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-ou

夜行列車にとびのった。忘れたいことがあった訳じゃない。けれど、思い出したくないことなら山ほどあった。

車窓からみえる星々が、
金平糖になって喉に詰まる。
逆行する木々が放つほんの微かな光。
多幸感の欠片もない夜は、いつだって容赦ない。

夜想曲を聞いた。
月光の清らかさがこんなにもうざったいと思うことは、金輪際ないだろう。
遮光性の無い瞳を密やかにうらんだ。

貴方って本当に、世話がやける。

浜辺で清光にかざす、ポケットの中の紙切れ。
凶という文字が気味悪く禍々しい顔をしていることだけは、ずっと変わらない。

野望はありません。ただ、波の音にわたしが熔けて消えてしまわないように、どうにかして天の川をつくりたくて。

一方のポケットにライター。徐に火をつけた。

凶の舞踊は空に熔けて、清い清い夜光になった。もし彼らが天の川になれたなら、今頃あの月のどこかで、夜想曲をうたっているだろうか。

そろそろ、

帰ろう。

夜行列車に乗って。

そしてきっとまた私、貴方の世話をやくの。

...end

***

-ou に、たくさんのおとをのせて
夜想曲は まだひびいている。

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