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「女芸人No.1決定戦 THE W 2021」をふり返る

ことしで五回目を迎えた「女芸人No.1決定戦 THE W」。熱心に観るようになったのは第三回ぐらいからだけれど、今回は特に面白かったと思う。「M-1 グランプリ」や「キング・オブ・コント」のファイナリストはいまだに男性芸人が中心だ。分母からして違うとはいえ、この偏りはとても残念だと思う。だから女性芸人の中から頂点を選ぶ「THE W」は非常に意義深い大会だ。一方、「M-1 グランプリ」や「キング・オブ・コント」のような賞レースに比べると、まだまだ大会としてのシステムは未熟だ。今回、審査員枠がひとつ増え、その男女比がほぼ半々になったり、「国民審査」を導入して敗者復活の救済枠を追加したり、随所に工夫は見られたものの、不満の残る構成ではあった。詳しくはあとで触れるが、やはりこのシステムのまずさが毎回大会後に「議論」を呼び起こし、少々の後味の悪さを残していると思う。番組全体の問題点を指摘する前に、まずは各芸人のネタについて振り返ってみよう。

Aブロック−1.ヨネダ2000

ヨネダ2000のネタは初めて見た。まだ結成二年目だが、ことしのM-1でも準決勝まで進んだ実力者だ。向かって右の愛は風貌からしてボケかと思ったが、つかみでツッコミをする。じゃあ左の清水がボケなのか…と待ち構えていると、愛はひたすら「どすこいどすこい…」しか言わない。すると清水もこのリズムに呼応するように左へ右へ舞台の上を暴れまわる。登場人物が増えてきていよいよ追いつけなくなってきたぞ…というタイミングで「どすこいどすこい…」のシステムを生かしたおじいちゃん救命作戦が始まる。言葉に起こしても意味不明だが、最後は音楽を聞いているような楽しさがあった。トップバッターですぐ敗退してしまったのが勿体ない。もうすこし練度が増せばM-1でもいい位置につけそうだと思った。

Aブロック−2.紅しょうが

上方の正統派しゃべくり漫才、という印象。去年は惜しくも準優勝。前に見たときより掛け合いがスムーズでこなれた感じがした。しかし、M-1で三回戦止まりなのも、毎年「THE W」で結果を残しても優勝まで至らないのは、失礼ながら納得してしまう。すごく楽しいし安定感があるんだけど、賞レースで爆発するタイプではないと思ってしまった。いろいろな芸人が出てくる劇場のライブで出会ったら絶対に「当たりだ!」ってうれしいタイプのコンビ。でも、あまりにオーソドックスかつパッケージとしてまとまっているからこそ、そこで行き止まりなのかもしれない。あとボケの熊元のビジュアルや「女」ネタで差別化を図る戦略も個人的には好みではない。語弊があるかもしれないが、彼女たちの面白さで「女芸人」をわざわざ前面に出す必要があるのだろうか。

Aブロック−3.茶々

はじめて名前を聞いた芸人。芸歴も二年目、ゴールデンのテレビ番組に出るのもこれが最初。「THE W」はわりとこういうネタ番組にすらあまり引っかからないような芸人をフックアップしてくれるから面白い。ネタも好みだった。正直、僕はピン芸人のコントネタが苦手なのだが、茶々は日常に潜む狂気の彩度がすばらしい。素人くさい風貌がこのネタの味わいにマッチしていると思う。こなれた芸人が同じ題材でやってもこうはならないだろう。「電車で向かいに立つ親子と張り合う」というシチュエーションの選択も良い。もしかしたらこういうヤバい人とあした電車で出会ってしまうかもしれないという恐怖があった。他のネタも見てみたい。

Aブロック−4.TEAM BANANA

個人的にAブロックでいちばんのお気に入り。こちらも紅しょうがと同じく掛け合いのテンポとボケのセンスで見せるタイプのしゃべくり漫才だけど、視点の意地悪さが好みだった。「西武新宿線に偉い人は乗ってない」のフレーズの鋭さよ。TEAM BANANAと紅しょうがの一騎打ちあたりから大会のギアがひとつ上がり、緊張感も高まってきたのではないだろうか。ただ、ヨネダ2000やAマッソと比べると、フレッシュさはないかもしれない。もうすこし芸歴が浅いうちに出てきていたら…と思わなくもない。

Aブロック−5.オダウエダ(1回目)

シュールなネタ。この時点でそんなに好みではないなあと思った。あえてなのかもしれないけどボケの小田は声の出し方や抑揚が平坦だし、植田のツッコミはもうすこし勢いがほしい。こういう雰囲気ならもっとパワーで押し切ってくれる方が好みだ。自分たちが面白いと思うことを貫いているな、という熱意は感じたが。TEAM BANANAを踏まえてのAブロック最後の挑戦者、かつ、対戦相手は正統派漫才の紅しょうが…というシチュエーションがうまく作用したと思った。彼女たちが最初に出てきたらもっと結果は変わっていたかもしれない。

