俺は万引きGメン
さんざん自由奔放に生きてきて、職業は万引Gメン。
こんな、俺に捕まえられる万引き犯が、とても哀れに思うけれど、犯罪者の心理がわかると言うか、行動パターンがわかると言うか、万引きをする人がわかってしまうので、怪しいと思って追尾していたら、犯行に及び捕捉できてしまう。
警備業なので、警備会社に勤務して、研修を受け、独り立ちするまで約2ヶ月。
3ヶ月目からは独り立ちして現場に入る。
現場直行直帰で1人仕事。誰に気を使う事もなく、店内を一般客に紛れこみぶらぶら歩いて見て回る。
不審者を発見すると、そっと追尾を始めて監視する。
静かに近づき人相、服装、年齢、性別、身長、履物、持ち物。特に隠匿する場所があるかどうか、バックやポーチ、リュックなど、どこに隠す可能性があるかを考えながら、行動を見張る。
緊張の場面だけれど、気負いすぎてはその緊張感が相手に伝わり、犯行には及ばない。
こちらがGメンだとバレた時点で負け。
不審者は犯行には及ばず、そそくさと出ていくか、商品をきちんと精算して店を出ていく。
世の中の人たちのほとんどの人たちが、社会のルールに乗っ取り、物を買う。つまり、お金を払って商品を手に入れる。
ごく一部の人たち。そこには色々な事情があるにせよ、代金を支払わず、商品を隠匿し、もちだしてしまう。
万引きは窃盗罪であり、最高懲役10年までの厳しい処罰にされる事もある。
たかが万引き。捕まっても微罪処理されて刑務所にまでいく事は稀だけど、何度も何度も何度も万引きで逮捕され、1年、2年と収監されている人たちもいる。
クレプトマニアという病気がある。
万引きする事を止められない、精神病と言われている。
このクレプトマニアを捕捉しても、他の万引き犯と同じく、捕捉して警察に引き渡しをする。
どんな理由があろうと、捕捉をしたら警察に通報して、万引き犯を引き渡しをしないと、後で問題が起きてくる事もある。
Gメンの仕事としては、万引き犯を警察に引き渡すまでが仕事なので、最後まできちんと責任を持って引き渡すことになるが、最終的にその判断をするのは被害にあった店の店長なので、店長が色々な理由で通報しないと言うのなら、被害品を弁償(買い取り)してもらい、出入り禁止として帰す事もある。
この色々な理由。というのが曲者で、万引き犯が若い女性だった時には、許す代わりに見返りを求めて良からぬことになったという事もあった。
万引き犯にも、店舗側にも、色々な人たちがいる。
そこに、捕まえる側である元収容者の俺が加われば、面白いことが起きてくる。様々なドラマ。
万引き犯一人ひとりに違ったドラマがあって、怒り、呆れ、泣き、失望。そして感動する事もある。
こうしたGメンを通して体験した事を、ここに書いていくことにします。
2019.02.09土曜日
バロー戸田店
16時04分
83歳 男性
捕捉。
玉ねぎ5点 205円
家族4名。妻、息子夫婦と本人の4名で来店。
店内買いまわり後、妻と息子夫婦が商品を精算するためにレジに並んでいる間、出入り口近くの野菜売り場にて玉ねぎを物色。
視線が泳ぎキョロキョロしている。
家族を探しているのか?
と思いながら注視。
玉ねぎを備え付けのビニール袋に入れている。
数にして5個。
袋に入った玉ねぎをレジ待ちしている家族に渡すのかと思って、見ていた。
実はこの男。
家族で買い周り中、惣菜売り場にて無料の醤油を右手でガバッと大量につかみ、そのままズボンの右ポケットに捩じ込んだのを現認していた。
なので、その後から追尾追跡注視していたのだ。
無料とは言え、一度では使いきれないほど大量の醤油を持ち帰るのはどうか?とも思いながら。
そして家族のレジ精算が済み合流する際、驚くことが起きた。
手に持っていた袋に入れた玉ねぎを、精算済みになった商品の段ボール箱の中に、堂々と入れたのだ。
家族の目の前で。
あまりにも堂々としていたので、俺は自分が見たのが夢か?見間違いか?なんだったんだ?と思ったけれど、これは現実。
夢ではなくて、棚取りから全て見ていて、商品が入れ替わっていることはない。
そのあまりにもの大胆さに、家族も何も疑わず、玉ねぎを箱に入れるのを受け入れて歩き出す。
捕捉に行く!
男が風防室を抜けて、店外に出る。
急ぎ足で高速接近。
家族といる場合、家族にわからないように声掛けを行うなど、それなりの配慮はするが、今回はその家族も共犯かもしれないと思い、声を掛けた。
「すみません!ちょっとお話いいですか?ちょっとお忘れありますよね?わたし、こちらの警備をしているもので。。。お話伺ってもよろしいですか?」
と声を掛けると初めは驚いていたが、直ぐに謝り立ち止まる。
家族は父に
「どうしたん!?」
と聞いていたが、俺がすかさず
「ちょっとお話伺いたいので。
すみません」
とだけ言い、目線で万引き犯に移動を促すと小さく頷いた。
万引き犯に
「玉ねぎの袋」
と言うと、万引き犯は家族のカゴから先ほど入れた玉ねぎの袋を取り出して、手に持った。
残った家族に
「あとでご連絡が行きますので、今のところは一旦お帰りになってくださって構いませんが」
と伝えると、さすがに家族も父が何をしたか理解したようで、妻は「あぁ~」とうなだれ、息子は「くそっ!またか!!」と怒る。
これで初めてではないことが確定。
しかしバックヤードに連れて行き
「何回目だ?!」
と聞くと
「初めてです」
って。。。
「嘘言うなよ!
今息子が「またか!!」
嘆いとったやないか!ほんとは何回目だ?」
「2回目で。。。」
「いやいや。。もう何回目でもいいのよ。ほんとのこと言ってみ」
「捕まった事あって。。」
こりゃぁめんどくさいの捕まえたか?
と思いながら、店長を呼び話を聞く。
驚いた事にこの人。前にもこの店で捕まったことのある人で、店長は覚えていた。
出入り禁止にしたのに、今回家族とまた来店していたのだ。
店長は直ぐに警察に連絡。
俺は警察に犯人引渡し書を買いて提出。
万引き犯は警察官に連行されていった。
俺は会社に提出する報告書を書き、店長にサインをしてもらう。
こうして俺の1日が終わったんだけど、実は俺にとって、これが初めての捕捉。これで俺もやっと一人前と呼ばれることになった。
被害品が玉ねぎだけに、俺もこれで一皮剥けたと言えるだろう。
被害品
玉ねぎ 5点 205円
今日の話はここまで。
拝読いただきありがとうございました。
今後も万引きGメンのお話。たくさん書いていきますので、よろしくお願い致します。