夏には、イケてなくてはならない

夏という季節は、やはりイケてなくっちゃ始まらない。夏に、イケてる自信、ある？俺にはまったくないけど、でも、やっぱりイケてる連中を見たりすると、俺も負けてらんねえって思って、鏡見て、肌が汚すぎて、そのまま鏡に頭ぶつけて気絶するっていうのが俺の夏。鏡が何個あっても足りないってわけだ。

で、そのイケてる連中ってのをどこで見るかつったら、街中でもそうなんだけど、フジロックのYouTube配信ね。配信が何年から始まったのかってのは覚えてないけど、毎年なんだかんだ家で見てる。「いつか行きてえなあ」とか思いながら、俺は一生行かないことも全部分かったうえで。衛生的に不潔なんだもんな。行ったことないからわかんないけど、トイレとかやばそうじゃね？景気のいい音楽で気持ちアガってる状態で、ションベンの狙いが定まるわけがない。そういう不衛生な部分も含めて夏フェスってモンなんだろうけどサ、やっぱり俺には衛生観念が邪魔をして、心から楽しめないと思う。こないだ海行ったときだって、決して砂浜にケツをつけずにしゃがんでたからね。根本的に夏に向いてないわけ。「夏に生まれたのは 大したことじゃないのだ」って田中和将が歌ってたけどさ、そもそも俺は冬生まれだから、特段関係ないんだよね。面白いのがさ、田中和将は俺と同じ誕生日だってこと。つまり冬生まれってわけ。確かにカレは冬の人間だと思うんだけど、あの首にかいた汗なんか、一滴一滴が夏っぽいんだよね。

さっき、夏にイケてるかどうかって話をしたけど、俺って最近ずっと〆切に追われててさ。もう原稿が溜まりまくっちゃって。7月なんかはさ、遊びに行ったりもしたけど、終盤はもうパソコンばっか触ってたね。コレじゃイケてないってんで、デカいTシャツ着てさ、飲みに出たりもするんだけどさ。22時には眠くなっちゃったりして、ああ、イケてねえなあってときにフジロックね。知ってるやつらはもちろんイケてるし、知らない連中もイケてるのばっかりでさ。ミュージシャンなんてそりゃクールなんだから、比べたって仕方ないし、俺だってそう悪くないと思うんだけど、やっぱどうしてもイケてないんだよな。燃える燃える燃えてるけど、ヘタじゃないのにイケません、ってね。あれ俺のことなんだよね。

そんなオーガズム知らずの俺は、結局フジロックにも安心を求めちまうワケだ。僕らは嗅ぎ慣れた匂いに満たされたいだけっつってね。そう、GRAPEVINEだね。30日の16時からバインの配信がやるってんで、西友でビール買って、15時59分まで冷蔵庫で冷やして、ちょうどにプシュッとやったワケ。すると憧れの田中和将が映るんだよね。田中に見えてるのは現地の連中なわけで、画面越しの俺のことなんか見えてもいないだろうし、特に気にしてもいないだろう、そういう疎外感みたいなものが、パフォーマーとの距離感として俺はしっくりくるんだよね。なんだか安心するんだよな、蚊帳の外ってのが。俺みたいな消費者が一番やっかいだと思うんだけど、そうなんだから仕方ない。

とにかく、俺は一番の特等席でビールを飲みながらバインのパフォーマンスを楽しんだわけだけど…やっぱ最高だね。「僕らにも夏の名曲ってもんがあるんすよ」とか言って風待ちやったりしてね。やっぱNOSとかFLYとか、相当楽しかったんだけど、何よりエレウテリアね。エレウテリアだよ、エレウテリア。いやー、よかったね。

ま、これから8月で、また夏が続行されるわけなんだけどさ。感染症も再拡大してる中で、夏に何ができんのかって考えてみたらさ、もう二度と、家の前で猫がウンコをしませんようにって、そう祈ることだけなんだよね。俺より猫のほうが数倍イケてるんだから、俺の立場じゃ祈ることしかできないんだ。俺はウンコのことばかり考えちまうからね。どうせなら世界平和について真剣に考えればいいんだ。でもさ、ウンコのことばっかりなんだよ。ザッパの名言でさ、こういうのあるじゃない。「俺は今デンタルフロスの歌を歌ったんだが、お前の歯はきれいになったか？」って、本当に言ったのか知らないけどさ。これ、もし俺だったら、こう言ってたんだろうね。「俺は今ウンコのことばかり考えているんだが、本当にごめんな」ってさ。事実、ウンコのことばかり考えているんだから、本当参っちまうよ。みんなにも申し訳ない。イケてないんだよね、俺ってさ…。