Bブロック−1.天才ピアニスト(1回目)

AブロックはTEAM BANANAが好きだけど、天才ピアニストのBブロック用のネタは、今回の全ネタ通していちばん面白かったと思う。「ドアの開閉テストをするのに余計な小芝居を挟むおばさん」という設定。これで最後まで押し切ってずっと楽しいのがすごい。つかみでぐっと引き込まれたし、ゾンビのくだりで「あるある」を挟みつつ、おばさんの微妙にずれたセンスでそこをどんどん裏切っていくのがいい。ますみの表現力あってこそだが、ツッコミの竹内もシンプルで聞きやすい。「キング・オブ・コント」でも戦えるコンビだと思った。これを機にいろんなネタ番組に呼ばれるようになったら嬉しい。

Bブロック−2.女ガールズ

今大会唯一のアマチュアトリオ。女性芸人のトリオ漫才といえばぼる塾(正確にはカルテット)だが、女ガールズはそのあとに続けるだろうか。面白かったけど特に新鮮というわけでもなく、さらに天才ピアニストの練られたネタのあとにこれだったので勝ち残りはキツイな、と思った。そもそもこれとオダウエダや天才ピアニストのネタをおなじ俎上に載せて点をつけろというのが無理な話なのだが。ツッコミがちょっと素人臭く、声が耳になじまなかった印象。しかし、三人で漫才をやる醍醐味にあふれたネタだと思った。

Bブロック−3.ヒコロヒー

優勝本命候補と言われたが、残念ながら天才ピアニストに完敗。「キョコロヒー」ファンとして応援していたので、無念さをにじませるヒコさんを見るのはちょっとつらかった。ネタ時間も限られている中、最初の三十秒ぐらい笑い無しでタネまきに徹する構成を選ぶのはさすがだと思ったし、後半の追い上げもすごかったけど、肝心な部分で噛んでしまったのが勿体なかった。偏見に偏見を重ねていくのはヒコロヒーの持ち味とはいえ、ほかの挑戦者に比べるとインパクト薄かったかも。裏配信のさらば森田による「大学じゃなくて音大ってワードにすればよかった」「準決のネタではあったさだまさしのくだりが抜けてた」等の指摘は興味深い。来年もまた出てほしい。

Bブロック−4.スパイク

去年無念の出場辞退となったコンビ。ずっと見ていられる面白さ。その分、展開の少なさが物足りなかった。つかみの漫画みたいな動き方は好きだけど、引っ張り過ぎだと思った。次はどんな笑いがあるのかな〜と待っている間に終わってしまった印象。ボケの暴れっぷりもこのあとのAマッソのほうが精度が高かった。これもやっぱり最初に天才ピアニストが爆笑をかっさらったのが大きい。Aブロック後半に出てきてたら、最終ラウンドに残る展開なくはなかったんじゃないかなあ。

Bブロック−5.Aマッソ

ヒコロヒーに並ぶ大本命。去年の「THE W」もきっかけになって2021年はブレイクの年だった。なんであのネタでゆりやんに負けるのか未だに納得いっていない。ことしはわりかしオーソドックスだけど、村上のバカバカしい畳み掛けがAマッソらしかった。天才ピアニストとAマッソの一騎打ちは本大会のハイライトと言えるのではないだろうか。「キング・オブ・コント」初の女性コンビファイナリストにいちばん近いのはまちがいなくこの二組だと思う。メチャクチャ笑ったし、加納の「はい、会社終わり〜」のツッコミは最高だった。


第一ラウンドを終え、決勝に進出したのはオダウエダとAマッソ。さらに今回から導入された視聴者投票の「国民審査」で天才ピアニストが復活。「THE W」は、絶対的な点数評価ではなく、相対的な勝ち負けで最終決戦進出が決まるシステムのため、「M-1 グランプリ」や「キング・オブ・コント」以上に出る順番、すなわち運で勝敗が決まってしまう。その欠点を補うための「国民審査」だと思われるが、今回はうまく機能していた。BブロックのAマッソか、天才ピアニストかのデッドヒートを経ての結果なので、視聴者も納得だったと思う。司会のフットボールアワー後藤のコメントを借りれば視聴者はこの試合の経過を「ちゃんと見ていた」のだ。


決勝−1.Aマッソ(2回目)

前回大会に引き続きプロジェクション・マッピング漫才。漫才もコントもありの「THE W」のフォーマットを最大限活かしたネタ。去年の雪辱を果たすべく、あえてこの大舞台にもう一度持ってきたのがカッコいい。情報量の多さで圧倒してくる。テレビで見たときに映えるネタでもある。ネタの骨組みの面白さに目を奪われがちだけど、漫才としてもちゃんと面白い。「なにそれ?」って思ってると次の掛け合いで答え合わせがされ、どんどん伏線を回収していく。見終わった後の満足もあったし、正直、全然これで優勝でもおかしくなかったと思う。ただ、結構好みは分かれるかもしれない。

