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嘘つきは嘘をつかない

 「UFOが墜落した現場、行きたい?」
 一も二もなく飛びつきました。そんな楽しい話、断る理由がありません。
 テレビ番組の取材撮影でむかった場所は、アメリカのロズウェル。


 1947年7月、アメリカ・ニューメキシコ州ロズウェルの地元紙に、センセーショナルな記事が出ました。
 数日前、郊外にある牧場に空飛ぶ円盤が墜落。軍によって、円盤の残骸が収容された。

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『RAAF(ロズウェル陸軍飛行場)が、ロズウェル郊外の牧場に落ちた空飛ぶ円盤を確保』


 これが、世界ではじめてUFOが絡んだ有名な「ロズウェル事件」のはじまりです。ところが、その発表からすぐに軍は「円盤ではなく気象観測用の気球が墜落したもの」という訂正をします。
 これが騒動の元、円盤が墜落する現場を目撃した人から「気球なんかではなかった」という話が出始め、「軍や政府は情報を隠蔽している」という話になってきます。
 さらに数十年後、当時この事件に関わっていたという軍人たちが、
 「円盤を回収した」
 だけでなく、
 「エイリアンの遺体を回収した」
 などと手記を発表しはじめ、一気に話題となります。
 なかなか、どうしておもしろい展開。
 現地の撮影クルーに迎えに来てもらい、ニューメキシコ州アルバカーキから車でロズウェルに向かいました。

 荒野を走ること数時間、ロズウェルはのどかな小さな町でした。
 町中には、いたる所にエイリアンの看板や人形が飾ってあり、空飛ぶ円盤が突き刺さったUFO博物館とか、まったく緊張感がなく、かなり笑えます。
 ぼくは実際に墜落を目撃したという人にアポを取り、集まってもらうことにしました。待ち合わせは「UFO研究なんちゃら」というオフィス。
 オフィスのなかは、当時の新聞記事が貼ってあったり、時系列で事件の流れが説明してあったり、世界各国からUFOや宇宙人の記事が集められたりと、いかにもリサーチセンター。しかし半分の広さをしめるスペースには、宇宙人の顔が描かれたカップやマグネット、人形などがてんこ盛りに売ってある。
 結局、スーベニアショップなの。マグカップ、2コ買いましたけどね。

 時間になり、集まってきた人たちはジーンズにテンガロンハットという西部の男たちと女性数人。みな80歳代。
 「わしらは、墜落するところを、この眼で見たんだよ」
 つまり、円盤が墜落するところを実際に見た、とおっしゃる。
 ところが、軍もはじめは空飛ぶ円盤と発表していたものを気象観測用気球だったという翻意には、ウラがあると力説をされる。
 「誰もわしらの言うことは信じてくれないが、あれは気球なんかじゃない。ぜったいに政府は隠しているし、異星人となんらかのコンタクトはしているはずじゃ。わしらは地球のために、人類のために真実を語り、探り続ける」
 おじいさんたちは熱くそう語りました。
 
 撮影ではいろんな人にインタビューをしました。
 その中に、元・軍人という方がいました。
 すでに退役されてましたが上級士官だったのでしょう、いまは大学で教授として教壇に立たれているという方でした。
 当時世間では「宇宙人の解剖フィルム」というものが出回っており、それがロズウェル事件のものではないか、という噂でした。ぼくはその真偽も確かめたかったのです。
「機密もあるので、話せることはない」と断られたのですが、事前取材では「あれは偽物だ」と明言されてました。
 後年、あれは映画制作会社が作った偽物だったということが判明したそうですけど、そのときぼくはどうしても直接「偽物だ」という言葉を撮影しておきたかった。なんどかの交渉の末、時間をもらうことができ、ホテルの一室を借り、夜そこでインタビューをはじめました。
 現れた彼はカメラを前に、明確にたったひとこと、
 「あれは偽物だよ」
と断言しました。
 「誰かが作ったもんだろう」
 いくつか質問をしましたが、彼はすべて否定をします。
 ぼくは思わず、
 「まるで本物を知ってるようですね?」
 そう言ってしまった気がします。
 すると、ですよ。
 「せっかく日本からきてるしな」
と、彼はのたまい、真顔になって、
 「カメラを止めろ、VTRを回すな。メモもとるな」
といいだした。
 はい、来ました!
 「ロズウェルの事件は本当にあったんだ」
 「え?」
 「私は実際に記録を見たし、軍が撮影したフィルムも見た。その後の顛末も知ってる」
 詳細は忘れちゃったけど、以下、その人の発言。

