機材を広めるために機材を借りられた話
こんにちは、じゅんです。
Hokkaido MotionControl Network (#DoMCN)というHoloLens・VR技術好きの技術者コミュニティの勉強会を運営していて、開発者の知見の交流を促進しています。また、元・物性研究者として、研究機関に所属する若手研究者でxRに興味を持つ人を見つけてはHoloLensを被せに行き、開発者コミュニティへの橋渡しを行う事を続けています。これらを適切に表現する職名が無いので、勝手にScientist/Developer Relations と名乗っています。
前回の体験会記事では経緯と様子を中心に報告しました。今回は機材のレビュー編ということで、今使っているSamsung HMD Odyssey+ との比較とかを中心に書いていこうと思います。
関連の活動として、19年8月にAzure Kinectをお借りできた時にみんなで遊んだ記録も置いときます。あれも面白かった。
見た目
WinMRのシリーズのコントローラと、Oculus Quest 2(現: Meta Quest)のタイプのシンプルな接眼部、オープンイヤー系(耳からは浮いてる)のヘッドホン、後頭部サポートのついた構成になっています。ゴーグルとオーディオ入出力は一体になっています。インサイドアウトのトラッキング検出用カメラは前方部と側面についてるのがQuestとの違いになっています。
後頭部を保持するところはQuestのエリートストラップに似た幅広のバンドで広めに支えるようになっています。ゴーグルと耳パーツとの接合部を中心にゴーグルを上にはね上げるところが可能です。瞳孔間調整の調節は下部のつまみで物理的に調整します。顔あて部分の内側の横幅は13cmくらいなので、それ以上の横幅のメガネの方は干渉します(余談として、私のメガネフレームの前面の幅は11cmなのであらゆるゴーグルに入ります)。
こちらは比較用のSamsung HMD Odyssey+(以下Odyssey)です。PSVRのような、生え際に当たるパッドと後頭部のベルトで挟んで留めるタイプです。フリップが無いので、つけ外しはベルトを緩めて行うのみです。トラッキング用のカメラは前方2か所です。瞳孔間距離の調整は下部のダイアルで行います。装着法が若干異なる以外はよく似た構成です。
2つ並べるとこんな感じ。右のOdysseyの方が額当てのぶん全高が高いです。
着用時の視え方の比較
Odysseyでもだいぶディスプレイの網目が目立たないなと思っていたんですが、Reverb G2 を付けた時の印象はそこから視界のシャープネスが上がったような感覚でした。あと、1点1点が明るいです。解像度のマシンスペック的には、Odysseyの片目1440×1600 pixelsに対してReverb G2 の片目2160×2160なので縦横それぞれ1.5倍くらいの密度アップになるのですね。
Odyssey+は装着者が解像度を2倍に感じるフィルタを入れているので、デバイススペック以上に滑らかに視えるのが特徴ですが、Reverbではその時見えていた光点がそれぞれギュッと凝縮されたように視える感じなので、視界もシャープかつ液晶のない部分も非常にシャープに暗くなっている感じです(超極細の網目はむしろ視える、という感じなのか上手く表現できない)。
後述しますが、実効の解像度が高くなってるということは描画負荷は当然上がりますのでPCを繋いだ時のバランスを見る必要があります。
パフォーマンス比較
手元にVR Ready PCが4台あったので、それぞれでHMDつないだ時の描画パフォーマンスと負荷の状況を調べてみる事にしました。FPS表示が内部で出来るVRChatの中の、Shaderfes2021会場の最上階に雪のエフェクトが空間いっぱいに降る展示を見つけたので、ここを暫定的なベンチマーク用スポットにさせてもらう事にしました。
備忘録的に条件を書きます。①ノートPCは電源接続状態で行う。②PCのメインディスプレイは1つのみ+ゴーグルつないだ状態で調べる。③MixedReality Portalアプリの画面ミラーリングはOFFする。④Invite onlyでインスタンスを建てて私以外無人のワールドでテスト くらいを揃えました。それでもメインパネルの解像度がそれぞれバラバラだったり、プリインストールアプリが違ったりするので、単純比較ができないことは解釈上の注意です。数値は時間変動があるのでグラフを載せます。
①BTOデスクトップPC+Odyssey+
VRChat内スクショの上がShaderFesワールドにワープしてきた入口のフレームレートで61 fps出ています。この時のGPU(RTX 2070 SUPER)の負荷状態が47%(左上のグラフ)、GPU温度が42 ℃です。ここから雪の降るエリアで効果を発動したときのスクショが下で、37 fps、47%、44 ℃とかそんな感じに変化しました。これを順次条件を変えて調べます。
