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⑬再結〜夢走〜

放課後、ヒロはダイを部室に呼び寄せた。

ヒロとタカと僕はダイを囲むように座った。
何も知らないダイは少し困惑した顔をしていた。この年頃に部室に呼び出されると良からぬ出来事が起こる事もあるからだ。

しかし、僕たちの想いはそれとは別に裏腹な物だと言うことを打ち明けた。

ヒロが口火を切る。

「リレーを組みたい。」

ダイは意外な表情を浮かべた。

「リレー?」

「そう、今度の大会はそれぞれ記録を作る大会や。俺たちにとっては最後の年になる。リレーに出たいという思いが皆あるんや。でも、メンバーが足りない。そこで、ダイに加わって欲しい。これは、皆んなの願いや。」

簡単な言葉だったが、想いを直球に伝えていた。陸上をやってきた人間ならリレーへの挑戦は理解できるはずだ。

「でも…」

と、ダイは僕の方をチラッと見る。

今度は僕の番だ。

「僕も同じ気持ちや。ダイとは小学校からずっと陸上やってきたし、最後まで一緒にやりたい。リレーはみんなの気持ちが1つにならんと成功しない競技や。だから…」

ダイは気まずそうに視線を下げた。

ヒロが続ける。

「頼むわ。また一緒に練習しよう。今までの環境とは変わったし、俺たちも上を目指せるくらいの実力はある。」

ダイは視線を下げたまま、暫く黙って

「ちょっと、考えさせて。」

と、言い残し部室を去った。

僕たちは不安な気持ちが残ったが、とりあえず各々に練習を始めた。

アップをし、ドリルをやりながらも、どこか気持ちは別の場所にあった。

タイムトライアルの時間になって、先生がやって来た。

「よし、今日は200m×8本やるぞー、リレーに向けてバトン持って走ろうか。第一走者はヒロな。第二は、短距離専門の2年生。第三はタカ、アンカーはジュン。いくぞー。」

ヒロがバトンを持って構える。

「よーい、スタート!」

僕たちはバトンを順々に渡しながら200mを8本完走した。

それが終わった後に、ヒロと僕は自主練で走り幅跳びの練習をした。

走り幅跳びの練習に使う砂場の前には、リエが練習する体育館がある。今日はドアを開けっ放しにしているので、中が見える。

相変わらず熱血先生がゲキを飛ばしている。

僕とリエの〝自転車置場デート〟はここ何ヶ月も行われていない。

もちろん、お互いの存在は意識しているし、部活に打ち込んでいるのも承知している。

以前、先生と休日に恋愛トークをした時に言われた事を思い出した。

「目の前に壁が出来た時は、2つの進み方がある。壁を壊してでも進むか、壁を横目に見ながら進むか。いつかは壁の終わりが来る。選ぶのは自由だ。」

久しぶりにリエの姿を見た。

自分の胸が熱くなるのを感じた。

僕は気が付くと、自分の手に大きなハンマーを持っていた。このまま一気に壁を壊して進む事しか考えられなくなった。

でも、

でも、それをしたところでどうなる?

少しでも彼女に近づけるのか?

いや、そんなことはないだろう。

僕はハンマーを手から離し、壁を横目に見ながら進む事を考えた。

部室に戻ると、今の自分の近況をノートに書き、手紙でリエに渡す事にした。

内容は簡単に、あくまでも近況だけにした。僕たちの壁を壊さないように、僕たちの壁と上手く付き合う方法を考えた。

といっても、実際に会う訳には行かない。僕はリエの部活が終わる前に、そっと彼女の自転車のカゴの目立たない場所に挟んで帰った。

翌日。

授業が終わり部活に向かう時、上履きから外履きに履き替えようとしたら、手紙がヒラっと下駄箱から落ちて来た。

ん?

封筒に書いてある文字でリエの字だとすぐ分かった。

僕は急ぎ足で部室に入り、誰もいないのを見計らって手紙を開けた。

読むと、そこには僕からの手紙に感謝する事と、彼女の学生生活の友人やバスケ部の事、そして最後に、これからも手紙のやり取りを続けていきたいという事が綴られていた。

僕は思わずガッツポーズした。心が躍るとはこういう事なのかと思った。久しぶりにあの頃の〝自転車置場デート〟の感覚が蘇ってきた。

その時、ガチャっと部室のドアが空いた。

はっと、振り返って見ると、そこにいたのはなんと、ダイだった。

「うっす」

と無愛想に言うと、自然に着替え始めた。

僕は思わず、

「や、やってくれるんか?」

と、聞くと、

「ああ…、ん…と、またよろしく頼むわ。」

と、恥ずかしそうに僕の方を見た。

嬉しくなった僕はダイに近寄り右手を出した。

「頑張ろうな。」

ダイはゆっくりだが、力強く右手を握り返してくれた。




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