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昭和スターときらめく三羽烏|プロマイド店は毎日が恋する季節#01

日本で唯一の昭和スターのプロマイド店店員のおぼえがき。プロマイドを通してスターに思ったこと、お客さんとの思い出など、したためていきます。

浅草「マルベル堂」でアルバイトを始めて7年たちました。初めてレジの前に立った日、歴代売上1位のスターたちのパネルに囲まれて感じた圧と胸のざわめきは忘れません。

ビューティー・ペアの試合に興奮しすぎて祖父の脳天をかち割りそうになり(しかもアゴで…)女子プロ禁止令を出され、日曜お昼の「たのきん全力投球!」をテレビの前で息を殺して録音し、ジェットストリームをお願いひや~す!と言いながらマウンテンデューを飲んでいた世代の私。中高はバンドブームにどっぷり浸かり、20代はミニシアターや名画座に通って昔の日本をお勉強していたオタクだったので(今も隙あらば新文芸坐へ)、フリーランスの仕事もしつつのプロマイド店でのお仕事は、欲の深い私にはもってこいでした。

ただひとくちに昭和といっても64年もあり、大正10年創業のプロマイド店のお客さんは幅広いのです。修学旅行で寄って以来50年ぶりだよ!というような先輩もいれば現役の修学旅行生もいる。「○○ありますか?」と店頭や電話での問い合わせに正確に答えるのはもちろん、販売したプロマイドのスター名をその都度、所定の用紙に記入するという一連の業務があります。一時記憶と予備知識が物を言うこの業務、スター名を間違えるなどという失礼がなきよう、時に社内用「人名リスト」で確認しながら、時にお客さんに聞きながら、私たちは書きます。

最初のプロマイドといわれているのが松竹蒲田の“銀幕の女王”栗島すみ子さん。つづいて高峰三枝子さんや小暮実千代さん、原節子さん、松竹下加茂三羽烏の長谷川一夫さん、高田浩吉さん、坂東好太郎さんに松竹三羽烏の上原謙さん、佐分利信さん、佐野周二さんなど戦前から活躍していた銀幕スター、戦後の歌手・俳優にスポーツ選手、演芸人、そして80年代のアイドルまで、スター約2800名、そのネガは約8万5000版におよびます。7年働いていてもまだまだ、見たことのないプロマイドが眠っている。お客さんから教わることも多く、お店にいると日々勉強。

そんな中でスルーできなかったのが「どんだけいるんだよ三羽烏」問題。ある分野や集団で抜きんでて優れた3人を表す「三羽烏」ですが、昭和の芸能界には「三人娘」(スパーク三人娘、新三人娘に角川三人娘も)「御三家」「新御三家」もいて、そうしたカテゴリーで商品を管理しているわけではないけれど、これらはプロマイド店店員の初級知識。「ほら、あの三人のひとりの…」とお客さんが思い出しに詰まったときに、さっとお出しできてこそ。さあ、いきます三羽烏。

松竹下加茂三羽烏 長谷川一夫、高田浩吉、坂東好太郎
松竹三羽烏 上原謙、佐分利信、佐野周二
新松竹三羽烏 鶴田浩二、佐田啓二、高橋貞二(鶴田浩二の松竹退社後は大木実または川喜多雄二)
松竹三代目三羽烏 小坂一也、三上真一郎、山本豊三
戦後三羽烏 田端義夫、岡晴夫、近江俊郎
演歌三羽烏 村田英雄、三橋美智也、春日八郎
鶯芸者三羽烏 市丸、小唄勝太郎、赤坂小梅
宝塚歌劇(東京)三羽烏 淡島千景、久慈あさみ、南悠子

(敬称略)

プロマイドのあるスター烏ばかりこんなに!そもそも三羽烏って何?落語の「三枚起請」に出てくる熊野神社の三羽の烏と関係あるの?ああっ落語家にも三羽烏が!とここでまとめを参照。

https://matome.naver.jp/odai/2144645671909965501

古代氏族・賀茂氏が結成した「八咫烏」という祭祀儀礼を担う秘密組織があり(そもそも八咫烏は、熊野で神武東征を先導した神の使い)、その組織の中核をなすのが12人の十二烏、さらにその上に大烏と呼ばれる3人のボス烏がいたのだとか。そう考えると松竹が戦後まで三羽烏を絶やさなかったのも、初代が「下加茂」撮影所の三羽烏だし賀茂氏由来だったのか…とてもスキ分野の話でした。

芸能界以外でも、F1界のメルセデス三羽烏やら高校野球の○年高校生左腕三羽烏やらこの国は烏だらけ。空母の着艦三羽烏とかしびれる。いちばん古い三羽烏は明智光秀の家臣の明智三羽烏かな? これが四天王だとより神格化された感があるし、実力者4人がそれぞれの持ち場を固めているという印象。徳川四天王、ものまね四天王、ポケモン四天王…。

いまだにスポーツ界などでは「三羽烏」という言い方をするぐらい、日本人は三羽烏がすき。旅烏という言葉もあるように、どこか浮世離れしたヒロイックなものを日本人は烏に感じるのでしょう。モノクロの昭和スターには、三羽烏が似合うのです。

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