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不世出のレジェンド・内村航平の素顔⑪

いつかこんな日が来ることは、わかっていたはずなのです。内村選手現役引退。今朝のニュースを見てついに来たかと思いましたが、正直なところ現役引退はもっと早いのではないかと思っていました。

もし私だったら、自分がピークの時に華々しく辞めたい、と思うからです。そして「年齢と闘う内村選手」を目の当たりにしていたからなのです。


【体操選手のピークは25歳前後】

一般的に体操選手のピークは、25歳前後と言われている。25歳当時の内村選手も、こんなことを言っていた。

「年は感じますね。疲労の回復が遅くなってきていると思う。でも、こんなもんだろうと思いながらやっているので」

27歳当時の内村選手も、やはり以前とは違う自分を感じていたようだ。
「年齢が上がって怪我のリスクも高くなっている」

全日本選手権で8連覇を達成した直後の優勝インタビューでも、こんなことを言っていた。
「正直なところ、今日の疲労がちょっと凄いので、それどころじゃないっていうのが本音なんですけど」

前日の予選と比べ演技の難度を落としたことについては、「この状態であの(難度を)上げた構成をやると怪我につながってしまうなと思ったので」と答えている。
難度を下げても優勝してしまうのだから、その強さは桁外れなのだが。


【年齢と闘うキング】

実は、内村選手のこの発言を裏付ける姿を1度だけ、目撃したことがある。
コナミ体育館で「試技会」が行われたときのことだ。

世界選手権の日本代表は、3つの大会を経て最終的に決められる。
4月の全日本選手権、5月のNHK杯、6月の種目別選手権

4月上旬のある日、コナミ体育館で本番へ向けた「試技会」が行われた。
「試技会」とは、大会の審判に来てもらい本番さながらの演技を披露することをいう。
どういう演技が加点・減点の対象になるのか審判からアドバイスをもらい、さらに細かい部分までブラッシュアップするという狙いがある。

ちなみに、長いこと使われていない技は加点対象から外されるので、この技は今も使われている技か?という確認も、ここで行われる。

前回の世界選手権チャンピオンでもある内村選手は、すでに日本代表に決まっていたが、全日本選手権もNHK杯も前人未到の連覇がかかる大会だ。さらにオフシーズン中に完成させた技や、Dスコアを上げた構成をいよいよお披露目する場でもある。


【公式では決して見せない姿】

「試技会」では、内村選手も順調に演技を終え、最後のゆかの演技に入った。

今さら言うことでもないのだが、内村選手のゆかは、見ていてうっとりするぐらい美しい。すべてに調和がとれていて正確だ。
世界チャンピオンの通し演技を代々木体育館の離れた客席からではなく、間近で見られるなんて贅沢としか言いようがない。この時代に生まれて良かった!!と思う。

男子のゆかの演技時間は、70秒以内。
内村選手は最後までピタリと決め、一礼をして演技を終えた。

しかし、その直後、目を疑う光景を目にする。

内村選手が四つん這いになって「はぁはぁ」と肩で息をしているのだ。そして、ゆっくりと膝に手をつきながら立ち上がった。

その間たった「8秒間の出来事」だったが、今まで一度も見たことがない光景だったので、驚いてしまった。
6種目を演じ切るということが、ここまでハードだと思わなかったし、後半の疲れがこれほどだということも知らなかった。というより、内村選手の優雅な演技が、それを感じさせなかったのだろう。

「もう、若いころみたいに勢いだけではできなくなった。気持ちを作ってからでないと」というインタビュー記事が、私の脳裏をかすめる。

そういえば、番組ロケ終わりで雑談していたときも、笑いながらこんなことを話していたっけ。
「いゃぁ、昔と比べて今はキツいっす」「ユースケのやつ、俺より若いくせにもう無理、辞めたいとか言うし(笑)」

しかし、この後も長いことキングはキングとしての姿を私たちに見せ続けてくれた。


【内村選手の引退】

2022年1月11日の朝、「内村航平選手現役引退」のニュースが飛び込んできた。

ここ数年は別として、内村選手がずっとキングとして活躍できたのは、致命的な大きな怪我がなかったということも大きい。が、取材して行くうちにどうやら違うらしいことがわかった。

内村選手は説明できない「超人」だったのだ!! 大きな怪我をしていたにもかかわらず、世界選手権で優勝してしまったお話は、また次の機会に。


※最後までお読みいただきありがとうございます。この続きをどうぞお楽しみに!!

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