決勝−2.天才ピアニスト(2回目)

第一ラウンドでいちばん「二回目が見たい」と思ったのがこのコンビ。期待通りの面白さだった。日常の「あるある」的な着眼点のセンスと、そこから一本の柱となるシステムを構築するテクニックが好みだ。今回はスーパーのレジの「休止中」の札がいい味を出していた。ますみのキャラ芸はもはや貫禄すら漂っている。ただ、ひとつ残念だったのは、尺の短いネタにもかかわらず何度も暗転を挟むため、笑いのテンポが落ちてしまったことだ。舞台やライブに行くたびに思うのだけど、ああいう静かにならなくちゃいけない瞬間が僕はとても苦手で、気まずくなってしまうのだ。せっかく体が温まっているのに、アイドリングしている間に熱が冷めてしまう。三票目が入らなかったのはそこではと思う。

決勝−3.オダウエダ(2回目)

1回目のネタでも思ったけど、オダウエダはそんなに好きではない。「カニのストーカー」という設定は好き。ただ、そこから突き抜けるものはなかった。僕はこの手の世界観なら勢いを求めたくなる。しかし、一回目とはボケとツッコミを入れ替えているのがいい。正直、会場の雰囲気も視聴者の期待も「Aマッソと天才ピアニストの一騎打ち」っぽかったので、僅差の勝利だったとはいえ、だれもがこの結果には驚いたと思う。彼女たちの優勝を否定はしないが特に歓迎もしないというのが僕の正直な感想だ。


だれが優勝するかは大会の流れや当日の客席のコンディションにもよるので、結果は結果として受け止めるとして、気に入らないのが日本テレビの大会運営だ。優勝のご褒美が「自局の人気番組行脚」という傲慢さ。3時のヒロインをブレイクさせたので結果は伴っているのだが、新しいスターを育てて自分たちで囲い込んでやろうという意図を隠そうともしない番組構成の品のなさは、さすが汐留と感服するほかない。さらに、間に番宣を挟むせいで大会としての緊張感が極端に薄い。「THE MANZAI」や「IPPON グランプリ」の方がバラエティ番組として「格調高い」印象を受けるのはいかがなものだろう。番宣を挟みまくった結果、優勝の講評もオダウエダのコメントもろくに流さないまま時間切れを迎えた構成のまずさは、正直オダウエダのネタよりもぶっ飛んでいた。素人が作っているのだろうか。

そもそも審査員の座長がヒロミの時点では格好がつかない。ダウンタウン松本人志が「顔」となっている「M-1 グランプリ」や「キング・オブ・コント」とは異なる独自路線を打ち出したいのはわかる。でも、「これは難しいねえ」しか言わないヒロミの採点を、観客はどこまで信用するだろうと思う。ただ、これはヒロミやその他の審査員だけのせいではない。より問題なのは「勝ち抜け方式」の採用だ。「M-1 グランプリ」や「キング・オブ・コント」は採点方式をとっており、順番によって多少の影響を受けるとはいえ「絶対評価」の大会だ。一方、「THE W」は勝ち抜けた芸人とネタを披露した芸人の「相対評価」になっている。だから審査員の評価基準も見えにくいし、なぜその芸人が勝ち上がってきたのかの理由も見えにくい。天才ピアニストがヒコロヒーに7対0で勝ったのと、女ガールズに6対1で勝ったとき、ヒコロヒーが女ガールズより審査員の評価が低かったかと言うと、おそらく違うだろう。友近が天才ピアニスト:ヒコロヒーを80点:20点で評価して天才ピアニストに投票したのか、それとも51点:49点で投票したのかは、投票結果だけ観てもわからない。だから審査員の評価軸が一定に見えず、その場のノリで選んでいるように(少なくとも僕には)見える。

さらに「勝ち抜け方式」であればブロック全体の評価で一位を決められるのかと思いきや、今回大会ではA,Bブロック共に最後の芸人が決勝進出を決めている。「M-1 グランプリ」や「キング・オブ・コント」以上に出順の影響を受ける可能性があるシステムなのだ。ことしから「国民審査」を取り入れたのは、この評判の悪さを受けてのものだろう。ある程度機能はしていたが、「相対評価」のまずさを取り返すほどではない。「採点がおかしい」で論争が起こるならまだしも、大会のシステムで毎回のように文句が出るのは「THE W」ぐらいのものだろう。ただ、ネタの披露中、中途半端に審査員の反応を映したりせず、ずっとステージを移し続ける演出は良かった。本来はどの大会もそうあるべきなのにできていないのが残念だ。結局、大会への愚痴ばかりになってしまったが、僕は天才ピアニストの今後の躍進に期待したいと思う。そして、いよいよ今週末は「M-1 グランプリ」だ。

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