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HappyBirthday♪ ToMe

対流式ストーブの18Lの灯油を買ってキャリーに乗せ、痛くない左手でガラガラと運びながら夜空を見上げた。
真ん丸がほんの少しだけ欠けたお月さまが見てる。
お月さまに話しかける。
「明日は私の誕生日なんだけどさ、その次の日から病院通いだから嫌なんだよね。病院にはさ、ホントは行きたくないんだよ。お誕生日が嬉しくない。」お月さまは何も返事をしないので、そのままトボトボと家に帰る。
ストーブを着けて冷えた体を暖める。


つい1ヶ月ちょっと前、
私はもう本当に生きている意味なんてない。周りの人達のみんなに迷惑をかけているだけだと思っていた。
ある日、家中にある、ありとあらゆる薬を大量に集め、ジッパーにパンパンに入れて、それを飲み込むための強いお酒もリュックに詰めて、私は海へと向かっていた。
あの時、たまたまメールをくれた天使のようなお友達がいたから、私は今も生きている。

高校1年生のお誕生日。
自転車でバイトから帰宅する途中、通り過ぎたバスの中に母にそっくりな女の人が座っている。
「誕生日だからお母さん帰ってきてくれたんだ!」家まで急いで自転車を漕ぐ。
家には誰もいない。「いるわけないじゃん。」と呟いた。

・・・・・

「ピンポーン♪」「はーい、どちら様ですか?」「…。」
玄関のドアの除き穴から見ても誰もいない。
帰宅したばかりの息子に出てくれる?と頼む。
息子の後ろからそーっと見てみると、天使のようにカワイイお友達が小さい体で両手いっぱいの荷物を持ってニコニコ立っている。

なんで?なんで?なんで?
ついさっきまでメールでしてたじゃん。1日中忙しかったって言ってたよ?
息子もニコニコしている。

「お誕生日おめでとう!1日早いけど。サプライズ!」

涙がドバーッと溢れる。
数日前からお友達と息子で連絡をとってサプライズしてくれたらしい。
二人とも忙しいのに、明日も朝早くからお仕事なのに。
とにかく中に入って!と家の中に招く。
私、スエットだし、スッピンだし、家も散らかってるけど入って。

いつの間にかコタツの上に置きっぱなしだった畳んだ洗濯物が片付けられていて、キレイにナプキンが敷かれ、その上にケーキ用のお皿が並んでいる。素早い息子だ。いつも脱いだ服がそのまま抜け殻のように置いてある人と同一人物だとは思えん。

お友達がケーキを出し、ロウソクを立てる。
私はここまででもう3回は泣いた。
「ハッピーバースディ♪トゥーユー♪」お友達と息子が歌う。また泣くよー。ロウソクを吹き消すと、カワイイ猫の絵の袋から、さらに猫の絵のエプロンなどが猫好きの私に手渡される。彼女の手作りの原毛フェルトの猫も出てきた。忙しいのにいつ作ったの?
息子は「まだ人生半分じゃない。これから何でもできるよ!」と笑う。
その後、息子は自分の部屋で黙々と美術制作していた。
紅茶を飲みながら私とお友達の楽しいお喋りは止まらない。



お誕生日の午前0時。さっきまで我が家にいたお友達と、前の職場の仲間からHappyBirthday!のメッセージが来る。前の職場の仲間はもうしばらく会っていない。なのにネットギフトでスタバのコーヒーをプレゼントしてくれた。
ドリカムのHappyBirthdayの歌かい?
(♪午前0時を過ぎたらー♪イチバンに届けよう♪HappyBirthday♪)
う、嬉しい。
その時、布団に入ってたから「これは夢かな?」と何度もほっぺたをつねる。朝起きたらほっぺたが赤く腫れた。

お誕生日の朝、息子と父のお弁当を作ってたら、息子の友達からメッセージが来た。
「今日、ケーキを持っていきます。」
息子の友達である可愛くて仕方ない第2の息子と娘がお誕生日を祝ってくれるらしい。
父からの朝の生存確認メールにも、「お誕生日おめでとう!」と書いてある。オトン、まじか…嬉しいじゃん。
洗濯物を干しに庭に出るとワンちゃんのお散歩をしていたママ友から「お誕生日おめでとう!」と言われる。
ふと、母が亡くなる1年前に、私のお誕生日に生まれて初めて母がプレゼントしてくれた、大切に宝箱にしまってあるピアスを思いだし、つけてみる。
耳でキラッと控えめに光っている。
父の家に娘訪問介護に行こうと玄関を出る時、また「ピンポーン♪」と鳴る。
別のママ友が「お誕生日おめでとう!」と、彼女の働いているパン屋さんの物凄く美味しいパンをプレゼントしてくれた。
父の家までの立ち漕ぎの自転車でウォンウォン泣く。
「あの時、海で死ななくて本当によかった。生きててよかった。」

