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「にゃんこは見た!」〜あの夏の日〜

思い出すわ
夏になるとね。
あの日のことを。

・・・

ありゃまー。また外れちゃったよ。
「よいしょっと。」
フン♪フフン♪フンフーン♪

さっきまで寝ていた猫娘の三女が、棚の上から私を見て「みゃーお、にゃお!」と鳴いている。

あ、そうか「思い出して!」と言ってるんだね。

大丈夫、母ちゃんそんなにドジじゃないよ。

・・・

私は見た。

この家の娘になってから、初めての夏のあの日。

「ドーォーーーーーン!!」

とすごい音がした。
なぁに?なんの音?

恐る恐る音の聞こえた部屋の入り口から、そーっと覗いた。まだ子どもだったから怖くて遠くから見たの。

体育座りをして小さい声で何かを呟いている母ちゃんが見えた。

「………。うぅ…。た…てな………。」

後ろから、遊びに来ていたお兄ちゃんのお友達が飛んで来た。
「わぁ!!!」
直ぐにお兄ちゃんも飛んで来た。
二人で母ちゃんを抱えて起こしていた。

母ちゃんはヨロヨロと病院から帰ってきた。

「あのね、おサルの尻尾の骨がね、ヒビ入ったって。」
「は???」
お兄ちゃんとお兄ちゃんのお友達がポカンとしていた。

「イテテ。面目ない。」とお尻を押さえて恥ずかしそうに笑っている母ちゃんを私はテーブルの下に隠れて見ていた。

・・・

あの日、私は鼻歌を歌いながら椅子の上に立ち上がった。
日よけの簾をつけようとして。

背が低いのでグーンと手を伸ばし、なんとか窓枠の一番上に、引っ掛ける金具をつけた。
よしよし上手く出来たぞ!後は簾だ。
金具に引っ掛けようとしても届きそうで届かない。あと少しだ!つま先立ちになった。

そして落ちた。
両手を上に挙げたまま、お尻から盛大に落ちた。

立ち上がれない。
隣の部屋の息子を呼ぼうとしても声が出ない。後ろを見た。
家に来たばかりの仔猫の三女が耳を後ろにして背中の毛をギザギザさせて見ていた。

息子たちに抱えられ、なんとか立ち上がり病院へと向かった。

「サルの尻尾の骨がねぇ、ヒビ入ってますよ。」レントゲン写真を見ながら先生は言った。
「は?サルの尻尾ですか?」
「そうそう人間の祖先はサルだからね。お尻に尻尾みたいな退化した小さい骨が残っているのよ。コルセットもつけれないから湿布貼って暫く安静ね。」
「あのー先生、暫くってどの位で治るのでしょうか?」
「2ヶ月。」
「えー??」

・・・

私は見た。

母ちゃんはまたやらかすのでは?と。
棚の上からそっと見守る。

案の定、鼻歌を歌っている。
「みゃーお、にゃお!」合図をした。

私を見て母ちゃんは頷き、鼻歌を止め真剣な顔になって無事に日よけのオーニングをつけ終わった。

「ありがとね。」母ちゃんがニッコリして撫でてくれた。

(見守る三女。)

・・・

耳を後ろにして背中の毛をギザギザさせている仔猫の時の三女を描きました。

・・・

※おサルの尻尾の骨とは、尾てい骨のことです。
あの日、先生は「いやー、珍しい骨にヒビが入ったねぇ。お尻から落ちるとは!ハッハッハッ!でも、足首とかじゃなくて良かったね。」と笑っていたのを思い出しました。
私は座る度に「ぐほぉっ。」と変な声が出ていたのも思い出しました。

「にゃんこは見た!」シリーズ
第3話です。



読んでくださりありがとうございます! 嬉しくて飛び上がります♪ 私の心の中の言葉や絵を見て何か感じてくださればいいなと願いつつ。