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ポケモンガオーレなるものの記録 ~娘との休日~

見参!ポケモンガオーレ

“怪物と闘う者は、自らも怪物にならぬよう、気を付けるべきである。
深淵を覗き込む者は、深淵からも覗き込まれているのだ”
― ニーチェ ―

【遭遇】

遡る事数か月前―
その日は夜遅く午前0時過ぎであったであろうか、いつものように帰宅しネクタイを緩め…、
ソファーに深く座る。ふと机の上にプラスチックであろうか、分厚いカードが数十枚。

子供のおもちゃは確実に片付けさせてから寝る習慣のあるママなので、『珍しい…』机におもちゃが出たままになっている。疲れて寝たのか、娘の物であろうか。

カードをよそに、お湯を沸かしお気に入りの珈琲豆を削り、ドリップする。粉が膨らむ。アロマの香りに身体が癒される。

祖父から受け継いだブラジル好きなのではあるが、今回の豆はケニアにした。ミルクを入れるか迷うとこではあるが、今夜はブラックで楽しむ…苦い…。

苦味が身体を覚醒させる。珈琲豆をこのように飲み物にしたのは誰なのであろうか。苦味は旨味の裏返し。昔は理解出来なかった鮎の内臓やサンマの内臓、サザエの肝、ウナギの肝…

これらが美味しいものと感じる人間の味蕾の神秘を感じる。

なぜか子供の時に嫌いだった物が大人になると食べられるようになる。珈琲もそんな一つだ。ケニアの大きく雄大な夕日を夢想する。

一息ついてふと視線を机に向ける。そういえば…このプラスチックは何なのだろうか。
疲れた身体に珈琲を流し込む。カフェイン中毒さながらに覚醒を得、一枚手に取って見る。

アシレーヌ?ボスゴドラ?コイキング?あ、ピカチュー…さてはポケモンの新しい遊びか。なるほど、娘がまた新しい遊びを手に入れたのだな。

翌朝、いつもは一緒の時間に起きてこない娘が飛び起きてくる。
『パパ見た!?』
『何を?』
『カード!!』
『カード??』
『ガオーレカード!!』
『あ~机のやつね』
『昨日○○ちゃんにディスクもらった!、ポケモンガオーレ、知らない??』
『もちのロン、知らんよ』
『行きたい!ガオーレしに行きたい!』
かくして娘のお願いには逆らう術を持ち合わせていないパパの週末はポケモンガオーレ確定となる。

どこにあるものなのか…ポケモンガオーレ。WEB検索では近場に数か所ある。ポケモンガオーレをするにはガオーレパスを買うといいらしい。

大きくなった息子からポケモンは『相性見るといいよ』と、意味が分からないアドバイスをもらい、いざ!

一組の親子が先にいたので観察する。なかなか迫力がある。アーケードゲームと言われていた時代にはここまでのものは…ゲームから足を洗い幾年月、隔世の感を禁じ得ない。

順番が到来、ガオーレパスへの登録が終わる。娘はバトルしてゲットコースを選ぶ。自分の出したいディスクを二か所差し込んでQRコードを読ませる。すると自分のポケモンが登場。

なるほど。

しかし、なぜだろう…こんな子供だましのゲームに少し気持ちが高ぶる。

この気持ちの高ぶりは、いつ以来であろうか考える。初めてゲーセンでグラデュウスに遭遇した時以来?いやいやファンタジーゾーン以来か…。あの頃、あの感動を与えてくれた1980年代後半のアーケードゲームを今置いてほしいなぁ。

松下幸之助曰く『商売は感動を与える事である』と。あの頃は本当に何事にも感動をもらえた時代であった…。と、元気に小走りする娘の後姿を見ながら自身の少年時代を回想する。

娘は『ミュウ』なるものが欲しいらしい。

一回戦、二回戦、しかしミュウは現れない。欲しがるので捕まえたポケモンのディスクをとりあえず出す。気合がたまる。システムが良く分からない…。

ひたすらバンバン叩き続ける娘。熱い暑いアツイゲームだ…。

3戦目にして、ついに『ミュウ』なるものが登場。サイコキネシス??ポケモンってただのモンスターだろ??たいあたり攻撃や飛んでくる攻撃などは分かる…。しかしカメハメ波みたいなものは??人間が食らったら間違いなくお陀仏間違いなしだろ!!??

ポケモンの攻撃のすさまじさに人類存亡の危機を感じつつ、何かふつふつと体内の奥底から忘れていた感覚が甦る…。

『取りたい…取りたい…取りたい…どうしても取りたい』

鴨長明の無常観から遠のいていく…。
仏法での『三毒』の一つ貪欲に足を踏み入れたというところか…。
100円玉が溶けていく…。
任天堂の仕掛けた深淵に…融けていく…。

あ~全然叩けてない…できれば俺が叩きまくりたい。ディスクを眺め思案する…相性とはこのマークのことか…。

娘を運動会以来、心から応援する。
叩け叩け連打しろ! あと5秒…。モンスターボールでは…。
『欲しい…強いディスクが欲しい…技が欲しい…強い技が欲しい…』

『こうかはばつぐん』たまらない…素直に嬉しい…なんて心に響く言葉…。心がざわつき始めた…。心が『☆5』を求めだした。あ~めくるめく気持ち…。

旦那が元ゲーマーとは微塵も露ほども知らない嫁も、もう誰も止められない。

帰り路に娘が言う。
『でんせつ欲しかったね、まぼろしも欲しいね』
『娘ちゃん、任せなさい、来週から本気で行こう!!』

ポケモンガオーレという怪物を恐る恐る覗いてしまったその日…。
そう、あの日から『☆5』を求める深淵への旅が始まるのである。

“真の男の中にはひとりの子供が隠れている。この子供が遊びたがるのだ”

― ニーチェ ―

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