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中の人など、い・・・ます!

この文章は、スカパー!とnoteで開催するコラボ特集の寄稿作品として主催者の依頼により書いたものです。

「好きな番組は?」

 そう問われた時、はてさて何と答えよう? 正直めちゃくちゃ悩みます。こどもの頃から大のテレビ好きなもので。

 まだ私が2歳くらいの頃の話。
 ある真夜中、ふと両親が目を覚ますと、寝床に息子の姿がない! 慌てて探すと、真っ暗な居間のテレビの前に座り込み、放送が終了し砂嵐となっている画面をひとり凝視していたそうです。ニコニコ笑顔で…… まるで映画「ポルターガイスト」の1シーンのよう! もしかしたら、この時テレビに取り憑かれたのかもしれません(笑)。

 大学卒業後、紆余曲折を経た後に声の仕事に就いた私は、主にナレーターとして、四半世紀以上に渡り数多くの番組に関わってまいりました。毎回楽しく収録した現場もあれば、超ハードスケジュールで正直しんどかった現場も。イマドキと比して、00年代以前は特に過酷な制作現場があちこちにあったような気がします(あくまで個人の感想です)。ナレーション収録がド深夜に行われるなんていうのはザラ。時計の針がとっくにテッペン越えた時分にスタジオへ行くと、屍状態になっているスタッフの姿を廊下や休憩室でよく目にしました。

  90年代後半に関わった某番組での話。
 いつものように深夜作業。時間押しまくりで、VTRの編集とナレーション原稿があがるのをひたすらスタジオで待ち続けていました。すでに何もせぬまま3時間は経過していたでしょうか。当時はスマホも、ネットを気軽に使える環境もありません。時間潰しといったら、本を読んだり、ただひたすらボンヤリしたり。
するとADさんが、
「何か買ってきましょうか?」
と、気を利かせて声をかけてくれました。
「じゃあ、眠気覚ましにコーヒーでも」
「わかりました。じゃ、行ってきます」
財布だけ持ち、にこやかに近所のコンビニへと買い出しに行った彼。しかし、その姿を私が見たのはこの時が最後でした。着の身着のまま、そのまま失踪してしまったのです。他のスタッフが捜索するも、自宅にも実家にも戻った様子はなく……。その消息が明らかになったのは約半年後でした。業界外の友人の家を転々としていたそうです。曰く「仕事がツラ過ぎて発作的に逃げ出してしまった」とのこと。
 さすがに今はそういう話って聞かなくなりましたね。私が近年関わる番組はどこも健全な雰囲気です。もちろん大変な仕事であることに変わりはありませんが、その「大変」の質は時代の流れと共にかなり変化したような気がします。

ナレーション収録時の私の手元。カフスイッチに指をかけるの図

  おっと、横道に逸れまくりましたね。「好きな番組」を語らねば!

 ナレーターだけでなく、声優としても活動してきた私は、これまでテレビアニメにも数多く出演してまいりました。そんな中、私を声優として認知してくださる方がドーンと増えた、大きな転機となった作品がございます。

『テニスの王子様』  通称「テニプリ」

 「好きな番組」を問われたならば、やはりこちらを挙げぬわけにはまいりますまい。
 マンガやアニメに明るくない方でも、タイトルくらいは聞いたことがあるのではないでしょうか? 1999年に週刊少年ジャンプで原作マンガの連載がスタート。テレビアニメは2001年にテレビ東京系列他にてスタートしました。予想を遥かに超える大人気番組となった本作は、ファンの熱い声に応えるべく放送期間の延長が繰り返され、結果、約3年半続きました。
だがしかし! そこで終わりではなかったのです。原作の連載は続いており、尚且つファンのみなさんの熱もまだまだ冷める気配ナシ。ということで、物語の続きを描くオリジナルビデオアニメシリーズがスタート! 以降も延々と作品展開は続いていき、気づけば時代は平成から令和へ。すると、2022年には原作準拠の完全新作アニメシリーズ(1クール)が制作され、まさかの地上波テレビ再上陸! そして2024年には、続編のシリーズ放送も決定しているという…… テニプリ、おそろしい子!
 自分が深く関わる「跡部景吾」という方は、出会ったとき中学3年生でした。それが20年以上経った今…… まだ中学3年生!「もう中」ならぬ「まだ中」です。私は着実に歳をとっているというのに(笑)
 
注)マンガ「テニスの王子様」は、現在「新テニスの王子様」というタイトルで集英社「ジャンプSQ」にて連載中。アニメシリーズも現在は「新テニスの王子様」が正式タイトルとなっています。

 いつの間にかバラエティ番組も、パッケージ化されたり、アーカイブ配信されたりするようになりましたが、かつては再放送もまずない、一遍こっきりの「消え物」的な存在でした。それと比べ、アニメはほぼ確実に「作品」として後世に残ります。私の声が、演技が、一生どころかその先もずっとずっと。保存環境が良かったならば、何らかの理由で人類が滅亡したとしても、前史の記録として地球上に存在し続けることでしょう。
 己の仕事を、そこにいた証を、刻み残すことが出来る…… こんなにありがたいことはありません。そういや自分の心にも、昔に観たアニメって印象深くあれこれ残っているんですよね。

「責任」の重さを忘れることなかれ

 演じる上で、常に心に留めてきた思いです。任されたキャラクターとしっかり向き合い、その機微まで丁寧に表現していくことを心掛ける。それが、原作者さん、作品ファンのみなさん、制作に携わるすべてのスタッフのみなさん(そして作品&キャラクター)に対する礼儀であると。(もちろんナレーションも同様に、大切に読んでいます!)
 そんな思いを込め、心身削って送り出したものたちが、記憶に残る「好きな番組」の一部として、誰かの心の中で長く生き続けてくれたのなら、こんなに幸せなことはありません。

諏訪部順一
主な出演作品、番組などはコチラにて

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