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地方開発者コミュニティによるサテライト拠点作戦の話

 本記事は、DevRel Advent Calendar 2021 の12/16日担当分の記事として公開しております。昨年は同Advent Calendar 2020の8日と10日に掲載したほか、何を思ったか26日分も書いたみたいですが、25日までであるという基本を忘れるミスにより日の目を見なかった記事も生まれてしまいました。今回はその供養も兼ねております。

 じゅんといいます。Hokkaido MotionControl Network (#DoMCN)というHoloLens・VR技術好きのコミュニティの勉強会を運営していて、開発者の知見の交流を促進しています。また、研究機関に所属する若手研究者でxRに興味を持つ人を見つけてはHoloLensを被せに行き、開発者コミュニティへの橋渡しを行う事を続けています。これらを適切に表現する職名が無いので、勝手にScientist/Developer Relations と名乗っています。
 開発者コミュニティをベースにした活動を札幌でやるうえでの模索として、今回はサテライト設置作戦の実践事例を紹介してみます。

対象の読者:地方コミュニティを運営している/しようと思っている方

 今回の記事の読者は東京に住んでいないエンジニアで、コミュニティ運営に興味あるけど何したらよいのかわからない人を想定しています。しかし私自身もよく分かっていませんし、勉強会に関わるだけなら東京に出て行った方が絶対合理的だよな…と一日に3回くらいの頻度で思ったりしています。とはいえ当時の北海道を出るチャンスがコロナ禍でつぶされてどうしようもないので、地元で出来る事を地道にやっとこうと思って今に至っています。別の価値を出そうとしています。

 正解のない中での試行錯誤になりますので、この記事を参考に似たことをするか、反面教師と捉えて全く別の事をするかは全然お任せになります。それでもなにか行動することができたとすれば、この記事の目的は達成されています。

 ↑のイベントの配信動画で私がしゃべっています。2020年時点で思っていたことがわりとまとまっていました。今回はこの続きがどうなったか?というお話です。

DoMCNの2021年は省エネ・多拠点連携・他ジャンル支援

 種々の事情で、SNS上で自由に動けるXRの人が地元から減っています。つまりコミュニティの盛り上がっている様子の指標となるつぶやきが減っていて、運営としては参加者からのフィードバックを勉強会の運営に生かしにくい状況が続いています。

 しかし私個人がコントロールできないマクロな事象はスッパリ諦めて、いかにして細く長く続けるかという現実的な課題に向き合うことにしました。無理をしない運営を当面の基本スタンスに置き、それでも関係者・参加者にそれぞれ楽しんでもらえるようにしようと考えていました。あと企業とかがやればいい事は出来るだけ避けました(調整作業が大変なので)。

 それでやってみたのが①省エネ、②多拠点連携、③他ジャンルの支援の三つです。

i) #大阪駆動開発 XRミーティングは定期開催

 毎月第三水曜日に開催しているXRミーティングは今年も継続しました。全国五都市それぞれのイベントページを各エリアの代表が作成して、合流場所は一つのzoomミーティングを共有するスタイルです。本流である #大阪駆動開発 のペースに合わせて北海道エリアの設置を行って、北海道エリアに近い(肉体的・精神的に)開発者が気軽に発表できる基礎を残しました。
 大阪のほか、関東・福岡・札幌・神戸と拠点があるため、一般エンジニアにとってのライトニングトーク登壇の窓口は5倍の面積があります。この方式であれば、大阪だけでトークネタを編成しなくてもよいため、月一回程度のペースは余裕で回せています。この形態では負担感が全然ないです。
 北海道エリアとしては、メインコンテンツを毎回作るほどの技術力が私にはないため、単独開催はなかなか厳しいです。配信中のツイートでまとめやすいものを発信したり、日ごろの広報活動のお手伝いをすることくらいしかできません。それでも、北海道エリアで時々見つかるすごい個人勢とかがミーティングの場をにぎやかにしてくれたりするので、他の拠点のエンジニアの人も受け入れてくれているような気がします。
 現在は大阪駆動開発の大阪・東京拠点の他、福岡XR部、DoMCNに神戸駆動開発も加わり、5拠点での運営をしています。


ii) #HoloHack 大阪のHoloLensハッカソンのサテライト会場を札幌に設置

 i)の #大阪駆動開発 主催のHoloLens 2 のオンラインハッカソンが3/6-14に開かれました。XRミーティングで遊んでる他の地方のコミュニティも何かできることはないかとそれぞれのコミュニティが考え、#福岡XR部 は地元でチームを立てて本選に参加、#DoMCN は気まぐれ枠として同日にエンジニアの少人数オフ会を開催し、なにか作れそうなら発表会に乱入という路線で進めました。
 6日のアイデアソンの時に協力コミュニティ紹介の時間があった時に、"ハッカソン参加者の中で近郊に住んでいる人がもし居たら発表会前の時にHoloLens実機を私が貸すのでデプロイとかしていいよ"とダメもとで言ってみた所、なんと一名いらっしゃったので実機テストの協力のための会場を急遽準備して、計3名の集まりを非公開にて実施しました。

