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〜アドバンス・ケア・プランニング はじめの一歩 第1話〜 ACPとは

母がステージ4の肺がんと診断され、少し落ち着いてきた頃。アドバンス・ケア・プランニング(ACP)について学び、今後の母の治療・介護方針を考えていくために、実践したいと思いました。

そこで、私のように闘病中の患者を支える人がどのようにACPに取り組んでいけばいいのかについて、杏林大学保健学部准教授でアドバンス・ケア・プランニング(ACP)など「人生における意思決定支援のあり方」を研究されている角田ますみ先生に、ACPとは何か・メリット・始め方を教えていただきました。

(ますみ先生のOfficialサイトはこちらです)


今回のnoteでは「ACPとはどういったものなのか」「ACPをスムーズに始めるためのALP」についてまとめています。

私のように治療が必要な家族を支えている方はもちろんですが、健康にすごしている方にもぜひ読んでいただきたい内容になっています。


ACPは「起きるかもしれない生活の変化に、そなえるための話し合い」

____ますみ先生、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)は、どういったものなんでしょうか。

ACPは何かというと「これから起きるかもしれない生活の変化に、そなえるための話し合い」です。

生活の変化で想像しやすいのは、病気や怪我などで治療や介護が必要になったときですね。それ以外にも一緒に住んでいた家族が就職したり、結婚したりして家を出たときや、同居していた家族が亡くなったときなど、人生にはさまざまな変化があります。

そういった変化が訪れたときに、自分自身がどういうことを望むのか、どういうことは嫌なのかといった、価値観や意向を自身の家族や近しい人、医療従事者、介護従事者と一緒に話し合うことが、ACPです。

日本では厚生労働省が「人生会議」とニックネームもつけています。

「プランニング」とか「会議」という名称なので「何かを決める必要がある」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、ACPで大切なことは「話し合うこと」です。

何かを決めるのではなく、話し合うプロセスがとても大切なので、話し合った結果何も決まらなくてもまったく問題はありません。

____てっきり何か治療が必要になったときに、どういう治療をするかについて話し合う場だと思っていたのですが「人生のさまざまな変化に備える話し合い」なんですね。

実は、ここについては研究者でも意見が割れています。狭い意味でのACPと考える研究者と、広い意味でのACPと考えている研究者がいて、答えは出ていません。

狭い意味でのACPとは、終末期や延命治療に関わるような治療や介護について、あらかじめ話し合っておくことになります。

私は広い意味でのACP、つまり治療だけではなく人生のさまざまな変化に備えることが大切だと考えています。なぜなら、終末期にいきなり「これからのことを話し合おう」といわれても、対応できない方ほとんどだからです。

終末期になってから話し合いを始めてしまうと、医療者から提示された選択肢の中から選ぶしかなくなってしまいます。そうなると振り返ったときに「あれでよかったのか」と思うケースが多くなるんですね。

だから、早くから家族や身近な人たちと自分の価値観について話し合っておくことが大切だと考えています。

アドバンス・ライフ・プランニングを実践することで、ACPにスムーズに移行できる

そうそう「将来の人生の変化について考えておく」という視点で考えると、アドバンス・ライフ・プランニングというものがあります。アドバンス・ライフ・プランニングを実践しておくと、ACPにスムーズに移行できるといわれているんですよ。

____アドバンス・ライフ・プランニング、初めて聞いた言葉です。どんなものなんでしょうか。

アドバンス・ライフ・プランニングはALPと略します。ALPは人生に起こるさまざまライフイベントを通じて、自分の価値観を明確にしていくことです。

人は生まれてから親の元で子ども時代を過ごし、小学校に入学してからは学生として過ごします。卒業すると社会人になり、結婚して配偶者ができたり、子どもを持って親になったりしますよね。

人生のステージごとに課題があって、それに対応していく。その度に自分の価値観を考えることで、少しずつ自分の価値観が明確になっていきます。

また、慢性の病気を持っている人の場合は、これらに加えて治療についても考えていくんですね。慢性腎臓病、不整脈や糖尿病などの慢性の病気は、すぐに入院して治療をしたり、介護が必要になるわけではありません。