父にお弁当を渡すと、今日は何かなー?と嬉しそう。
お弁当箱に「お父さん、今まで育ててくれてありがとう。これからも長生きしてね♡」というカードを貼っておいた。
父はそれを読み、「♪メッセージィーカァードーーォー♪」と言って嬉しそうにテーブルに置いた。
おにぎりとコロッケとポテサラとバナナを凄い速さでモリモリ食べる。「お父さん!食べるの早いよ!よく噛んでゆっくり食べてよね!」今日も反抗期の娘は怖いのだ。

息子と、息子の友達である第2の息子と娘のために夕飯の材料と猫のご飯などを大量に買い物したら自転車が重さに耐えられないようでフラフラ揺れる。半分リュックに無理やり詰め、安全運転で帰宅する。

息子の友達である可愛がっているもう1人の娘からもHappyBirthday!とメッセージが来た。

なんなんだこれは??
もう直ぐ玄関に「全部ドッキリでしたー!」チャチャーン♪と、看板を持っておじさんが現れるのかね??
やっぱり夢なの?と、もう1度ほっぺたをつねる。痛い。ほっぺたはまた赤くなる。

ウキウキと夕飯を作る。お友達がくれた猫のエプロンを着て。

甘めのボロネーゼ風ペンネと、ブロッコリー、春キャベツ、赤い大根、クレソンのピリ辛サラダ。
猫のエプロンに早速ボロネーゼをこぼし、必死でしみ抜きする。
スピーカーで心地よい音楽を聴きながら洗濯物を畳み始める。
「ピンポーン♪」「はーい、どうぞー!」
ニコニコと第2の息子と娘が立っている。
「お誕生日おめでとうございます!」
そりゃー泣くよね、お母ちゃん。
娘は時間をかけて、豪華でビックリして私の目が飛び出るほどのとっても美味しいご馳走を作ってきてくれた。息子はケーキを持ってニコニコしている。
もう、感激し過ぎて何が何だか分からない。
アワアワする。普段からデカイ声がさらにデカくなる。
娘の作ったご馳走と、私が作ったペンネを食べながらみんなで楽しい時間を過ごす。遅れて仕事から帰宅した本当の息子も久しぶりのお友達との時間が嬉しそうで、普段私には見せないリラックスした顔をしている。
「これさぁ、明日の朝起きたら、白い煙がモクモクして、白髪のおばあさんになるとかってオチかな?」と言うと「パンがないならお菓子を食べなさい。でしょ?」と息子。「なんで浦島太郎からのマリー・アントワネットなの?どっちも白髪ってこと?なんじやそりゃー。」みんなで笑う。

尊敬する大好きなママ友である、第2の息子の本当のお母さんからもお誕生日おめでとう!とメッセージがきた。

私には自分が産んだ子どもが1人。でも、小さい頃から家に来てくれて第2のお母ちゃんと思ってくれている(のかな?多分?)可愛い子ども達がいる。
大好きなお友達、たまにしか会えないママ友もいる。面白くて可愛らしい父と、遠く離れていても優しく見守ってくれている私とは正反対の厳格な兄もいる。にゃんこ娘も大切な家族だ。
みんながくれた幸せをこれからは私がみんなにお返ししたい。

私は私に、幸せなお誕生日だったね。「HappyBirthday♪ToMe」と歌った。

朝、病院への電車を待つ。
空を見上げても、どんよりとした曇り空でお陽さまも、もちろんお月さまも見えない。

「少し前まで生きてる意味はない。って本気で思ってたよ。でも今私はね、まだまだ生きていたい。お母さん聞いてる?そちらには当分行く気がないからさ、スーバーヒーローの可愛いおばあちゃんと昔みたいに親子喧嘩しながら気長にゆっくり待っててね。」

あの時、何も返事をしてくれなかったお月さまが素敵なプレゼントを私に運んでくれたのかな?

今日の病院も、明日の精密検査も、もう不安じゃないよ。
強い風に吹かれながら私はそう思った。

・・・

何の絵を描いたら良いのか?迷いに迷って、無痛分娩で私を産んだ母が、「強い麻酔が効いていたのに、凄い大きな声で泣いている赤ちゃんがいて、うるさい!!!って目を覚ましたら、自分の産んだ赤ちゃん、貴女だった。起きる直前に瞼の中に沢山のバラが見えたのよ。」と言っていたのを思い出して、産まれたての私を描いてみました。
いまだにみんなに声がデカイ!と言われる私。
ピンク色のお墓に入っているオカンよ。凄い泣き声で起こしてごめんよ。
バラに囲まれた赤ちゃんなんてロマンチックじゃん。
産んでくれてありがとう!

読んでくださりありがとうございます! 嬉しくて飛び上がります♪ 私の心の中の言葉や絵を見て何か感じてくださればいいなと願いつつ。