表記簡略化のため、
入り口:61 fps、47%、42 ℃
雪:37 fps、47%、44 ℃ という風に表現します。
②BTOデスクトップPC+Reverb G2
入り口:61 fps、75%、48 ℃
雪:39 fps、67%、50 ℃
温度は上がってるのに使用率が下がる、なんてこともあるんですね。
OdysseyよりもReverb G2の方がPCのグラボに負荷をかける事はわかりました。この傾向は以下すべて同じです。
③P65 Creator(普段使いノートPC)+Odyssey+:普段の出張デモ用セット
グラボはGTX 1070 Max-Q
入り口:45 fps、40%、77 ℃
雪:32 fps、46%、78 ℃
④P65 Creator+Reverb G2
入り口:49 fps、37%、78 ℃
雪:31 fps、47%、79 ℃
意外な事にHMDを換えてもあまり影響がみえないのが手持ちの最弱ノートのように見えます。なんでなんだろう。。
⑤ZBook Create G7(モバイルワークステーション)+Odyssey+
グラボはRTX 2070 Max-Q。
入り口:41 fps、47%、75 ℃
雪:28 fps、53%、74 ℃
ゴーグルと一緒に貸し出して頂けたモバイルです。このモバイル、メインモニタのパネルが4Kなので、なんとなくハンデを背負っている感覚があります。
⑥ZBook Create G7+Reverb G2
入り口:38 fps、89%、73 ℃
雪:29 fps、88%、74 ℃
貸し出して頂いた一式で試した場合が↑の結果になります。
⑧ROG Strix SCAR 15(年末に買ったゲーミングノート+Turboモード)+Reverb G2
グラボはRTX 3080 Laptop GPU 16GB
入り口:63 fps、77%、78 ℃
雪:55 fps、71%、77 ℃
手元で使える最強環境だとこのくらいの性能らしいです。⑦が無いのは、このPCにOdysseyを繋いだ時にエラーコード(1-8)が出てMixedRealityモードに入れていないからです。解決策を探し中...
以上、わりと想像通りな結果が得られました。いずれの場合でも30 fpsを大きく割り込むことはないため、自分の利用に関して困ることは少なそうですが、VRゴーグル初めての人には酔いの要素はできるだけ少ない方がよいので、HMDの選定とPCどれもっていくかは随時検討する必要がありそうです。
コントローラー
出始めの頃のWinMR用コントローラと最近のWinMR用コントローラでは違っている部分が結構あります。左が旧版、右がReverb用です。いずれも右手用を並べています。
まずボタン型タッチパッドが無くなりました。そしてBボタンAボタンが付いています。左手用のボタンはXとYだったと思います。タッチパッドのいずれかの操作がこれらのボタンの組み合わせで置き換えられるようです。VRCのメニュー呼び出しはBかYだったような気がします(ここはVRChatの民からの指摘で改善が進んでいるそうです)。
人差し指トリガーの硬さは新旧あまり変わらない印象ですが、押し込み判定が変わったと思います。新版は押した瞬間に判定が始まる感じなので、VR空間内の文字入力が前ほど疲れないと思いました。
画像だとちょっとわかりにくいですがコントローラのグリップ部分が短くなり、正位置にたいする向きも多分変わっています。
↑はガンシューティングのリズムゲームAudicaのゲームリザルト画面です。右の円の中に表示されている赤と青の点が左手・右手の銃からの着弾位置で、いずれの手でも中心から上ずったところに着弾が集中します。普段はグレー円の真ん中を中心に分布するので、新コントローラの照準は旧版のものより上を向いていることになります。
旧版は長い棒だったのでしっかり握って振りましたが、新版はよりコンパクトになったので軽く握って扱うのかもしれません。
両手のトラッキング範囲は横に広く上下に狭い感じです。カメラがサイドについているおかげで大の字に両腕を伸ばした時のコントローラ位置も取れます。下は苦手なようで、コントローラ位置が私の腰の高さより低いところに来たら見失っているようでした(ただし腰の死角を減らした改良版が昨秋に発表されていて、改良版のトラッキングはわかりません)。この特性から、ビートセイバーとかガルガンチュアとか、振るアクションが重要なゲームをオーバーアクションでやる人には向かないかもしれません。ラジオ体操もむりでした。フルトラ環境を別途用意すれば大丈夫そうです。
新しいカバン買うときの参考になった
