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『宇宙と宇宙をつなぐ数学』

本年(2021年)10月30日のブログで紹介した本『宇宙と宇宙をつなぐ数学--IUT理論の衝撃』を読了した。この本は、数学の難問である「ABC予想」を証明したとされる京大、望月新一教授の研究に間近で接してきた加藤文元・東工大教授の筆になる待望の望月教授の理論の紹介本である。
たぶんとても難しい内容だろうと予想して、しばらく敬遠していたのだが、読み始めてみるとこれが意外と(?)面白い。一気に読んでしまった。加藤先生の望月教授への「愛」を感じてしまった。互いに京大にいた頃、望月教授から二人でセミナーをしませんかと誘われて、セミナーの後は近くの焼肉屋でビールを飲んで話し合ったという話を織り交ぜながら、少しずつ望月教授の新理論が展開されていく。ふつう学者先生が書く本は、非の打ち所のない論文調で、肩が凝りそうになるものが多いのだが、加藤先生の本は読ませる、読ませる。望月教授の魅力を伝えようという心意気が感じられるのである。
もちろんIUT理論そのものは難しい。数学の専門家たちが理解出来ず「トンデモ本」呼ばわりまでするような理論だから、素人に歯が立つようなものではない。しかし理論の「雰囲気」は見事に伝わるのである。
「国際」という言葉は日常化しているが、これは inter・national の翻訳である。では、inter・universe の日本語訳は何か。これは、当然「宇宙際」であろう。いろいろな宇宙があって、その宇宙間のいろいろなやりとりが宇宙際である。IUT理論とは、宇宙際タイヒミュラー理論の略である(タイヒミュラーは数学者の名前)。つまり、IUT理論が言わんとしていることは、数学にはいろいろな宇宙があり、それぞれの宇宙ではそれぞれの数学理論があるのだが、違う宇宙の数学同士をうまく結び付けようというのがIUT理論の目標である。もともとIUT理論はABC予想を解くという目的で創られたのであるが、もはやABC予想は1つの成果に過ぎなくなっている。
最初は望月教授との楽しい交友のエピソードで綴られた話も、やがて数学の群論の話となり、それなりに難しくなってくる。しかし、大雑把に言ってしまえば、ABC予想やフェルマーの最終定理などは数学の整数論と呼ばれる分野の問題で、問題自身は素人でも理解できる。要するに足し算と掛け算の世界なのである。ところが、我々がよく知っている足し算と掛け算は単純に見えて、じつは単純ではない。ひと言でいえば足し算と掛け算は相性が悪いのである。ぼくが勝手に想像する例を1つだけ挙げると、たとえば素数は足し算で書くことができるが(5=2+3)、掛け算で書くことが出来ない。要するに足し算と掛け算は違う宇宙の数学なのである。この違う宇宙の理論をなんとか近似的に一緒にしようというのがIUT理論に他ならない。
本書の中にそれをイメージしたジグソーパズルの図が出てくるので、それを見ていただこう。そうすれば、正確ではないがIUT理論のイメージは掴めるのではないだろうか。
とまあ、偉そうなことを書いてきたが、じつはもちろん僕にはIUT理論など理解できる訳がない。しかし世の中、専門家でなければ大抵のことはイメージで判断しているのではないだろうか。素人の趣味としては、それで十分ではなかろうかと思うのである。

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