 「異星人の遺体はたしかに2体収容した。
  解剖フィルムのエイリアンはまったく違うね。もっと爬虫類に近い顔だよ。
  その後、軍は異星人からのコンタクトを受けた。やり取りの無線は、周波数×××khzで定期連絡を取り合った。
  一年後、異星人が遺体を引き取りに来た。
 「彼らは交換条件として、いくつかの技術供与に加えて、ふしぎなものをくれた。半透明の黄色い本のようなもので、宇宙の歴史とかそういうものが書いてある。どういう技術なのかわからないが、その本は読む人の言語で読めるんだよ。その本を私たちは『イエローブック』と呼んでいる」

 ちょっとまってー。
 それってインディー・ジョーンズのような話だよ⁉︎
 一時間近く、彼の語る話を聞き終えた後、スタッフ全員きつねにつままれた感じ。

 彼が帰った後、ふと考えた。
 聞いた話が真実だとしても、どこかSF小説じみていて、なんか腑に落ちない。なんか出来過ぎ。その方の大学での專門は、たしか情報関係だったはず。大学で情報関係を教えているということは、彼は軍では情報戦の専門家、または情報操作を扱っていたのかもしれません。
 それで、ぼくは思い出しました。
 『隠したい真実は、<嘘つき>に話せ』
 狼が来たぞー、と嘘ばかりをつく少年の話です。少年は自分の嘘に村人たちが慌てふためくさまを楽しんでたけれど、本当に狼が出た時、誰にも信じてもらえず狼に襲われたって寓話です。
 情報操作のキホン。
 これ、ひっくりかえせば、兵器になる。
 UFOや宇宙人の話を隠すならば、否定だけでなく、別の方向からはわざとリークする。リークする相手は、世の中から<変なやつ>とか<変わり者>と思われている人。その人が真剣に語れば語るほど、誰も信じなくなる。
 <嘘つき>でなければ、<嘘つき>にしてしまえばいい。噂話やデマによって社会的な立場や名声を失墜させることは難しくはない。情報を発信する人を<オオカミ少年>にしてしまえば、信憑性どころか信頼もなくなるわけです。語る話がたとえ真実であっても。
 日本を出発する時、「さあこい、 ユーホー、宇宙人!」とノーテンキに、はしゃいでいた気分どころではありませんわ。
 ぼくは一気に袋小路にハマってしまいました。
 なぜ、彼はわざわざカメラを止めさせ、ぼくらにそんな話をしたのか。
 真実であれば、彼にとって、ぼくらは<嘘つき>なのか。
 もし作り話だとしても、そんなことをする意図がわからない。
 もっと、うがって考えたら、彼自身が<オオカミ少年>かもしれない。嘘をついているという自覚を、語る本人が持っていないときほど、この力は強く働きます。
 情報操作の持つおそろしさを垣間見た気がしました。

 という、この話。
 20年も前の出来事です。
 あのころに比べると、世界に飛び交う情報量はインターネットの普及ととともに爆発的に増えています。情報技術は、軍とか政府とか国家とかの占有物ではなく、すでにぼくたちの生活の中になくてはならない存在になっています。
 しかし、スノーデン事件やネット犯罪の記事、またネットの中を無秩序に拡散する話に触れるたびに、ぼくはあの夜のことをいつも思い出してしまうのです。それはぼくが、あの夜の答えをいまだに出せていないせいかもしれません。
 ちょっとだけ、後日談。
 日本に帰ってきてから、番組のプロデューサーが深夜、こっそりぼくを呼んで、
 「これ、見てみろよ」
 と、パソコンを見せるのです。
 20年前の当時、インターネットはまだ始まったばかりでインフラも貧弱でしたが、そのプロデューサーはいち早く、自社内で番組のHPを作っていました。まだ掲示板のようなHPでしたが、そこのアクセスログをぼくに見せるのです。
 パソコンを覗き込んだら、だらだらとつながるアクセスログの記録のなかに、"FBI"と"CIA"の文字――。
 「おれたち、監視されてるのかなー」
 …イエローブックはホントにあるってこと?

 ちなみに。
 ぼくは職業柄、かなりの<嘘つき>です。

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                           (2016年10月1日記)

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