お試しの機材レンタルによって、実機の寸法・扱い上の注意・重さ感などが分かったので、懸案だった飛行機出張用リュックを買うことができました。
もともとは重いゲーミングPCと、HoloLens2を運ぶためのものを探していましたが、Meta Threads LVL-3 PackのガジェットコンパートメントにHolo2とReverb G2を配置してみた所キレイに収まりました(Holo2のケースは2cmほどオーバー気味なのでケースごとここに入れるとリュックの背中接触部分が変形します。)。
額当て部分がなくなった事による高さ縮小により、カメラバッグと同等の収納スペースがあれば困らなくなったことが大きいです。今までOdysseyはかさばっていたのでPSVR用のキャリングケースを別途流用していましたが、これからはリュック一つで簡単にVR/ARのデモをそれぞれ行えるようになりそうです。
(余談:HoloLens2はHolo1への進化の際に額当てが付いてしまい、むしろかさばる方向になったため、このリュックの中ではフリップアップをする必要があります。)
(余談2:このリュック、2万円くらいするはずなんですがツクモで在庫処分していて6000円で買えるので1個買って確認した後2個目も買いました)
まとめ
着用時の視え方・接続時のPC側の負荷・コントローラについて分かった事をまとめました。私の主観による表現しかここではできませんが、少しでも想像がつくようになれば幸いです(Odyssey持ってる人も少ないので難しいよね)。体験会が当初予定よりさらに規模縮小してしか出来なくなってしまったのが残念です(なので書いたというのもある)。
札幌に住んでいてVRゴーグルを体験することのできる場所はとても限られています。量販店のスペースは絶滅し、知り合いのツテでうまく機会を作るしかない状況です。着けてみないと理解できないデバイスは購入前などに絶対に着けてみるべきです。絶対に意識しなかったいいところと罠がその時見つかります。
機会"提供"側を5年続けている私としては、うまくこういうアホな人を活用してもらいたいなと思うと同時に、機材メーカーの独自プログラムで今回のように丸ごと貸し出して頂けるシステムがある事を大変ありがたく思います。これなら東京でなくてもレアデバイスをたっぷり触る事ができます。日本HPしまざきさんありがとうございます。
今回、企業でもなんでもない"個人(コミュニティはやってるけど)"に機材レンタルがなされたことが我ながら結構重要だと思っていて、いつも法人対応の壁に阻まれてできなかったことができ始めるようになるきっかけになるのかなと勝手に思っています。別地域への瞬間的な橋渡しやSNSを使った知見共有など、法人がやりにくいムーブはそこそこできる方だと思うので、活用してもらえるといいと思います。Give&Giveの精神。
大学とか企業さんに体験していただく時に、事後訊かれるデバイス価格がネックで話が流れることが多いです(その理由も昔から変わりません)。なので、お手頃価格帯のPCVR(かつ設定がめんどくさくないやつ)を重点的に見せるようにしていますが、今回のReverb G2は持ち運びデモ用途としては完全にOdysseyの後継だと確信しました。Omnicept Editionも気になります。
(2022/2/2 初稿 4949字 600 min)
前回記事に引き続きイベント告知タイム
Osaka Hololens Hackathon #HoloHack 2/11-20
HoloLens 2で動くMixedRealityアプリのハッカソンです。前回同様、ハッカソンよりやや長めの期間で開発するため、Hackwalkとも呼ばれるようです。オンラインの環境で開発と実機デプロイをそれぞれ実施します。Hokkaido MotionControl Network (DoMCN)では地域拠点協力をしており、札幌近郊でアプリデプロイなどの実機を要する作業にたいして機材協力をすることにしております。札幌近郊のエンジニアさんにもレアなHoloLens実機を使って動作チェックできるようにします。去年も同様のサポートをし、実施の振り返りを記事にて公開しています。
余談コーナー
PCの大きさ比較 SCAR 15の主要な端子穴は背面にもある。
PC-HMD間用ケーブルユニット新旧 新しい方は横に広い
現行のコントローラ 真っ黒からわずかに透明度が95くらいに?
ZbookにOdysseyつないだ時の配線例 HDMI端子が無いので変則
ケーブル接合部周辺に負荷をかけないためにバンド(赤いやつ)を緩めてケーブルを右耳まで回すとたぶんよい
パカってフェイスクッションを外したところ。改良版G2無印はハマるパーツが2段になってるらしい(記事)。
マグ。11月のxR Kaigiのキャンペーンで当たった。