その幸せは現?
不思議な夢を見た。
夢…?
違う…。
あれは現実。
そう、私は不思議な夢を見た。
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◯◯:史緒里?どうかした?
久保:え?
◯◯:なんか悩んでるような顔してたから
久保:大丈夫だよ、ありがとう
幼馴染の彼。
家が隣同士で、
通う高校も同じで、
ずっと一緒に過ごしてきた。
私は彼が好きだった。
でもそれは、叶わない恋心。
初恋というものは実らないもの。
彼は他に好きな人がいる。
だから私は、身を引いている。
私だけが彼を好き。
それで良い。
彼と通えるこの通学路も、
彼に彼女が出来るまでの、
あと少しの期間だけだろう。
◯◯:史緒里?ホントに大丈夫か?
久保:大丈夫だってば
◯◯:ならいいけど…なんかあるなら言えよ?
久保:うん、ありがとう
優しい彼。
こんな私と今だけでも一緒にいてくれる幸せ。
この時が、永遠に続けばいいのに。
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山下:はぁ…
深いため息を吐いてカラダを起こす。
私は寝坊した。
もうウンザリするほど同じ夢を見たから。
好きな彼が、別の女の子と付き合って結婚する夢。
それを夢だと思っていたのは、
今日この瞬間までだった。
山下:なんで…
大学へ通う道中で、彼に会った。
彼の隣には、夢で見たあの子。
私…この子知ってる。
◯◯:美月?どうかした?
山下:あ…ううん!その子…彼女?
◯◯:あぁ、昨日から付き合う事になってさ!
そんな嬉しそうに言われると余計に打ちひしがれる。
私の気持ちには少しも気付いてなかったんだね。
山下:邪魔しちゃ悪いから…バイバイ!
◯◯:あ…あぁ…
夢じゃなかった。
あれは現実だった。
彼は、あの子と結婚する。
あんな夢なんて見なければ良かった。
この時が、巻き戻せればいいのに。
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「史緒里」
遠くから私を呼ぶ声がする。
「史緒里!起きないとキスするぞ!」
キス…?
いいよ…キミとなら…。
久保:…え!?
頬に感じる確かな感触。
◯◯:あ、起きた︎
久保:…◯◯くん!?
なんで私の部屋に…?
◯◯:おはよう、史緒里
久保:う…うん…
紛れもなく彼だ。
私の大好きな幼馴染の彼だ。
今、私の部屋にいる。
私の寝顔にキスをした。
◯◯:ほら、デート行くんだろ?支度して?
久保:え…?デート…って…
◯◯:寝惚けてるなー?こちょこちょー!
久保:あっ…ちょっと!やめてー︎︎!
◯◯:あははは!目が覚めたか?
久保:もぉ…ばか…!
◯◯:5分以内に支度しないと…もっとイタズラしちゃうぞー!
久保:え…え…あ…着替えてくる!!
何だろう…何が起きてるんだろう…?
彼は他に好きな子がいるはず。
だって、夢で見たんだから。
私じゃない誰かと付き合って…結婚する夢。
それなのに…彼は今、私の部屋にいる。
初めて夢が現実にならなかった?
それとも、これも夢?
◯◯:史緒里ーまだかー?覗いちゃうぞー!
久保:ごめん!すぐ行く!
これが、現実だったらいいのにな。
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◯◯:美月?何ボーッとしてんだよ
山下:…え?
あれ?◯◯くんがいる。
…手を繋いでる。
どういう事…?
◯◯:なんだよ…オレの手がどうかしたか?
山下:…◯◯くん…私たちって…付き合ってるの?
◯◯:はぁ?マジで大丈夫か?告白してOKしてくれたばっかりだろ?
嘘…私が告白された!?
何それ…え?何それ!!
山下:ご…ごめん!何言ってんだろうね私…ふふ…💕︎
◯◯:勘弁してくれよホント…マジで緊張したんだからな?
山下:うん…嬉しかったよ…💕︎大好き!
◯◯:美月…💕︎
山下:あ…え…ちょっと近いから…💕︎
◯◯:いいだろ…?もうオレたち…恋人なんだから…💕︎
山下:…キス…だけだよ?
◯◯:今は…な…💕︎
彼と唇を重ねながら思っていた。
これは夢だと。
きっと寂しい私を励ますために、神様が見せてくれた幸せな過去。
これが現実なわけはない。
だって、昨日、彼は別の彼女と一緒にいたんだから。
◯◯:なぁ美月…
山下:なに…?
