見出し画像

どっちも好きだから

「ねぇ、どっちが好き?」

夕暮れの公園。

ブランコに乗りながら尋ねる彼女。

白い素肌が夕焼けで赤く照らされている。

思わずその横顔を愛おしく見つめていた。

夕空を見上げてうっとりとしているその顔に。

『どっちも好き』

そう答えると、ズルいよと微笑む。

その可愛らしい笑顔に、微笑み返す。

こんな綺麗で可愛らしい彼女が、いつもそばにいてくれる。

誇らしくて、嬉しくて。

でも、いい加減に答えを出さないといけない。

はっきりしないといけない。

「どうかした?」

決意を込めた表情を見て、彼女は察したのか、姿勢を正した。

沈みかける夕陽と、ほんのり姿を見せる月の欠片。

『キミが好きだ…ずっと一緒にいて下さい』

震えた声で、渾身の一言を何とか絞り出した。

照れた笑顔で俯く彼女。

しばらくして、一筋の涙が零れ落ちた。

「こんな私で良ければ…」


公園を後にして、彼女は並木道を歩く。

溢れる涙を拭いながら。

沈みきった夕陽に、ぼんやり光る月明かり。

『一緒に暮らそう』

そう言うと、彼女は微笑んだ。

「いつも一緒にいるでしょ?」

いつからだったか。

彼女とこうして目を見て話せるようになったのは。

何がきっかけだったかも思い出せない。

ふと気付いたんだ、お互いに。

目が合ってるって。

彼女の存在に、

オレは気付いてるって。

それからずっと、彼女はオレの目を見て話してくれるようになったんだ。

こうして外にいる間は、中々そうもいかないわけだけど。

「ねぇ、ホントはどっちが好きなの?」

『どっちも好き』

「だからズルいよ〜」

『どっちもドキドキするだろ?』

「そうだけど〜」

この先も、オレたちは一緒に暮らす。

彼女がそれを受け入れてくれたから。

キスはもちろん、触れる事さえ出来ないのに。

彼女はそれを受け入れてくれたから。

そっと手を伸ばしても、

そこに見えてるはずのカラダの感触は無く。

夜一緒に寝てても、抱けるのは枕だけで。

何度忘れようと思っても、

彼女の笑顔を見る度に、

忘れてはいけない存在だと気付かされて。

前を向く事は出来なかった。

きっと、彼女も同じ気持ちで。

だから、今もここにいるわけで。

約束したんだ。

結婚しようって。

だけど、彼女は…。

「本当の本当に…私でいいの?」

『生きてても…死んでても…キミ以外にドキドキする存在なんてこの先もきっといないから』

「…ありがとう」

彼女は成仏しない。

『だから…どっちも好き』

END