僕たちのサヨナラ
「真夏、お帰り」
「一緒に頑張ろう︎」
あの日からもう9年か…。
誰もいない会場を見回して、私は深呼吸する。
あの時、ここで貰った言葉。
ずっと心のどこかで迷っていた事が、
その一言で全て肯定された気がした。
自分は間違っていなかった…と。
みんなと同じ日にアイドルになれたはずが、
親の反対と、学業に専念する為に1年出遅れた。
それが活動を初めてすぐに、
福神としてデビューする事になった。
みんなに申し訳ない気持ちが大半。
嬉しい気持ちはもちろんあった。
でも100%の笑顔は作れてなかったと思う。
私がこんなポジションにいていいのか。
私なんかよりもっと相応しい子がいるんじゃないか。
葛藤だらけの約2年間。
それはこの場所で吹き飛んだ。
あの子の言葉で。
今ではもう大好きな、あの子の言葉で。
梅澤:真夏さん、そろそろ
秋元:…うん
梅澤:ここでバスラやるの9年振りなんですね
秋元:うん、あの日以来だね…
梅澤:あ、そうですね…そっか…あ…ヤバい
秋元:え?ちょっと、なんで梅ちゃんが泣くの?
梅澤:あ〜だめだ…
秋元:もぉ…そんなとこ引き継がなくていいから……!
副キャプテンをやるようになってから、私といる時間が増えた。
こんなに涙脆い子じゃなかったのに。
変に私に似ちゃったみたい。
秋元:ほら行くよ?
梅澤:ん〜寂しいです…
秋元:ありがとう…
すっかり頼もしくなった背中をさすりながら、
ステージを後にする。
秋元:一緒に頑張ろうね…!
梅澤:うぅ…はい…!
- ライブ終演後 -
秋元:皆さん…ありがとうございました…!
あちこちで啜り泣く声。
マネージャーさんやスタッフさんたちまでぐちゃぐちゃ。
こんなに沢山の人に支えて貰ったアイドル人生。
何の未練も後悔もない。
やり切った。
これからは先に卒業したみんなと、
もうすぐ卒業公演を控えてるあの子とあの子と一緒に、
この可愛い乃木坂ちゃん達を支える番。
一人一人とハグして、感謝と応援の言葉を送る。
頼もしい後輩たち。
何でも気兼ねなく相談出来るマネージャーさんたち。
いつもこんな素敵な舞台を作り上げて下さるスタッフさんたち。
私が卒業しても、こんな素敵な人たちがいるんだから何の心配もしてない。
秋元:忘れないよ…
みんなに向ける100%の笑顔で。
『サヨナラ』
身支度を終えて、会場を後にする。
みんなはバスで会社まで一緒に帰って行った。
私は1人、誰もいなくなった会場を見上げていた。
まだファンのみんなの声が聞こえる。
胸に鳴り響いてる。
一生の宝物。
「風邪ひくよ?」
秋元:…うん
「真夏〜!」
秋元:わわ…!
みんな忙しいのに、私のために駆けつけてくれた。
残念ながらスケジュールが合わなくて来れなかった子もいるけど。
私に抱きつく大親友のこの子。
大切な楽曲で一緒にセンターを務めてくれたあの子。
これから卒業公演を控えてるクールなあの子。
優しい笑顔で私たちを見守る同い年のあの子。
初代キャプテンと女子カルのみんな。
芸能界は引退しちゃったけど、今でもグループを応援してくれてるみんなが大尊敬する人。
誕生日が同じいつも綺麗なお姉ちゃん。
そして、私の迷いを救ってくれた、今ではもう大好きで、大切な人。
「真夏、お疲れ様」
「一緒に帰ろ」
END