⑫成長〜夢走〜
中学3年生になった。
ヒロは小柄で瞬発力もあるので、専門は100mと200m。彼のスタートダッシュは天性の才能かもしれない。
タカは元柔道部でガッシリした体型だが、ここ何ヶ月かの陸上生活で走力も磨かれつつあった。
僕の肉離れもすっかり完治し、成長期のおかげで身長も伸びて、一回り身体が大きくなっていた。
春になると、小規模だが試合が開かれてくる。記録会から始まり、夏には地区大会、県大会、四国大会、そして全国大会だ。
本多先生との練習も益々過熱していた。
「はい!ラスト!53、54!」
僕の400mのタイムも更新し、55秒の壁はとっくに突破していた。
砲丸投げは9メートルのラインを越えて、調子が良ければ10メートルに到達する時もあった。
走り幅跳びも6メートル以上の記録を叩き出した。
「はい、今日はここまで!終わるぞー、ダウンしてー」
今日も追い込みの練習を終えた。
「えー、そろそろ、試合が始まるシーズンになります。各自、体調管理に気を付けて過ごして下さい。お疲れさまでした!」
「お疲れさまでした!」
「あ、ちょっと3年生は残ってな。」
と、先生に呼び止められた。
僕たち3人は集まった。
「次の記録会だけど、三種競技がエントリー出来ないんだ。競技人口が少ないので小さい大会だとなかなか難しい。で、出場する競技を選んで欲しいんだが、開始時間など考慮すると100m200mはヒロ、タカは砲丸投げ、ジュンは400mと走り幅跳びか。砲丸は…ちょっと時間が難しいな。いいか?」
「あ、はい。」
「先生の理想はリレーまで出たいんだけど、お前たち3人と2年生の誰か入れて400m×4リレーに。」
「リレー…」
「ああ、リレーは大会の締めくくりであり、花形だから、出場したいと思っている。ちょっと考えといてくれるか?」
と、先生は職員室に帰って行った。
僕たちは部室に戻り考えた。
「リレー出たいな。俺らにとっては最後の年やし。」と、ヒロが言う。
「うん。」と僕は頷いた。
「タカは?」
「俺も出たい。でも、2年生入れるのはどうなん?有望なやつおる…?」
確かに、皆、共通して思ってる事は同じらしい。
と、ヒロが遠慮がちに言った。
「…ダイは?」
「え?」
「ダイに戻って来てもらおうよ。きっと、やってくれるよ。」
「…」
僕はあまり乗り気では無かった。あれから、ダイとロクに会話もしてない。
クラスは同じだが、部活を離れてから2人でいる機会もなかった。
ヒロもそれは承知していた。しかし、
「ダイが入ってくれたら、リレーもやる意味ある気がする。ブランクもそこまで無いし、これから練習しても遅くないんじゃない?」
僕も正直な気持ちはそう思う。2年と組むくらいなら、ダイの方が…
「明日、皆んなで頼みに行こうか。」
「え?」
「大丈夫きっとやってくれるって!」
こういう時のヒロは頼りがいがある。確かにダイとの関係もこのまま放っておくのは良くない。一度しっかりと話し合う必要もある。明日の放課後に僕たち3人は彼を説得してみることにした。
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