問題提起の要否(補論)

 以前「法律答案の書き方(総論)」という記事を書きましたが、今回はその補論として、今(2024.2.7現在)話題の「問題提起の要否」について考えてみようと思います。

「法律答案の書き方(総論)」の記事はこちら

「問題提起の要否」に関する議論の発端となったロゼ子さん(@maru_roseko)の記事はこちら


問題提起の種類

 まず前提として、問題提起には、検討対象となるルールを特定するためのものと、単なる見出し的な意味しか持たないものがあると考えています。

 前者の問題提起は基本的三段論法、後者の問題提起はあてはめの三段論法にそれぞれ対応しています。
 また、前記引用記事によると、IRACにおけるIssueは、「この状況で、この法文を使って問題を解決できるか?」と定義されているため、前者の問題提起と対応しているようです。

 後者の問題提起(「窃取」の意義が問題となる、など)は、見栄えや書きやすさなどの観点で付け加えられるものであり、要否で言えば不要なものです。
 これに対し、前者の問題提起は、論理的に必要な場合とそうでない場合があります。各科目の例を挙げて説明します。


行政法

 例えば、処分性を問う問題の設問文には、以下のⓐⓑのようなパターンがあります。

ⓐ 本件処分は、抗告訴訟の対象となる処分にあたるか。
ⓑ 本件処分は、抗告訴訟の対象となる「行政庁の処分その他の公権力の行使にあたる行為」にあたるか。

ⓐにつきH27予備、ⓑにつきH30予備参照

 このうち、ⓑのような設問文に対しては、処分性の定義を示すところから書きはじめても問題ないものと思われます。それに対して、ⓐのような設問については、以下のような問題提起が必要となります。

 本件処分は、抗告訴訟(行訴法3条1項)の対象たる「処分」(同条2項参照)にあたるか。

 なぜⓐの場合には問題提起が必要になるのかというと、設問で問われている「抗告訴訟の対象となること」と、答案で検討する「行訴法3条2項の『処分』に該当すること」との間にズレがあるからです。
 このズレを埋めるために問題提起が必要となります。

 まとめると、問題提起が必要になるのは、設問の要求と、答案上の検討対象との間にズレがある場合、ということになります。


民法

 前記引用記事において、以下のような問題提起が例示されています。

 商品が損傷したのは地震のせいであったが、AはBに対して、契約不適合に基づく損害賠償(民法415条1項)を請求できるか。

 このような問題提起が必要となるのは、設問がAの請求の当否を問うている場合であると考えられます。
 なぜなら、この場合には、設問の問いは「損害賠償請求の当否」であるにもかかわらず、答案上で検討されるのは「契約不適合に基づく損害賠償請求権の存否」であり、ここにズレが生じているからです。

 なお、請求の当否請求権の存否については、以下の記事で詳しく解説しています。

 

その他

 前記引用記事では、民法だけでなく、刑法・民訴法・刑訴法の例も挙げられています。

 Aは既に溺れていたBを傍観したにすぎないが、Bに対する殺人罪が成立するか。

 AとBは⚪︎⚪︎の主張をしていないが、裁判所は⚪︎⚪︎を認定して判決をすることができるか。

 Aが、令状を取得せずに、GPSをBの車に装着し、位置を追跡したのは、違法ではないか。

 刑法については、「甲の罪責を論じよ。」というような設問文の場合に、上記の問題提起が必要になります。なぜなら、設問で問われる「甲の罪責」と、答案で検討される「(甲の行為についての)犯罪の成否」との間には、ズレがあるからです。
 仮に、設問文が「甲の行為に殺人罪が成立するか。」であれば、問題提起は不要になるはずです。

 民訴法の例についても同様に、「裁判所は、どのような判決をするべきか。」と問われている場合に上記の問題提起が必要となり、
 仮に「裁判官は⚪︎⚪︎を認定して判決をすることができるか。」と問われていた場合には問題提起は不要になります。

 刑訴法の例についても同様です。


結論

 私見では、「設問の要求と、答案上の検討対象との間のズレ」が生じている場合に、問題提起が必要となるものと考えています。

 そして、このズレは、各論的な問題であり、かつ、設問の問われ方によって変わることから、総論的な答案の書き方とは区別して考えるべきではないかと思います。

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