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大人になって知ること
50年以上前の話。
「鉄人28号」はぼくの永遠のヒーローで、白黒テレビの前にかじりついて放送を楽しみにし、気がつけばずっと主題歌を口ずさんでいた。結構今も歌えたりする。
が、ふと気付いたわけ。
子ども向けの子どもの話としてこのロボット物語を愛していたんだが、じつは原作をちゃんと通読したことがない。
50年経っても歌は歌えるのに、話はよく知らないのだ。
で、原作は全24巻、一気に買ってみた。典型的大人買いだ。古本ですけど。
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鉄人28号が旧日本軍の兵器として開発されていたということはなんとなく知っていたが、第1巻を読み始め、これがけっこうブラックな話だったことをしって戸惑った。
なにしろ第1巻の半分まで鉄人28号は出てこない。描かれているのは戦争の後遺症のまだ残る日本を舞台に、新しい世界勢力として勃興する秘密結社やギャング団、スパイ、旧日本軍の残滓、そして公権力の警察や自衛隊である。
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金田正太郎くんはもちろん警察の協力者というか手先というか、まあ、そんな立場である。なぞのロボットが(27号とか)起こす事件を捜査するうちに、そうした勢力が鉄人28号という兵器を手に入れようとしていることがわかる。
そしてついに28号は姿を現すのだが、まだ未完成。戦後隠れて28号の開発を続けていた敷島博士によれば、今で言う自立型つまりAIを搭載させたかったらしい。が、それができぬまに28号は秘密結社に奪われてしまう。しかも28号はとんでもなく最凶、また最悪に強い。
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28号をめぐる連中の思惑は、ナチスの兵器技術を奪い合ったアメリカとソビエトと一緒である。唯一、操縦機が鉄人28号を動かせる装置で、これを手に入れたものが最終兵器のボタンを押せるのに等しいわけだ。
主題歌の歌詞に、確かにありましたね。
「敵に渡すな、大事なリモコン〜♪」
「鉄腕アトム」と並んで、日本初のロボット漫画のひとつ「鉄人28号」は1956年(昭和31年)月刊誌に連載が始まったそうで、もともとは金田正太郎くんを主人公にした探偵漫画だったそうだ。
太平洋戦争が終わったのは、連載開始時のわずか11年前のこと。
子ども時代に戦争を体験した横山先生の中には、鉄人は「核兵器」に近いイメージはあったのではないかと思える。
この最終的なパワーを人間は本当にコントロールできるんだろうか。しなければいけないし、できるはず。
昭和30年代の高度成長期にあって日本人は、希望と良心さえあればどんなパワーでも打ち勝てる、と信じていたのかもしれない。「鉄人28号」という物語はそんな象徴だったのかもしれないなあ、と思いながら第1巻読了。
これが80年代後半、昭和から平成に変わる頃、もうひとりの「金田正太郎くん」もまた圧倒的パワーをもった「28号」と向かい合う。その28号は名前を「AKIRA」という。ちなみに「鉄雄」は「41号」です。
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AKIRAのパワーは東京を壊滅させ、生き残った人間たちは、やはりそのパワーをコントロールしようと策動する。しかし、鉄人28号の、能天気な希望を抱えられた時代は過ぎ去り、AKIRAのパワーは三度にわたり東京という都市を完膚なきまでに壊滅させる。健康優良不良少年・金田正太郎くんは廃墟となった東京で、生き残った仲間とともに新しい時代を作っていくしかないのだ。諸行無常の諦観。
パワーをコントロールすることは容易いことではない。
この二つの漫画に流れる空気感は、まさに戦後日本の価値観の変化を表現していると感じる。
さて令和の時代、人類の存在さえも脅かす圧倒的パワーに自分たちはどう向き合うのか。その求める答えが、SciFi物語のこれからのテーマになりそうだなあ、と思っています。
(2022年1月24日記)
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