円形脱毛症になってしまった話

1月3日。新年の風もまだ正月の特別な空気を運んでいるころ、出会い頭に「あれ？ハゲてない？」と知り合いの女性に言われ、女というのは、まったく少しつむじが見えているだけでハゲだオヤジだと言いやがるからな。だいたい俺は長髪だぞ。東京で長髪で痩せているんだ。女を殴ったり大麻をやったりでハゲてる暇なんかあるわけないだろと頭頂部を触ってみると、冷たかった。指が冷たかったのか、頭皮が冷たかったのか分からない。しかし、確かに冷たかったのだ。

そこから一気に全身が冷たくなった。ハゲている。完全に、髪のない円がある。幸いにも10円玉ほどは無いようだったが、1円玉ならゆうに置けそうな平地がそこにはあった。撫でるたびに悪寒が走った。

俺の唯一の取り柄といえば毛量くらいのものだ。切らずに放っておくとすぐに膨らんでいき、虫にとっては国くらいの規模になる。家系にも、髪の薄い親戚はひとりもいない。俺にとって、”ハゲ”と”就職”という2文字はこれまで存在しなかった。

存在してしまった。ハゲてしまった。とにかくどうすればいいのか。コロナが流行っている中、なぜか円形脱毛症を発症してしまった。COVID-19。なんて得体のしれない言葉だろう。それに対し、円形脱毛症。涙が出るほどわかりやすい。病名を聞けばすぐに症状がわかる。円形に髪が抜けるのだ。

「一生生えてこないかもしれない」。死にたくなるような悩みなのに、”生”という漢字が連続している。

円形脱毛症について急いで調べる。円形脱毛症　治療　で検索すると、頭皮に注射を打っていた。ステロイドの何かを打つらしい。死ぬほど嫌ではあるが、しかし健康保険が適用され安価で済み、即効性も期待できるらしい。今すぐに皮膚科に行こうと決めたところで、ある注意書きが目に入った。

局注時に疼痛があるため、小児の治療には使用できません。

小児も受けるインフルエンザの予防接種だって俺には痛すぎて無理なのでやめた。

結局、1年以内に自然に治ることがほとんどらしい。1年間この冷たい平地と付き合っていくのも大きな決断ではあるが、帽子を被っていればよい。ネタにもなる。問題は、この平地が発生した原因だ。1年以内に、もしかしたら円形が広がってしまうかもしれない。もっと冷たくなってしまうかもしれない。この円形を受け入れたところで、円形がこのままの大きさでいてくれる保証はどこにもない。根本的な原因を解決しなくては…

円形脱毛症の発症原因は、未だに不明瞭な点も多いものの、やはり真っ先に挙げられるのがストレスである。ストレス。確かにある。俺にはいま家が無いし、金も無いし、充分な仕事も無い。加えてコロナ禍の真っただ中、生活が思うように立ち行かない状況には、少なからずストレスを感じている。人生への不安も多い。怒りも多い。年がら年中インターネットを見ているが、インターネットには陰湿で横柄な奴らがごまんといる。それに伴った自己嫌悪も多い。陰毛が皮に巻き込まれて激痛を感じることもしょっちゅうである。ストレスを挙げていけばキリがない。

しかし、髪が抜けるほどではない。俺ごときの不安や悩みで髪が抜けていたら、そこら中が美容院の床みたいになっているはずだ。原因がわからない。

どうやら聞くところによると、脱毛症は３ヶ月前のストレスが反映されるという。３ヶ月前、まだやっと着床を果たしたくらいの頃ではあるが、色々と思い返してみることにする。

３ヶ月前の１０月

・弟が結婚した。コロナで帰省ができず、結婚式に参加できないというストレスがあったものの、めでたさで相殺。しかし普通に弟が結婚するという意味のわからなさゆえのストレスもあった。

・ザコシと１日で２回すれ違った。ストレスは無く、高揚があった。

・友人がPCR検査を受けた。彼への心配と、もし陽性であれば自分も濃厚接触者であるという、不安のストレスがあった。陰性だった。

・『ミッドサマー』を鑑賞し、期待外れだったというストレスがあった。

・部屋が狭すぎて引っ越したすぎて泣いていた。ストレスだった。

・昨日の休日に何をしていたのかまったく思い出せないという、自己嫌悪によるストレスがあった。

・高速道路で事故に遭った。俺は無事だったものの、けがを負った友人の付き添いとして人生で初めて救急車に乗り、向かった救急外来でひどい対応を受け、ダブルでストレスを受けた。その病院についての愚痴を有料記事に書いたら、読者から「その病院で母親が死にました」というメッセージが来た。

・新居も決まっていないのに、部屋の退去の連絡をした。「なんでそんなことをするんだ」というひどい自己嫌悪に襲われ、それがストレスだった。実際、今は家の無い生活を送っている。

何が原因で円形脱毛症を発症したのか、俺は日々がつらいのか、結局わからないが、しかし人生を送っているのは間違いなかった。これからもよろしくお願いします。

最後に、購読者限定で私の円形脱毛症の写真を載せておきます。