◯◯:美月の家…行ってもいいかな…?
山下:え…それって…
そういう事だよね…。
付き合ったばかりなんでしょ?
さすがに早い気が。
山下:だ〜め︎💕︎女の子には心の準備が必要なの︎💕︎
◯◯:え〜
山下:焦らなくたって…私たちはずっと一緒でしょ?
◯◯:はーい…
これは夢。
でも…夢で終わらないで欲しい。
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ずっとフワフワしてる。
彼が隣にいて、私と手を繋いでいる。
昨日まで見ていた夢よりも、
今見ている夢が現実になって欲しい。
これが私の理想なんだから。
◯◯:史緒里…
久保:ん?
◯◯:オレの事…どう思ってる?
久保:どうって…私たち付き合ってるんじゃないの?
◯◯:そうだけど…はっきり告白したわけじゃないし
そうなの?
どうやって付き合ったの?
久保:私は…ずっと大好き︎💕︎
言っちゃった…。
夢だと分かってるから素直に。
◯◯:オレも…史緒里が大好きだ…!
久保:ホントに私でいいの…?他に好きな子いると思ってた…
◯◯:…史緒里だけだよ︎!
久保:嬉しい︎…💕︎
◯◯:史緒里…💕︎
久保:◯◯くん…💕︎
あ…キス…しちゃう…。
でも…◯◯くんになら…私の全部…あげちゃう…。
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目を開けると、そこは薄暗い部屋。
やっぱり夢だった。
幸せな過去から、辛い現実に引き戻された。
山下:はぁ…
家にいると気が滅入る。
出掛けよう。
◯◯:あ…
山下:え…
玄関を出た所でばったり。
◯◯:良かった…すれ違いにならなくて
山下:どうしたの?私に用?
◯◯:あ…ああ…!
山下:なにー?今日は彼女と一緒じゃないの?
◯◯:彼女なんていないけど…?
山下:え…?だって昨日…
◯◯:オレが好きなのは…美月だから…!
山下:…え
◯◯:オレと…付き合ってくれないか?
まさか…また夢で見た事が現実に…?
山下:わ…私でいいの?
それとも、これもまた夢?
◯◯:美月…好きだ!!
山下:きゃ︎💕︎ちょっと◯◯くん?
力いっぱい抱きしめられる私。
近所の人に見られたら恥ずかしい。
◯◯:美月…💕︎
山下:分かったから…落ち着いて…?
◯◯:返事は…?
山下:…はい…💕︎お願いします…💕︎
◯◯:よしっ!!やったー!!
山下:うるさいよ…近所迷惑!
◯◯:美月…デートしようか︎💕︎
山下:…うん︎💕︎行こ︎💕︎
手を差し出して、繋ごうの合図。
彼は嬉しそうに私の手を握り締めた。
これが現実なら…もう辛い夢なんて見せないで。
私はもう…幸せなんだから。
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久保:ん…
◯◯:おはよう…史緒里…💕︎
久保:◯◯くん…
ベッド…?
私の部屋…。
あれ?じゃあ…今のって…夢じゃない?
◯◯:また寝惚けてるな?
久保:ねぇ◯◯くん…私たち…昨日…
◯◯:史緒里とひとつになれたな…💕︎
久保:夢…じゃないよね?
◯◯:当たり前だろ?
むにっと頬を摘まれ伸ばされる。
いつの間にか現実になったんだ…。
彼と結ばれる未来が…。
久保:絶対離さないからね…💕︎
◯◯:なんか重いぞ…💕︎
久保:ふふ︎💕︎私重い女だもん︎💕︎
◯◯:知ってる︎💕︎
久保:大好きっ💕︎
◯◯:オレも︎💕︎
夢なら覚めないで。
ずっとこの幸せな未来を見せて。
私はもう…幸せなんだから。
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何が夢で、何が現実か。
夢で見た事が現実になってしまう不思議な能力。
少女たちは、幸せを夢見て、今を生きる。
今、少女たちが見ている物は、夢か現か。
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◯◯:あ、もしもし?史緒里?今から家に行ってもいいかな?抱きたくてしょうがないんだよ!
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◯◯:美月?今夜会える?美月の顔見ないと寝れなくてさ!それに…そろそろいいだろ?
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END