超少人数制のVR/AR体験会を大学内で実施した話(続き)

画像1

 こんばんは。Scientist/Developer Relationsとして学術/xRの境界を動き回ってみています。研究機関の人が自分たちのためにVR・ARをどう活用すると幸せになるのかを模索する日々です。今回は、VR/AR体験会を某大学で行った時のお話です。10月以来のオフライン実施になりました。感染拡大防止の観点から、少人数での実施を基本にし、計5人/1日の体験会を2日間行い、計10人に体験して頂きました。安全第一な運営方針などは前回の記事を参考にしてもらえればと思います。
 今回も、公開許可を頂けましたので、その体験設計を共有しますね。

前回のお話

目的と開催方針

 10月の開催時と同じく、現行のVR/AR利用事例(VRChatやSpatialなど)を各自体験する、という感じです。方針も、

・安全第一(感染予防・ケガ予防・酔い予防)
・全員が楽しんで未来を想像する場にする
・生ガキ体験(※1)には絶対させない

と、前回通りです。とりあえず、VRの技術を好きになってもらうとっかかりにしないと定着は難しいですよね。

 運営体制も同様で、私一人がアテンド役・URA側スタッフ一名・体験者一名・写真撮影担当スタッフ一名の最大四名が体験用スペースに同時に居る感じになりました。体験者は、一人が終わったら次の人と入れ替わる形にしました。体験時間は30分を目安に、時間の伸縮が可能・体験者の順番入れ替え可能・体調によって体験予定日も入れ替え可能なように組んでいただきました。

(※1 最初に食べる生ガキに当たってトラウマになって一生牡蠣を食べなくなることに似た現象がVRにもあります。体や趣味に合わないコンテンツを無理やり体験させると発生しがちで、遭った人は2度と体験したくなくなり将来の損失になります。アテンドする側が最も恐れている現象です。)

本番([]内は、聞き出した趣味)

1日目

Aさん[音楽好き・アウトドア好き]

最初は体験者さんと大学スタッフさんの趣味の中間あたりを狙ってみて、史跡ネタの摩耶観光ホテルのワールド(VoxelKeiさん)に行ってみました。埃っぽく明るい廃墟の雰囲気を楽しんでいただき、スタッフさんがゴーグルをかぶりたくなったのでうまく行きました。

・マヤカン保存プロジェクト(昼・夜)

参考 盛夏音祭(せいかおとまつり):音楽ライブフェス in VRChat




Bさん[自然好き・老眼が心配だった]

シニアなBさんはご自身の老眼を心配されていましたが、VRゴーグルこそ老眼無効なアイテムなので、むしろ裸眼で試してもらい、視界のクリアさを確認してもらいました(結像系は焦点距離固定なので、近く・遠くの視え方は眼球のコンディションによらない)。

・マヤカン保存プロジェクト(夜)

・Dancing Unity-Chans (The Looking Glass)

参考 怖いゲーム Half-Life: Alyx
 https://ja.wikipedia.org/wiki/Half-Life:_Alyx
 (敵が気持ちわるいのでやりたくないです)

Cさん[情報系が得意]

CさんはPCの操作が得意であるという情報がそれまでのスタッフのコメントから得られ、空間UI操作の一つアイトラッキングを実際に触ってもらいました。裸眼立体視が良さそうだったので、Looking Glassのハンドインタラクションも試してもらって、HoloLens導入しやすそうな雰囲気を感じました。

・MRTK(Mixed Reality Tool Kit)アイトラッキング

https://docs.microsoft.com/ja-jp/windows/mixed-reality/design/eye-tracking


 視線検出、ヒートマップ(注視点)表示、3Dオブジェクトへの視線による移動操作などなど

参考 Looking Glass Portrait

安く軽くなって新登場(4月出荷予定)

Dさん[スタッフの強い意向でゲーム性高めなのをリクエスト]

明るく楽しいのが好きそうという情報から、Quest2のチュートリアルデモを遊んでもらいました。ココがこの日の一番の盛り上がりポイントで、ミニゲームのダンスパートのキャラがやたらかわいいと評判でした。シューティングが突然始まっても動じずに正確に撃っていたので経験者だろうか?と思っていました。Quest2は、ガーディアンを設定し、さらにホーム環境をビデオシースルーARモードにしてあるので、誰ともぶつかりませんでした。

・「はじめてのQuest2」

・Quest2 ホーム画面 ビデオシースルーモード


Eさん[元モンスターハンター]

昔ゲームをやっていたと教えてくれたので、コントローラ操作はそこそこ大丈夫と判断して、初代RiftのUIチュートリアル→Beat Saber→VRChatと案内しました。3人称視点アクションが好きだったのであれば、剣闘士になってもらうのもよさそうです(ガルガンチュア)。今回はスペースが横長だったので見せられずでした。撤収まで時間が少しあったので、応用物理学会のVR学術講演会場(VRChat)を見てもらい、ポスターの視え方などの実際を体感してもらいました。

