見出し画像

欧州評議会「デジタル・シティズンシップ教育研修資料集」

欧州評議会は「デジタル・シティズンシップ教育研修資料集(Digital Citizenship Education Trainers' Pack)」を公開しました(有料)。これは、デジタル・シティズンシップ教育を担う教職員やNPOスタッフ、保護者、学生などのために用意された資料集です。研修の具体的な方法がまとめられており、日本でも活用できるでしょう。冒頭部分を訳したので、下に掲載します。なお、デジタル・シティズンシップの10の領域については筆者の「デジタル・シティズンシップとシティズンシップ教育」をあせてご覧ください。

デジタル・シティズンシップ教育の優れた研修者になるためには、他の分野の研修者やファシリテーター以上の数多くの専門的スキルや知識、理解が必要になります。特に、専門家ではない人たちと仕事をすることになるため、デジデジタル・シティズンシップ教育の性質や目的、中心的な概念や実践を十分に理解し、さまざまな人にわかりやすく説明できることが重要です。次のセクションでは、重要な用語の定義と、デジタル・シティズンシップ教育の重要な概念と実践についての基本的な紹介をします。

スクリーンショット 2020-07-21 1.11.19

デジタル・シティズンシップとは?
デジタル・シティズンシップとは、デジタル技術の利用を通じて、社会に積極的に関与し、参加する能力のことです。デジタル・シティズンシップは、コンテンツの作成や公開、交流、学習、研究、ゲームなど、あらゆるタイプのデジタル関連の活動を通じて表現することができます。効果的なデジタル・シチズンシップは、幅広いデジタル・コンピテンシーに加え、オンライン消費者意識、オンライン情報とその情報源の批判的評価、インターネットのプライバシーとセキュリティの問題に関する知識など、デジタル・シティズンシップに特化した能力も求められます。また、他者の尊重、共感、民主主義や人権の尊重など、幅広い一般的な市民活動能力にも依拠します。
デジタル・シティズンシップ教育とは?
デジタル・シチズンシップ教育とは、若者が効果的なデジタル・シティズンになるために必要な能力を身につけることを目的とした教育です。デジタル・シティズンシップ教育は、若者に特定の信念を受け入れたり、オンライン上の特定の政治活動に参加するよう説得することではありません。むしろ、新しいテクノロジーがもたらす機会を考慮し、情報に基づいた選択ができるようになることを目的としています。
なぜデジタル・シティズンシップ教育なのか?
若者たちによるICTの普及は、デジタル以前の時代には存在しなかったまったく新しいシティズンシップの問題と可能性を切り拓きました。若者が「デジタルネイティブ」であったとしても、新しいテクノロジーが生活にもたらす影響について、市民として、あるいは社会の一員として理解しているとは限りません。また、家族や友人を通じてこのテクノロジーの恩恵を受ける人と、中途退学やいじめ、ネット荒らし、フィッシング、過激化の犠牲になる人との間に格差が広がっています。効果のあるデジタル・シティズンシップ能力は、自動的に身につくものではなく、学んで実践する必要があります。教育は、若者がインターネットのリスクや落とし穴から身を守るだけでなく、積極的なシティズンとして、社会のためにデジタル技術を積極的に活用する方法を理解させることで、若者たちがこれらの能力を身につけることができるよう支援するために重要な役割を担っています。
デジタル・シティズンシップの10の領域とは?
効果的なデジタルシティズンになるためには、若い学習者は多くのデジタル・シティズンシップの能力を身につける必要があります。欧州評議会デジタル・シティズンシップ教育専門家グループは、デジタル・シチズンシップ能力の10の領域を提示しました。これらの10の領域は、多様な民主主義社会での生活のための教育の基本的な構成要素であるRFCDC(Reference Framework of Competences for Democratic Culture)に基づいており、そこから派生したものです。民主主義文化能力と同様に、デジタル・シティズンシップの各領域は、価値観、スキル、態度、知識と批判的理解の組み合わせで構成されています。それらは主に3つのカテゴリーに分類されます。

1 オンラインであること
2 オンラインでのウェルビーイング
3 オンラインでの権利
このように、デジタル・シティズンシップの10の領域は、それぞれ次のようになっています。
1 オンラインであること
 ・アクセスとインクルージョン
 ・学習と創造性
 ・メディア情報リテラシー
2 オンラインでのウェルビーイング
 ・倫理と共感
 ・健康と幸福
 ・イープレゼンス&コミュニケーション
3 オンラインでの権利
 ・積極的な参加
 ・権利と責任
 ・プライバシーとセキュリティ
 ・消費者意識
各領域のコンピテンシーに関する簡単な説明は、欧州評議会のリーフレット「デジタル・シティズンシップ教育ハンドブック」に掲載されています。
デジタル・シティズンシップ教育の教育方法は?
市民、または社会の一員になるための準備は、家庭での家族、仲間、地域社会で始まります。同様に、責任あるオンライン上での行動のための教育は、ノンフォーマル教育を含む数多くの機会が想定できます。学校の責任は、デジタル・シティズンシップのためのノンフォーマル教育の基盤を構築し、それを構造化し、若い学習者をより高いレベルの理解とより洗練された実践の形態へと導くことです。学校は、保護者と協力しながら、生徒がオンラインとオフラインの両方で、より責任感を持った効果的な市民や社会の一員になることを学ぶために、より積極的な方向性を示すことができます。
学校はどのようにデジタル・シティズンシップ教育にアプローチすべきか?
デジタル・シティズンシップの能力は、技術的なスキルや知識だけではなく、価値観や態度も含まれています。そのため、学校にとってデジタル・シティズンシップ教育は、カリキュラムにおける教科以上のものであることを認識することが重要です。デジタル・シティズンシップ教育は、ホール・スクール・アプローチ(whole-school approach) として考えるべきでしょう。デジタル・シティズンシップの学習機会は、市民教育やICT教育と同じように、日常の教科の中で生まれます。また、生徒会や保護者、外部・地域社会の組織との連携など、より広い学校活動の中でも学習機会は生まれます。したがって、デジタル・シティズンシップ教育を学校の年間教育計画に統合しつつ、あらゆる場面で学校のデータ管理担当者が関わる必要があります。学校のカリキュラムが過密状態になっている場合、こうした機会を作る一つの方法は、カリキュラム横断的な総合型学習や、午前・午後・終日の正規の授業を中断して特別なイベントや活動を企画することです。このような事例は、この資料集のパート4に掲載されています。
デジタル・シティズンシップ教育ハンドブックの使い方
デジタル・シティズンシップ教育ハンドブックは、デジタル・シティズンシップ教育についての知識を深め、研修活動をデザインし、実施するための主資料となります。ハンドブックには、デジタル・シティズンシップの10の領域についての詳細な説明が記載されており、それぞれの背景や実例を示すシートも掲載されています。ハンドブックからの抜粋をプリントアウトして、研修活動や事例への関心を高めたり、情報提供や議論の土台となる資料として使用することができます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?