三姉妹は、ドラゴンスレイヤーと噂される事はまんざらでもないのであった

ある国の外れ、地方を象徴する巨大湖の傍に、とある城が建っていた。その歴史は8世紀まで遡り、経済の発展に踊る帝国の象徴として君臨し続けていた。領主はその城を拠点に国を治め、ある日には頂上に国旗がなびいた。地方だけでなく、もはや世界中から存在を認められた証である。城には王族が暮らし、無口で知られた王と、絶世の美女と知られた王妃、読み書きのできない長男、そしてかのクリとトリとトリスからなる三姉妹の、6人家族であった。

三姉妹には、ドラゴンスレイヤーであるという噂が頻繁に語られた。国の民は、森で龍に餌をやるトリスを見た、クリが崖から龍と共に消えた、などと真実かもわからぬ与太話に花を咲かせ、次第には魔女であるとまで囁くようになった。

王族は、当然この噂を良くは思わなかった。感謝祭の夜、城では国の名士たちを集めて大規模な晩餐会が行われた。祝いの夜ということもあり、歌に踊りに楽しんでいた招待客たちは、王の一言で凍り付いた。

「この場に魔女がいるようだ。皆の者、どうかそれ以上料理を口に入れないでくれ」

銀食器を落とす音、ワイングラスの割れる音が城内に響いた。王のその発言にはひとつの根拠も無かったが、神妙に重い口を開いた王の姿は、誰もが切迫感を抱くほど真に迫ったものであった。

「王、こやつです。銀のイヤリングをしておる。これは狼男を退けるための装飾です。狼は魔女の匂いをかぎつけると言いますから」

皆の前に引っ張り出されたのは国の農業を統括する老婆・アーナルであった。アーナルはあまりの驚きに表情を変えなかったが、徐々に状況を理解し、悲痛な声を上げ始めた。

「王、違います。私は魔女ではありません。銀の装飾は娘にもらったものです。娘は、戦争に看護婦として派遣されました。未だに会えないのです。こんな仕打ちはあんまりだわ。私が魔女なら今すぐ鼠にでも姿を変えて、ここから逃げ出していますわ。このホウレンソウも、瓶に差さっているハーブだって、私が卸したものなのよ」

王は、三姉妹のほうにちらりと視線をやった。これは至極単純な、しかし効果的な王の策略であったのだ。ここで三姉妹がアーナルを――彼女でなくても誰でも良かったのだが――必死に庇う姿を見せれば、魔女の汚名を晴らすことができるだろう。策略とはいえ、無実の者が涙を流している姿は忍びない。三姉妹は王の視線を受け、アーナルの元へ駆け寄った。

クリ「アーナルさん。あなたは魔女なんかじゃないわ。この国に魔女なんていないの。ドラゴンスレイヤーは何人かいるけれど、あなたは立派な働き者よ」

トリ「ああ、泣かないで、アーナルばあや。龍の腹の肉は絶品だと言うけれど、あなたの作るシチューには到底かなわない。私は龍の腹の肉を何回も食べたことがあるけれど、あなたの作るシチューのほうが絶対に美味しいわ。龍の腹の肉は少し硬いの。龍の腹の肉を食べたことがあるからわかるんだけれど」

トリス「アーナルさん、大丈夫。私はドラゴンスレイヤーです。なので大丈夫です」


三姉妹は、ドラゴンスレイヤーと噂される事はまんざらでもないのであった。


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