・「Oculus First Contact」

・「Beat Saber」

・応用物理学会 KOSEN SC 第1回 VR学術講演会 ポスター会場(VRChat)

https://sites.google.com/view/jsap-kosensc-vrmeeting/home


参考 「ソード・オブ・ガルガンチュア」


2日目

Fさん[自然、旅行、技術好き]

ちょっと長めのアテンドだったので、ザックリ手持ちガジェットの解説と昨日の体験概要から入りました。人気だったマヤカンワールドで、VR酔いの起きなさ具合を少しずつ確認しながらJAPANELANDへ行って、ワールドギミックの遊び方を知ってもらいました。Spatial(AR・VRの混じった会議システム)の世界観を知ってもらうのが目的の一つなので、会議Room起動済みのHolo2をかぶってもらうだけにして、私は初代HoloLensで遠隔での空間共有(その場)のデモをしました。ややこしい。。

・各種ゴーグル説明(PCVR、Holo系MR、スタンドアロンVR)

・マヤカン保存プロジェクト(昼)建物からの落下が謎のブームに。

・project JAPANELAND


3/5 「空から日本を見る会」by 蘭茶さん(同時期に似た事をした方が)

・VRCのHome ミラーでアバター確認したかった

・Spatial.io VR/AR混在の空間共有体験


参考 Microsoft Mesh(3/3 New!)

4年前にアナウンスされた世界観が具現化したのがMircosoft Mesh(多分)

日本で今どこよりも詳しいMicrosoft Mesh関連まとめブログ記事



Gさん[ジャズ、海洋、ライブ]

 Gさんは仕組み面に興味があるようでした。ゴーグルをかぶった後の自身の酔い予感をコントローラの操作状況と対応付けて色々調べていました。JAPANELANDで基本を確かめた後、たまたま入ったゲートが銭洗弁天VRの世界でした。合間に防曇メガネ拭きの効果を聞かれたので、持ってきて良かったです。

・project JAPANELAND
→龍さんの銭洗弁天VR


・メガネ拭き活用術


参考 らくとあいすさん: ジャズの演奏者(「仮想水槽 part2」より)


Hさん[Youtubeゲーム動画観る、既にビートセイバー知ってた]

運動を伴うVRは元気そうなHさんにしました。昨日反省してイスの配置変えておきました。たまたま以前に見かけたことがあったというBeat Saberを再び出して、剣で斬る感覚を実際に体感してもらいました。振動があるのでわかるという事でした。WinMRゴーグルの瞳孔間距離(IPD)調整機能が大変役に立ちました。

・BEAT SABER

参考 バモキャ (バーチャルモーションキャプチャ)

(スタッフが爆笑 交代をするなど)


Iさん[VRARそれぞれ試してみたい・ちょっと酔いやすい]

Iさんは仕組み面も知りたいタイプということで、VRCの基本操作と、HoloLensの基本操作をそれぞれやってみてもらって、自身にあった操作の仕方みたいなものを探してもらいました。スティック操作による急激な移動が慣れないとの事でした。

・project JAPANELANDを探索
→銭洗弁天VRのゲート

急な移動に弱いので目をつぶる。

・Hololens ヒント (HoloLens 2)

Iさんがもう少し理解したくなり居残り見学

Jさん[IさんからMRの続きをリクエスト]

最後のJさんの時には、興味が湧いて居残りを申し出てくれたIさんの続きから始めてもらいました。昨日にも試したアイトラッキングのおさらいをやって、頭以外ほぼ使わない操作を見てもらいました。前日時点で話題になっていたQuest2のチュートリアルを実際に触ってもらって、シューティング大会になり、時間が来たので終了しました。操作を理解できるように指示が分かりやすくなっているのがよいです。

・MRTK(Mixed Reality Tool Kit)アイトラッキング

https://docs.microsoft.com/ja-jp/windows/mixed-reality/design/eye-tracking

・「はじめてのQuest2」

チュートリアル全部+シューティングのミニゲームをたくさん


運用面の振り返り

 今回は、前回の反省を踏まえて、準備時間を1時間から3時間に増やしてもらって、かなり万全の用意ができるようにしてもらいました(機材トラブルに気づいて焦る時間が三倍になったとも言えますが)。Oculus Go2台、初代HoloLens、Oculus Quest2、Samsung Odyssey+、Looking Glass、HoloLens2、RICOH Rを準備しました。

 前回との大きな違いとしては、現地のディスプレイを活用するために、Miracastの受信アダプタと、Chromecastの受信アダプタを準備しました。HoloLens系の主観映像をMiracastに飛ばして操作状況が外から確認できるので操作中の何に困っているのかは格段に把握しやすくなりました。(自前のモバイルプロジェクタは不使用で済みました。)ChromecastがあるのでOculusQuestの主観映像が送れるようになりました。大学スタッフ側のコンテンツ把握力が強化されたようです。WinMRのゴーグルでVRCとかやってる時はノートPCにも映ってるのでこれは前回通りです。