 HoloLensと関係ないガジェットも当然のようにみんなで触って遊びました。xRの分野では実機にさわれる機会があってこそエンジニアのやる気が出ますので、こういう参加の仕方(運営サイドの機能を一部地方で負担する)が許されるのであれば気軽に協力することができそうです。


iii) #AR_Fukuoka オンラインハンズオンを現地開催に拡張し、二拠点化

 2019年から関わっていただいている福岡のARコンテンツ作成勉強会とは、オンラインの環境でより一層の交流をすることが出来ました。zoom、youtubeを介したオンラインハンズオン(アプリ作りのワークショップ)や分野間交流のLT会などを参加させてもらっていました。
 今年の11月に現地開催のハンズオンが福岡エンジニアカフェで開かれる事となり、その際、吉永さん(@Taka_Yoshinaga)のお誘いを受けて札幌の現地会場も開放してみる事にしました。福岡の方では現地開催の様子をzoomとyoutubeでも配信してハイブリッド化して、札幌の現地会場ではその配信を受けながら現地参加者の開発のフォローをする(+札幌のオンライン参加の窓口も併設)という、二種のハイブリッドをくっつけた形で行ってみました。
 DoMCNとしては約二年ぶりの一般向け公開イベントになり、この時に参加して頂いたはじめましての人も無事アプリを作るところまでできて良かったです。

 オンラインハンズオンの方法論がわかってくるにつれて、地理的な縛りが無い事のメリットもわかってきました。今までは遠すぎて参加できなかったハンズオンに参加して興味のある技術に触れることができるので、あとは実機があればXRのハンズオンとして十分成立します。実機体験の機会を設置して提供する形であれば、コミュニティの機能が使えます。ハッカソンと同様に、小規模で運営すればリスクのコントロールもしやすかったので、こちらの形式も続けていければよいかなと思っています。


施策のまとめ

 以上、2021年の活動紹介でした。2021年の間、#DoMCNでイベントを開催したメンバーはわたしとさって~さん(@s_haya_0820)の2名です。この規模ですと、運営ノウハウゼロの状態からハンズオンやハッカソンを自力で行うことはほぼ不可能です。しかし、オンラインの特性を生かしてサポートに回るという道があり、人数が少なくてもできる行動(広報とかツイ―ト盛り上げとか)で遠隔地のイベントの運営サイドに組み込まれるように立ち回ると案外楽しくコミュニティ活動を継続できることがわかりました。後半は現地開催も出来るようになりつつあります。

 地方においては、一緒にやらせてもらう相手側も運営サイドの人数が足りていないことが多いので、お互い協力しましょうという形がうまく作れれば、独自でイベントを無理して回す以上に得られるものが(主に信頼面で)大きいのかなと思っています。

 読者の方はそんなこと言われても…と思うかもしれないですが、サテライトの立て方自体は簡単で、主催と関係者で相談が済んだらconnpassページにイベント立てて自分のフォロワーに呼びかけてみるだけです。極端な話、結果的に参加者ゼロでも構わないのがサテライトの強みなので小さく始めることが出来ます。そして、やりっぱなしにはしないでフィードバックの材料を残すのが信頼関係を継続するコツではあります。

発展編①:知見を別分野に還元していく

 さて、コミュニティとしては↑の様に細く長くできそうな方法を模索している一方で、あいた時間を私は他ジャンルへの開拓にあててみています。課題を共通に持っていたりするので、そのあたりへの取り組みなんかを共有してみると、xRじゃないのに仲良くなれたりもしています。

①北海道の地方コミュニティ
 オープンソースカンファレンス北海道などのイベントを運営されている .@tomio2480 さんにある日呼ばれたので、春までに実践していた多拠点連携の話をしました。

②VRChatのコミュニティとの共同運営LT会

 2018年から続けているVRChat内勉強会を今年もやってみました。しばらく冬眠していた .@Tnohito1 さんがxR勢とVRChat勢の合同LT会をやりたくなった時期に合わせてxR側の登壇者アレンジと会場づくりサポートを担当しました。

③応用物理学会のVRポスターセッション

 私が研究者時代から所属している応用物理学会の年次大会にて初めてのVRポスターセッションが開催されました。中山さん(@Zhongshanxiont)、中村さん(@TakamoriIMP)らを中心とするKOSEN Chapterの学生さん達が続けていたVR内イベントが本部から認められた形になっていて、大変感慨深い事件だったので、現地VR会場にほぼ常駐し、企画運営の秋永先生ともお話しました。

