例えばキミがいたとして
新しい朝が来た。
希望の朝だ。
...なんて歌が昔あったよな。
なんの歌か忘れたけど。
何が希望の朝だよ。
こんなつまらない人生に、なんの希望があるって言うんだ。
壁のポスターを見て呟く。
◯◯:キミだけがオレの希望だよ...さくらちゃん...
こんな可愛い子が身近にいたらなぁ...。
オレの人生もきっと希望に満ち溢れて...。
恋人...家族...幼馴染み...同級生...。
なんでも良い。
さくらちゃんとお近づきになりたい...。
数秒で終わる握手会じゃ、近づいたなんて言えないんだ。
なんて言っててもしょうがないんだけど。
オレはベッドを降りて、洗面所へ向かう。
リビングにいる母親に挨拶だけして。
さくら:おはよう〜お兄ちゃん
◯◯:おはよ
...は?
いま...ありえないものを見た気がする...。
慌ててリビングへ戻る。
さくら:ん?どうかした?
う...うぅ...嘘だろ!?
◯◯:な...なんでさくらちゃんが家に!?
さくら:な...何よ...さくら”ちゃん”って...
は...えっと...なんだこれは...。
さくら:大丈夫?お兄ちゃん
お兄ちゃんだと...!?
オレは一人っ子だぞ...。
大丈夫かと言いたいのはオレのほうだ。
そうか...これは夢だな?
妙にリアルだけど...たまに見る夢に違いない。
◯◯:そうだろ?さくらちゃん
さくら:だから...”ちゃん”はやめてよ
◯◯:あ...そっか...さ...さくら
さくら:ホントに大丈夫?
可愛い...夢とは言え...オレの目の前にさくらちゃんが...。
いい匂いがする...。
全国のさくらちゃんファンの人達、ごめんね。
今日はオレの夢に出てくれたみたいだ。
さくら:変なお兄ちゃん...
◯◯:あ!待ってさくら!
さくら:...ん?
オレはリビングからさくらを連れ出して、洗面所へ。
さくら:...なに?
◯◯:お...お兄ちゃんのこと...好き?
さくら:えぇ!?何よ急に...
◯◯:いいから...答えなさい!
さくら:...好きだよ...当たり前でしょ?
恥ずかしそうに俯くさくら。
いますぐ抱きしめたい。
考えるより早く、
体が反応していた。
さくら:え!?
オレの腕は、さくらの細い体を優しく抱きしめていた。
さくら:お...お兄ちゃん?
◯◯:オレも...さくらのことが好きだよ❤️
こんな間近にさくらちゃんの顔が...。
なんて可愛いんだ...。
キスしたい...。
さくら:お兄ちゃん...どうしたの?
◯◯:ずっと...こうしてたい...
さくら:...私...妹だよ?
◯◯:彼女なんて要らない...オレにはさくらがいればいい
さくら:お兄ちゃん...私のことそんな風に見てたの?
◯◯:うん...ダメか?
さくら:...ううん...嬉しい💕
◯◯:さくら!
より強く、さくらを抱き寄せる。
さくらも、胸に置いていた手をオレの背中に回した。
あぁ...幸せだ...。
いま...オレは...遠藤 さくらと抱き合ってるんだ...。
さくら:...お兄ちゃん...心臓うるさい💕
◯◯:わ...悪かったな...
当たり前だろ...推しメンと抱き合ってるんだぞ?
落ち着けという方が無理だ。
◯◯:さくら...
どうせ夢だ...したいことをしてやる...。
さくら:ん?
◯◯:...キスしたい
さくら:えぇ!?わ...私と!?
◯◯:他に誰が...
さくら:え...えっと...でも私たち兄妹...
◯◯:関係ないよ...これは夢なんだから
さくら:へ?夢って?
オレは、ゆっくりとさくらに顔を寄せる。
さくら:あ...お兄ちゃ...ん!
💋
はっきりと重なる唇。
オレは、遠藤 さくらとキスをした。
なんていうリアルな感触なんだ。
これが夢で終わるのが勿体ない。
2度と味わうことの出来ないこの感触を、
脳裏にしっかり焼きつける。
何分経っただろう。
唇を重ねたまま、オレたちは抱き合っていた。
やがて、ゆっくりと離れる唇。
微かなリップ音が、オレの心臓をキュッと締めつけた。
◯◯:さくら...大好きだよ❤️
さくら:うん...私も...お兄ちゃんが大好き❤️
再び強く抱きしめる。
この夢はいつまで続くんだろう...?
このまま覚めないで欲しい...。
さくらちゃんとずっとこのまま...。
さくら:...ねぇ、お兄ちゃん?
◯◯:...ん?
さくら:お兄ちゃんは...私とずっと一緒にいたい?
◯◯:...そりゃ...もちろん💕
さくら:本当に?
なんだ...?
変にひねくれる必要ないよな?
◯◯:もちろんだよ...ずっと離さないからな❤️
さくら:フフ...約束だよ❤️
あれからもう何十年経ったんだろう...。
オレは今、ベッドの上にいる。
病院のベッドの上に。
どうやらあの日以来、
オレの意識は戻らないらしい。
ベッドに横たわる自分を見て、
苦笑いする。
そりゃそうだ。
ここにオレがいる限り、
目覚めるわけがない。
でもいいんだ。
きっと、
彼は今でも、
さくらちゃんといい夢を見てるんだから。
END