 体験者への接し方の方針としては、i) 酔いやすいタイプかどうか聞いて初手をARにするかどうか判断、ii) ゲームするかどうか聞いてコントローラの操作をどこまで難しくするか判断、iii)コンテンツよりも周辺技術に興味が移っていたらそっちの解説に流れる、といった基本方針を取りました。今回はVRChatを体験してもらう事が多かったですが、i) ii) iii)を考慮して、操作法の教え方が全員ちがう感じになります。酔うと一生モノのトラウマなので、むしろ小まめにHMDを外してもらう様なタイミング(操作を見せて説明するときとか)をたくさん挟んでいて、体験者が思っているより実際のゴーグル着用時間が長くない様にしました。壁にモニタがあるからあんまり気づかれてない気がします。

 前回の体験会の時に、マスク+ニンジャマスク+ゴーグルになった時の自分の息でゴーグルのレンズが割と曇っていたので、秋に流行ったメガネ曇り止めクロスを導入しました。ちゃんと曇り止めの膜をレンズ表面に作っておけば、実用上困らないレベルまで視界が保たれていました。

 あとはものすごい細かい話で、部屋の照明を暗めにしていたのと、部屋のエアコン温度を下げました。ゴーグル着用の前後で髪が乱れるとか、あんまり女性向けでない状況になるのをどうかなーと思ってるんですが、今回についてはそんなに気にしてないというコメントをもらう事が多かったです。顔見知りというのもあるかもしれないですけどもね。
 ネットワークが機能しなければ大半が死んでしまうガジェット群なので、ポケットWi-Fiは自分のものを持ち込んで使う事は前回通りです。

 実施後、忘れる前に本記事のような内容を体験者に共有して、それぞれが「体験しなかった」コンテンツが見えるようにしておきます。VR空間そのものへの慣れ、コントローラ操作の可否、現実志向・VR志向かによって内容をだいぶ変えているので、全体をまとめると結構な情報量になります。なので体験自体は各30分だったとしても後からテキストを追うと3~4時間分くらいになると思います。


  先人のありがたいことば再掲。


感触

 秋の一回目があったこともあり、今回も楽しんでいただけたようです。1人が体験したコンテンツを終了後にスタッフ居室に持ち込んでもらえる状況というのも前回通りの効果があったようです。現在の技術水準が、一般人の触れられる範囲でどこまできているのかを見てもらうための導入回としてはまずまずだったのではないでしょうか。あんまり期待だけが先行すると、ハードルが上がってちょっとつらい部分もあるのですが(予定外の機材トラブルは今回もあった)、ほとんど常駐みたいな感じでゆるゆるとやる事でお互いやりやすいのかなと思っています。

 今回の導入では操作難易度が最も高いのがソーシャルAR系のコンテンツで、Spatialがそれにあたります。まずセットアップから思い通りに動かなくて大変なんですが、HoloLens、HoloLens2、デスクトップPC混在の状況を説明するのもややこしくて死ねます。ここに向かって、空間ユーザインターフェース・ハンドトラッキング操作・3Dオブジェクトの端末間やり取りなどを習得してもらうのが当面の課題になるのでしょうか。

 と思っていたら当日にMicrosoft Meshが来てしまったので、Meshに対応するのが近道のような気はしました。操作が複雑・高度な他のコンテンツも紹介したかったのですが、30分で理解するのは難しいため、操作に慣れてまず楽しめることを優先してみました。

 もしかしたら全員体験し終わったあたりで高難度コンテンツを自ら実演するところを見てもらう、みたいな時間を付けてみるのもいいのかな。でもそれだと密になってしまうか。。希望者向けの補習コーナーみたいなのがよさそう。

まとめ

 今回も場の設定と当日運営について、非常に協力的に支援して頂けたので、突然のイベントでしたが無事に終わりました。大学スタッフの方々に感謝します。秋よりは活用法が拡がっていることを実感してもらえたのではないかと思います。
 コンテンツ使用に際し可否を訊いてみたところ快くOK頂いたVoxelkeiさん、ザバイオーネさん、神戸のなかやまきたろさん、ありがとうございました。
 久しぶりの体験会だったので、私も楽しかったです。まだまだ模索は続きます。

体験者全体から後日頂いた意見・感想

- とても面白かった。是非また(もっと)やってみたい。×10
- 非日常的な世界で、ゲーム感覚で体験できたのが印象的だった。
- 一口にVRと言っても、ゴーグルや操作の方法の種類が多くて驚いた。
- 将来的な発展への期待が高い。
- 今後どのようなことに実用化できるのか考える良い機会になった。
- 今度はもっと実用の可能性を感じさせるようなアプリなども試してみたい。

画像2

コントローラのボタンと挙動を実演(WinMR)

画像3

視線認識によるオブジェクト位置操作の体験(HoloLens 2)

画像4

はじめてのQuest2 (Oculus Quest2)

画像5

画像6

当日補助頂いた大学スタッフ


(3/4 9:00 草稿
  12:00 体験者ごとの状況コメント追加
 3/9 公開向けに修正・リンク2件追加)