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ポルコは乗せて。

 ぼくは宮崎駿監督の「紅の豚」が大好きです。

 数ある宮崎駿監督の作品のなかで、「紅の豚」はいっぷう変わった作品でしょう。
 宮崎駿監督の映画作りにかける姿勢は、およそ子どもから大人まで楽しめる作品をつくることで、それは「千と千尋の神隠し」が興行収入300億円という日本歴代興収No.1を記録し、いまだに破られていないこと(2016年現在)が証明しております。

 そんな中で「紅の豚」は、子どもと女性を意識しないで作られたとしか思えません。
 もともとプラモデル雑誌に連載されていた宮崎監督のマンガ「飛行艇時代」が原作ですから、宮崎監督がどこか自分の趣味でつくってしまったところが出発点だったに違いなく、監督自身も「疲れて脳細胞が豆腐になった中年男のためのマンガ映画」とおっしゃってるぐらいです。
 主人公ポルコ・ロッソが賞金稼ぎの飛行艇乗りというあたり冒険小説の鉄板テイストたっぷり、大人の男性向け童話、といっていいでしょうね。

「宮崎駿の雑想ノート」(大日本絵画刊)より「飛行艇時代」


 この「飛行艇時代」というマンガが、プラモデル雑誌に連載されていたというのがミソ。
 物語も自分の趣味、おそらくプラモデルも大好きに違いありません。
 仕事は仕事ですけれど、個人的嗜好ってのも自分を支える上でとても大事であるはず。そう考えると、宮崎駿監督にとても親近感を覚えます。

 実はかくいうワタクシも、5年に一度ぐらいの割合で、むやみやたらにプラモデルが作りたくなる。趣味というわけではないので、自分でもなんだかよくわからない。その発作は夜中に突然、ふだんは食べない「ラーメン二郎」が食べたくなるのに似てます。

 数年前の前回、この波に襲われたとき、適当にキットを買ってきて立て続けに3、4個、一心不乱に作りました。
 「紅の豚」の飛行艇キットも手に入れて、設計図を見ながら、色まで塗っちゃってね。
 

 ところがここからが問題のはじまり。
 まったく関係のない模型まで「紅の豚」にしたくなってきた。
 気がついたら、まっ赤に塗ってた。

 問題は、とうぜんポルコです。
 そんなもんキットにあるわけない。
 プラスティック粘土、買いに行った。

 スケールサイズまで測って必死。バカだ。

 たしかに今思えば、あのときの自分、変でした。

 絶対にポルコは乗るべきだ、乗ってなくてはいけないと強迫観念にとらわれておったように思います。
 だいたい、いい歳したおっさんが趣味でもないプラモデルをつくるなんぞ不可解このうえない。

 ちょっと心配になって、調べてみました。
 すると、精神医学のお医者さんが、仕事や生活のなかでたまったストレスの解消をするために、子どもの頃に遊んだことでそれを解消する、という記事を発見。
 だとしたら、数年に一度のプラモデル衝動というのは、精神的なストレスが相当たまった状態だということになります。いわれてみると、思い当たることもあるようなないような。

 休みの日にはクルマやバイクをいじる、日曜大工をする、キャンプにいく、料理をする、買い物をするという話はよく聞きます。はやり言葉でいえばデトックス、精神的排毒行為というやつかもしれません。
 ボクの従兄弟の歯医者はストレスが溜まると、真夜中にいきなりカレーを作り出します。
 ただ料理とか日曜大工などは実益があるからよろしい。プラモつくって、ぜんぶポルコを乗せるって、作ってる本人が理解できないんだから、どうしようもありませんよ。
 など、独り言をつぶやきながら、ポルコ完成。

 完成したとたん、すっかり、熱がおさまったね。
 憑き物が落ちたように、プラモに興味がなくなりました。やっぱ、ストレスだったのかしら。

 宮崎駿監督も映画製作の最中はそうとうなストレスを抱えながらお仕事をされていると伺っております。

 自分の映画を作っているとき、音楽などを入れるスタジオが宮崎監督がいつも使われているスタジオだったことがありました。ぐうぜんにも部屋も同じだった。

 「いまこばやしさんが座ってるところ、宮崎監督もいつもそこに座られておられるんですよ」

と、スタジオのオペレーターが教えてくれました。

 「あやかりたい、あやかりたい。ヒットにあやかりたい」

 と、ワタクシ、ソファに頬ずりしました。

 「宮崎監督はソファに座らず、いつも床に座り込むんです」

 「ここ? ここ? あやかりたいあやかりたい」

 「このまえ監督は、目の前のテーブルに食玩のフィギュアを並べて遊んでましたよ」

 スタジオで食玩!? フィギュア!?

 スクリーンモニターを目の前に音楽やセリフをチェックしながら、すきまに食玩フィギュアで遊ぶ監督。
 同じ場所でそれを想像した時、宮崎監督もとても苦しんで作っておられるんだなあ、と思いました。それ聞いて、ワタクシ、なおさら宮崎駿監督が好きになりました。毎度自分の趣味で映画を作るわけにもいかないでしょうけれど、だからこそ「紅の豚」はご本人も好きな作品じゃないかなーと思うのです。

 と、今回こんな変な話を書いてしまったのは、

 プラモを作りたくなってきた自分を発見!

 しかし、精神的になんかたまってる自分がいる、と自覚できるようになっただけエライぞ、オレ。
 次はスターウォーズのミレニアムファルコン号をまっ赤に塗って、「紅の豚」にしてやろう。

 もちろん、ポルコは乗せて。

 けっこうデカイ。

(2016年11月5日記)


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