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「新・小説のふるさと」撮影ノートより『TUGUMI』

それほど離れていたわけではないのに、再会の時は不安と気恥ずかしさで少しぎこちなくて、率直なきもちになる。死んだ愚猫はいつも、けだるい午睡から目覚めるとこちらの顔をのぞき込んでにゃぁと鳴いた。あたかも違う時空から舞い戻った友達にまた会えたねと言うように。
真っ青な空に白い波を蹴立ててちいさな高速艇が突堤を大きく巻いて土肥の港にはいってる。
この小説のファンならば、せずにはいられな「まりあ なりきりツアー」はこうして始めることがで きた。「できた」と書いたのは残念ながらこの高速艇ホワイトマリ ンの航路は廃止されてしまったからだ。
つぐみはこの港で首を長くして、まりあの到着を待っていた。その気持ちを悟られぬように口をついて出る毒舌の歓待。かけがえのない夏のはじまりを予感させる再会がそこでなされる。そして閃光のように光 って、やがて消える強烈な夏は何を まりあ と つぐみ に残したのだろ う。それは一つの確信。その後二人はそれぞれの道を歩むが、あの気恥ずかしくも爽やかな再会のやりとりをきっとい つかまたするであろうという確信。伊豆の海がまだぎらりと光る夏の日に二人はそれを心にやきつけたのだとおもった。
#リコーイメージングスクエア新宿
#TUGUMI
#よしもとばなな

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