東大金融研究会とは

まさか自分の人生が金融で生きることだとは大学4年の8月まで思いもしなかった。遊び呆けてその延長線で広告代理店か商社で働くのが最も自分に相応しいと思っていたからだ。そこが、なんとよもやの三和銀行入行(現東京三菱UFJ銀行)。5年程度、東京本部で色々なことを勉強させてはもらったが、“リアル半沢直樹”よりは、お金を稼ぎたいし、より広い世界を見たいなと思い、その後モルガン・スタンレー・アセット・マネジメントの大ボスであり、当時の世界的に著名なストラテジストであるバートン・ビッグスの下でグローバル・アセット・アロケーション(GAA)に転職。東京のクライアントに行くと、アセット・アロケーションはニューヨークの仕事なんだし、君の意見よりニューヨークの意見を聞かせてくれよというごもっともな意見をもらい、これはマザーマーケットに戻らないとまずいことになると意を決して、ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントへ。日本株ポートフォリオ・マネージャーとなった。そして、2002年に当初から目標であったヘッジファンドの世界へ。32歳の時であった。そこから18年間、スイスなどの海外にも行かせてもらいながら、楽しく好きなような生活をさせてもらった。
•しかし振り返ると、自分の為だけに働いて、世の中の役に全くたっていないなと思い直し、どうしたら良いかと思っていた矢先に、母校である東京大学のとある株式投資サークルから“ちょっと投資について教えて欲しい”との依頼をもらい顔を出してみた。個人的には頭は良く、分析もできる情報弱者がどのように情報を集めて、それを投資の意思決定に使うのか非常に興味があったからだ。そこで見たものは、まさに学校の勉強の延長みたいなもので、かつ盛り上がりも全くかけるものであった。私自身は大学時代、かなり遊んでしまった為にほぼ全くと言ってよいほど授業には顔を出していなかったので偉そうなことは言えないが、正直“おままごと”程度にしか見えなかった。
•そこで、彼らの一部に東京大学はMBAもないし、どうせだったらMBAに代替するような存在を手弁当で作って欲しいかと聞いたら、“是非に”ということで始まったのが東大金融研究会だ。そのコンセプトは3つの軸がある。まず最初の軸は、会の名前の通り、“投資に役立つ”情報をその道のプロから直接聞いて学習スピードを上げようということだ。日経新聞が発表するアナリスト・ランキングのトップに君臨するようなアナリストが、自らのキャリアの振り返りや現在のセクターの見方などを伝え、色々な上場企業の社長様にも登場していただき自分の半生の回顧、創業からの想いや会社のビジネスをプレゼンしてもらう。そして、その全てが手弁当で行われる。これは本当に素晴らしいことだし、協力していただいた全ての人が熱い想いを学生に届けたいというある意味、社会貢献の意味合いさえあったと思う。それに応える形で、学生側も2時間弱の講義が終わった後でも個人で囲み取材を行い自分が本当に聞きたいことをしっかり聞くという風潮ができあがった。その時間は講義のあと1-1.5時間続くことも多々あった。
•第2の軸は、金融や経営以外の“その道のプロ”の話を聞く機会を設けた。金融というのは得てして最後は数字に落とし込むことが必要で、どうしても森をみないで木を見てしまうし、自分が邁進する世界以外を見る機会が減ってしまうのがマイナスだ。色々な感覚を研ぎ澄ますために、様々な講師に登場してもらった。フェンシング協会の太田雄貴会長が東京五輪招致に絡む体験を、柔道の五輪メダリストである羽賀龍之介選手や大野将平選手がメンタルや日々の努力について語ったり、元宇宙飛行士の山崎直子さんが宇宙での体験を、筑波大学准教授の落合陽一さんが未来観を、FISHBOYと共に”Perfect Human”を踊ったり。他にも様々な友人が来てくれて、学生の為に本物が見る世界観を熱く語ってくれた。
•このような金融・経営の軸と、実業以外の特殊な能力を遺憾なく発揮しているアスリートや文化人とのディスカッションによって、恐らく普通の学生ではきっと出会えなかった様々な出会いを学生に提供できたのではないかと思う。ただし、それだけで終わっては全く何の意味もなさい。熱い想いなんてものは、時間が経過するとその熱さは失われてしまう。
