く、たった11分の話とは思えないほど、完成度が高い。
普段はアメリカ製の砂糖菓子のようなテイストの話をするくせに、たまにこういう話を差し込んでくるこのアニメを好きになるのに、これ以上の説明は不要だろうと思う。

スポンジボブのアニメは時期にもよるが、AmazonプライムビデオやNetflix、Huluなどで視聴することができる。機会があれば観てほしい。
こんなくだらない話に最後まで付き合ってくれてありがとう。

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