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赤スズメ


空に一点、赤が灯った。
鳥のように見えるそれは小型飛行機『赤スズメ』である。
だが、その飛び方はいささか不自然であった。
それもそのはず、片方の翼がもげているのだ。
赤スズメはゆらりゆらりと揺れながら群青の空を落ちていった。


はあ、とため息をついた私に蜜柑が鋭い目を向けた。
その蜜柑もはあ、とため息をつくとそばに腰を下ろしてくる。
柑橘姉妹なんて呼ばれる私たちは飛行機の操縦士だ。
それも、トップシークレット。
まあ、詳しくは言えないのだけど。
「せとか、これからどうするつもり?」
「ん〜とりあえず、野宿かな。でも、蜜柑には酷かな?」
ニヒヒと笑って私は返す。
その通り、私の名前はせとかだ。蜜柑の種類。
でも、普段はコードネームを使っている。
だって、極秘任務だもん。コードネームがあるだけで誇らしくなる。
蜜柑にそういうと「バカじゃん」と返された。
私のコードネームはネーレッド。
蜜柑のコードネームはキツだ。
ちなみに、ネーレッドはネーブルオレンジをもじっている。
私たちの操縦する飛行機の名前が赤スズメだから。
私は赤スズメに目を向けた。
今話題に登っているその飛行機は無惨な姿にある。
片方の翼がもげており、先頭部分もひしゃげてしまっている。
もうわかったかもしれないけど、私は今遭難している。
助けを呼ぶこともできるが、トップシークレットが全てバレてしまう!
そんなことになったらクビ確定。
というわけで、今私は蜜柑が赤スズメを治してくれるのを待っている。
とりあえず、散歩でもするか。
重い腰を上げると、靴から砂がこぼれ落ちた。
「み……いや、き、橘。探索してくるね〜」
ゲゲッ。橘はコードネームの件についてすごく厳しいんだった。忘れてた。
私は散歩を探索という名目に変えることにする。
この状況で散歩なんていったら生きて帰れるかどうか。
この島は全体的に森だ。
最初に探索した時は人もおらず、動物もいない、無人島のようだった。
べつに、海賊のお宝が眠っていそうな火山があるわけでもない。
ごく普通の島。
「でも、スリルあったほうが面白いよね〜なんかないかな」
「あるよ」
えっ?
ぽろっと口から溢れた言葉に反応した声があった気がして口を塞いだ。
この島は無人のはずなのに……!
辺りを見回すけど特に何もなかった。
熱探査メガネをつけてみるけど、特に異常は見当たらない。
でも、この島はなんとなく不気味だ。
さっきの言葉は取り消し。
スリルとかどうでもいいから、早く出たい。
強気の私がそんなこと言ったら橘は驚きまくって卒倒するだろうか。
私は熱探査メガネを外し、固まった。
視線の先にはありえないものがある。
「なんで……」
なんで、ここに家がある?

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