④DevRel/Japan CONFERENCE 2021 
 私が運営技法を勉強するためにちょくちょく通っているDeveloper Relations職の勉強会(#DevRelJP)のシリーズの全国大会が行われました。そこで主催の中津川さん(@moongift)にお誘いされて運営のサポートに加わることになりました。
 テーマごとにパネルセッションを行う形式になっていて、私はXRセッションのオーナーとなり、司会者・パネリストを集めて1時間の枠を使ってxRコミュニティ全体の活動をDevRelの界隈に紹介する係を務めました。#NT札幌 などの湯村先生、#HoloMagicians 中村さん、#大阪駆動開発山地さん、#AR_Fukuoka 吉永さんからそれぞれ登壇の快諾を頂き、xR業界に触るためのハードルを下げる取り組みの数々を紹介してもらい、その結果何名かDevRelをxRの沼に引き寄せました。

 xRの人は技術を広める活動を比較的無自覚に行っている傾向があり、この活動にDevRelという名前がある事もあまり知らないため、今回のセッションはお互いの技術交流の面でも良かったんじゃないかと勝手に思っています。

⑤その他
 あとはいろいろ適当にLTハックLTコミュニティをお手伝いしに行ったり、CMC_Meetupには賑やかしで参加していたり、習っているバイオリンの先生のライブにエキストラとして演奏に加わってみたりしながら、他ジャンルの発信者の中のxR技術に興味もちそうな人と交流を始めていきました。非常に楽しい1年でした。

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(xRミーティングでLTした時いつも最後に載せる接触先のクラスタ一覧。)

発展編②:DoMCNメンバーが自力で出来るようになったハンズオン #プロビ勉強会  

 もう一つコミュニティ運営としてはうれしい進化がありました。一緒に勉強会を運営しているさって~さんが、AR_Fukuokaで学んできっかけを得たARの技術を発端に、お仕事として外部から案件を得ました。さらにその案件で培った別のAR活用技術で、ハンズオンを先月からスタートさせています。
 まず素人状態から始まったのにお仕事になり始めている事についてのうれしさと、コミュニティ→仕事→コミュニティの知見の流通が出来てきてることのうれしさの2つがあります。次の世代の刺激を呼び起こす活動にも時間を割いてもらえることが私はうれしいです。

ハンズオン運営の師匠枠の吉永さん(@Taka_Yoshinaga)も参加してくれました。

↑次回は12/20日です(露骨な宣伝)。


今年の活動のまとめ

 コミュニティ・個人のDevRel活動を長々と書きましたが、悪く言えば他人のふんどしで相撲を取っている状態を続けています。地元に参加者層の人数も少ないのがわかっているので、100人集めるようなイベントは無理して開きませんが、情報や繋がりが必要なエンジニアの方には最低限届けばいいやという気持ちで開き直ってやっています。コミュニティ活動を通じて情報が入るようになった地元エンジニアさんはまず東京に移りたくなるだろうと思います。私もその方が合理的なキャリア設計だと思うので全然賛成です。既存メンバーの人が抜けていくのを前提としてアクションを組んでいくのが地方コミュニティの運営のキモかなと私は考えています。

 地方orマニアックなコミュニティの運営でもっとも陥りがちなのが、運営人数不足による業務過多とそれに伴うスタッフの燃え尽きだと考えています。なので、同好会の本質が失われない程度に手を抜き、それでも何とかなる体制を他の地方のみんなと作るように工夫することでうまく実績をふやしていきましょう('ω') やらない事を決めるのは依然として大事で、自分の場合は冒頭の #NT札幌2020 の講演の後半で言った内容を今も継続中です。

 一般的なエンジニアになるルートからだいぶん遠ざかった気がしないでもないですが、人々の好奇心の伝播をプロデュースする営みは楽しいので、この路線もありかなと思ったりもしています。ただし、勉強会開催自体がキャッシュポイントになった事はないので、地元でこれ一本で身を立てようとする事はおすすめしません(コミュニティ運営でもごはんが食べられる方法がいつか一般的になるといいですよね)。これを通じて得た異質なチャンスを活かすための工夫がさらに地方在住者には求められますので、また別の機会にでも書くことにします。

それでは良いお年をお迎えください('ω')

(2021/12/15 初稿 5623字 180 min
 2021/12/16 図を付けたりいろいろ修正)

---DevRel Advent Calender 2021 ---


8日にも記事を掲載しました。こちらはオンラインでのイベント会場のまとめ。