•そこで第3の軸が必要なのだ。私は、それを特殊なインターン・プログラムの設定にした。学生のインターンというのは得てして、お客様扱いになってしまうのであるが、知り合いの社長とタッグを組ませていただき、普通の学生が経験でいないインターンシップ・プログラムを組み、企業の経営企画という中枢や実際の社員と同等に扱ってもらった。熱い想い、自分が習ったことを実装して初めて経験値があがると思ったからだ。そこは、本当に協力していただいた社長様に頭が下がる。これらのインターンシップを通して、目覚ましく学生の能力は伸びたし、“普通に”学生に提供されるインターンしか経験していない者とのギャップが極端な話、週次ベースで広がってるのが正直分かった。
•このように、3つの軸をぐるぐる回すことにより、即戦力かつ誰もが欲しがる人財を作るということを目標としている。
•まだ二十歳前後の学生だ。この前まで高校生だった学生もいる。半年前まで高校生だった女子学生が上場企業の社長を招いて行う講義でモデレーターをするなんて無茶だという話もあるが、私は歳は関係ないと思う主義なのでどんどんさせる。そして、実際に成長しているのも事実だ。皆んなには“自分を過大評価しろ”と言っている。過大評価して痛いのは、過大評価している自分と実際の自分に気付かされて、そのギャップに精神的に落ち込むことだけだ。それは“自分を過小評価”して失う機会損失より圧倒的に小さいからだ。時間の流れが早いので、機会損失を取り戻すのは結構大変だ。自信が人を成長させるので、小さくても色々と成功体験のある人の方が良いに決まっている。失敗の反対語は成功ではないのだ。失敗からは失敗しないことしか学べない。どんどん機会を取得して、成功体験をより多く作ることが今の時代には求められていると思うからだ。
•例えば、東大金融研究会では講義以外には殆ど何もしない。ただ、本当にたまにこんな質問を皆んなに投げかけたりする。“ホームレスに日本国憲法を読ませる為のセールストークは?”
•“これを読んだら生活保護をもらえるから読んでみな”、“1か月後に行われる日本国憲法のクイズで10問中5問正解したら100万の報酬を出すよ”と言ったお金をインセンティブにしたものや“憲法25条で健康で文化的な最低限度の生活が保障されているから読んで勉強しよう”とか“日本国憲法を勉強すれば今の生活から脱して、もう少しまともな家や食にありつける”など生活をインセンティブにしたものがほぼ90%を占める。
•これは全部正解かもしれないが、本当にセールストークになっているのだろうか。“お金”というインセンティブも“生活の保障”というインセンティブも大切ではあるが、そこに拘っている限り、どこまでのお金にありつけるか、どこまでの生活を保障してあげられるのかの勝負になってしまって文脈に差別化がないのだ。例えば、お金であれば1000万円あげる人がいたら、その人が恐らく強いし、生活の保障であれば、より良い住環境や美味しい3食を提供してあげられる人の勝ちだ。こういうトークに走る人は完全に同質化されたベクトルで勝負しているので、自分を他の人と差別化することが難しい。人並み外れた創造性を持ち合わせていれば良いが、そういったケースも少ないだろう。そしてより大事なことは、これらは自分発のアイデアでしかない。自分はこれが正しいと思うけど、これはどうかい?と極端に言うと自分のアイデアを押し付けているだけだ。
•本当に面白いアイデアというのは100人に1人くらいいるのであるが、例えば“すみません。僕は目が悪いのですが一緒に読んでください”というものなどだ。このどこが良いのかは瞬時に分かった人は素晴らしいし、分からなかった人はゆっくり考えて欲しい。
•兎にも角にも、東大金融研究会で行った金融の面だけを簡単に文章に落とせないかというニーズが多かったので、今回、東大金融研究会の石川憧くんと谷謙人くんとまとめあげることにした。抜け落ちも多いし、ざっくりした話が多いのであるが、実際に仕事で触れた話を中心に書いているので、興味を持った人は是非東大金融研究会にでも遊びに来て欲しい。

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