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⑦400m〜夢走〜

ストライドを広く、ラスト100mは手を振り腰が落ちないように高くする。

「55秒56秒…」

はぁはぁ、、

55秒の壁が高い。

どうしてもラスト100mからの失速に耐えられない。

「2分休憩してラスト1本!」

校庭には僕とヒロと、本多先生と下級生2人。上級生はグラウンドの端で砲丸投げを練習している。

ほぼ遊びみたいな練習だ。

クソ…

スタミナが底をついてる。

ラスト1本は何としても55秒の壁を越えたい。

「はい、行くぞー、よーい、スタート!」

学校のトラックは一周200m。それを2周。

1周目は全員ほぼ横ばい。

皆、体力はほとんどない。

2周目に入ると、足が乳酸に侵される。思ったように足が運べず、1人また1人と脱落して行く。

その時こそ手を振る。腰が落ちないように意識する。はぁはぁ、と自分の呼吸と足音だけが聞こえる。他の人の足音は無くなり、独走状態だ。

ここからだ。ここからスピードを落としたくない。が、頭がクラクラする。酸素不足だ。

「はい、50、51、52…55、56、57!!」

ゴールに雪崩れこむ。

はぁはぁはぁはぁはぁ、、

やはり壁は高い。

うっ、と吐き気がし、トイレにヨロヨロと向かう。

ダメだ、間に合わない。

手前で吐く。

はぁはぁはぁ、、

突然、頭から水をかけられる。

見上げるとヒロがいた。

はぁはぁ、、と同じように息を切らせているが、こちらを見てニッコリと笑う。

僕も笑い返した。

耐えられないほどの苦しさの中に、何ともいえない充実感が2人の間に生まれていた。

来月の試合は結果を残す。必ず。互いに言葉にしなかったが、力強い目の奥には闘志が宿っていた。


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