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仙人の私服がジーンズにしまむらトップスだった滝行の話

滝行が終わって帰ろうとすると私服に着替えた仙人が話しかけてきた。
さっきまで真白い道着を着ていた仙人、だいぶギャップがありますねとツッコミをしてしまった。アメカジ風のそのロンTは西松屋で買ったのだと言う。
西松屋、、、子供服では、、?友達が隣で驚いていると、ちょっと待ってなんだったっけ?と弟子のところへ聞きに行く73歳の仙人。結局そのロンTはしまむらだった。


身を清めるとか禊だとかで滝行に行く人がいる。
私が滝行へ行く理由はこうだ。
"滝に打たれるとどうなるのか体験してみたい"
それは未知の世界へいく感覚だった。滝の先に何があるのか。何かが変わるとか気持ちを入れ替えるとかは特に期待していない。
ただひとつだけ言いたいのは大真面目に取り組む気が満々だということ。

朝10時半。到着して早々に仙人は現れた。
仙人はまさに想像した通りの仙人で長い白髪に長い髭で、法螺貝を吹いて山を歩いていった。

そして私達は道着に着替えて謎の儀式を行い滝へ向かった。
この謎の儀式も至って真面目だ。
片膝を前に出しエイッオーと声を出しながら両手の拳を突き出す準備運動。仙人から手の平に出された謎の粉は身を守ってくれるらしい。塩と酒を全身にふりかけてお清めをし、四方に指で"九"を描き結界を張る。

それから、"念彼観音力"。
念ずると、氷の中にいれば温泉になり火の中にいれば水になるそうだ。とにかく危険な目に遭ったときは唱えるといいと、仙人は実体験と共に語った。
両手指でニの形を作り胸の前でクロスをして"念彼観音力"を念ずるのだそうだ。
とにかくやってみるしかない。私もやってみた。
「念彼観音力!」これも大真面目に取り組んだ。

まだ滝行へは進めない。次は安全祈願とお祓いだ。お札に願い事と反省を書くのだが、何も考えてこなかったのでその場で思いついたことを書いた。お祓いが終わったら滝の入り方を教わり、いよいよ滝行が始まった。

夕日の滝という名だけあり、高さ23mの滝口に太陽が沈んでいく姿は神秘的だった。
ゆっくり眺める余裕もなく、その場にいる20名ほどの滝行メンバーは3グループに分けられ、私達は1番目のグループで入水することになった。
グループの私達以外は何度も滝行をしている先輩なので心強かった。色々とアドバイスもくれた。

水温は12度。サウナの水風呂より冷たい。
竹の棒で自分の体を支えてエイッと言いながらまずは肩まで浸かる。この時点でもう足の感覚はない。滝へ近づいたら後ろ向きになり滝の真下へ後退りしながら入っていく。1分半を2回。
この時のことはあまり覚えていない。1分半が長いのか短いのかも。とにかく23m上から流れる滝は力強くて冷たくて声を出していないとうまく呼吸ができない。先輩達のエイッ!エイッ!という掛け声に必死でついていった。
水の音しか聞こえないなか自分の呼吸と体を支えることだけ考えていた。

無心で水と共に生きている、そんな感じだ。


結局先輩達は1分半が終わっても滝から上がってこなかった。


帰りの車で仙人の弟子が撮ってくれた写真や動画を見て思う。

私ほんとに滝に打たれてた?

とても現実とは思えなくて、その時の記憶も上手く思い出せない。夢を見ているような、自分主演のドラマのワンシーンを見ているような。


あれはなんだったんだろう。夢?


でも、終わったあとのさわやかな疲労感は確かにあって動画を見返すと涙が出るほど笑えてくるのだ。不思議な体験だった。
一緒に滝行をした友人2人とはなんともいえない絆が深まったし、友人のひとりなんて人間は滝行を経験したかしていないかの2種類に分けられる、その位の体験だったと言っていた。
本当に、あの時間の私達はなんだったのだろう。
あの場所はなんだったの?不思議で仕方ない。動画の中の私は確かに真面目に滝行している、それが面白い。
何度も言うけど、これは夢?

余程のことがない限り滝行へはもう行かないと思う。
念彼観音力はいざとなったら使ってみようか。

滝行の先にあったものは大満足、大爆笑だ。

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