最初は病気の影響をあまり感じずに元気に過ごせるのですが、あるときガクンと状態が悪くなる。それに対して治療を受けると少し良くなる。しばらくはなだらかな状態が続いて、またガクンと悪くなる……このようにジグザクと悪くなっていくんですね。ガクンと悪くなった時にその都度「どう治療するか」を考えていきます。

たとえば、腎臓病が進行してきて透析が必要になったとしてもすぐに人生が終わるわけではなくて、透析を受けながらどうやって仕事をし、家庭を支えて生きていくかを考えていくんです。

健康な人、ゆっくりと進行する慢性の病気を持っている人が「どういうことが好きなのか」「どういうことが嫌いなのか」ということを考え、価値観を明確にしていきます。そうしておくことで、医療や介護が必要になったときに、スムーズにACPに移行できるのです。

「介護経験や看取り経験がある」「自分の価値観が明確にある」「家族や身近な人とよく話をする」こういった人達はACPの必要性を感じやすいので、積極的にACPに取り組むといわれています。

また、ACPは医療者とも話し合うことが必要ですが、ALPは医療者はいなくてもいいんです。もちろん慢性の病気を持っている人は医療者と話すこともあると思いますが、健康な人は教育現場だったり、行政が開催している講座に参加したり。そういったことで、少しずつ自分の価値観を育てていくことができます。


____ALPは誰もが取り組んでおくとよい。そうすると、いざ医療や介護が必要になったときにACPに移行しやすくなるんですね。

そうですね。最初の方に「ACPはプロセスである」という考えがとても大切だとお伝えしました。好みや強み、価値観は人それぞれ違うものです。だからこそ、ALPに取り組んで「自分はどういう風に生きたいのか」を繰り返し考え、価値観の土台を作っていきます。

そして、いざ治療・介護が必要な状態なったらACPに移行します。そうすると医療者と話し合うときに自分の価値観をスムーズに伝えることができるので、医療者側も価値観に沿った治療方法が提案できますし、患者さんも価値観にあった治療方法を選択していくことができるようになるんです。

だんだんと「こういう状態になったときは、最初の1ヶ月は最大限に治療をしてほしい」とか「こういう状態になったら、無理な治療はしないでほしい」など、具体的な治療方針が固まっていったら、それが「アドバンス・ディレクティブ」つまり事前指示となります。リビングウィルやエンディングノートとも呼ばれるものですね。

繰り返しになりますが、ACPはエンディングノートを作ることが目的ではないんです。というより、ACPの段階では作れない人がほとんどです。

ACPでは話し合うことが大切。結論を出さなくても大丈夫。

____ACPをいう名称を聞いたときに、具体的な治療方針を決める会議だと思っていました。決めなくてもいいというのは意外です。

なぜ決めなくていいかというと、変わるものだからなんです。

たとえば、腎臓病の人が「透析はしない」と決めていたとしても、透析が必要な状態になるとすごく身体が辛くなるので「やっぱり透析をしたい」と考えることもあります。「延命治療はしたくない」と決めていた人でも、孫が半年後に結婚式を挙げることが決まったら、それには出たいと思うこともある。野球が大好きな人がワールドカップはどうしてもみたいとか。

土台となる価値観は変わらないけれど、目標ができることで求めるものが変わるんですね。

どうせ変わるからといって関係者と何も話し合っておかなければ、選べるはずだった選択肢を選ぶことができないまま治療が終わってしまうかもしれません。だから、意思決定の土台となる自分の価値観について、家族・近しい人・医療者と話し合うことがACPにおいてはとても大切なんですね。


___ACPを始めるからには「結論を出さなくてはいけない」と思っていたので、肩の力が抜けました。ありがとうございます。

それはよかったです。では、次回はACPを実践するとどんないいことがあるのについて、お話ししますね。


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