ポートスタンレー(当時の映像1982年)Fake it
1982年より
時代背景はレーガン大統領直後の西側が背景となってます。
歴史の場合、地代の変遷とともに公平性は変わりますので、その点をご容赦下さい。
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ところで、この時期……イギリスは財政問題のため、海軍ドックを次々と閉鎖している。
思いもしない、アルゼンチン軍の行動に、サッチャーと国防相のジョン・ノッドは苦い思いをせざるを得なかった。
この三月中旬の段階で、フォークランド方面にある海軍の戦力は哨戒艇エンデュアランス。そして二機のワスプ・ヘリコプターだけである。
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ジュリアン・セイモア議員はその日、彼女のもとに顔をみせていた。
「だからといってマギー、きみの考えは先を行き過ぎていやしないか?」
サッチャーはため息をついた。
「アル・ヘイグに情報提供を求めたけど、彼、サボタージュに出てるわ」
「正確に言うと、アルゼンチンのガルチェリ政権は、中米の左派ゲリラと対立関係にある……。つまり、アメリカ国務省にとっては面倒な敵をやっつけてくれる『味方』さ」
「だからどうなのよ」
サッチャーは若い時から時折見せていた、独特の視線をセイモアに見せた。
「怒るなよマギー。レーガンに連絡はつけたのかい?」
「ええ」
「どうだった?」
「フォークランド諸島に機動部隊を派遣するのは合意しかねる……らしいわ」
「当り前さ。いくらレーガン大統領でも国務省の裏側には手をだせない。アメリカっていうのは、そんなところさ。……ジョン・F・ケネディがいい例さ。命を落としているわけさ。あの国は決して一枚岩で動いているわけじゃない」
「議員、御忠告ありがとう」
マーガレット・サッチャーは口元で笑って見せた。
だが、微かではあるが瞳の奥は笑っていない。
「しかし残念なことだけど、事態はイギリスで起こっているのよ。そして私はその国の首相……」
「鉄の女とは、よく言ったものだ」
セイモアはソファーに腰をかけたまま、彼女の後ろにある肖像画を眺めた。
彼は煙草に火をつけた。
「国連の方には手を打ってあるのか?」
「外務省が動いてる」
「国連大使はたしか、アンソニー・パーソンズとか言ったな……。陸軍出身だ。確か砲兵科出身の」
「すでにロビー活動を始めている筈」
「……安保理会議か?」
サッチャーは頷いた。
「あくまで、国際法に準拠してこっちは動く……国際法がガルチェリの力の行使に打ち勝たねばならない。それが最大の難問よ」
サッチャーは眉を絶妙にひそめていた。
セイモアはチャーチルの肖像画に目をやった。その凄味のある絵は獅子のように猛々しい。
だが、マーガレット・サッチャーはその前で、また落ち着きを失くしていた。
国連の安全保障理事会で仮に決議案を引き出すにしても、簡単ではない。
十五カ国のうち最低十カ国の賛成が必要だった。拒否権が行使される。
国連憲章、そして国際法にもとずいた『声明』……この翌週の『第五〇二号決議』に効力を持たせるには、その関門があった。
レーガンが国際法にもとずづく『派兵』は不可能だと即座に電話で応えたという。
「スエズ問題以来、国連はアテにならない」
サッチャーは言っていたが、それを『どうにか』するのが彼女の目の前の課題だった。
不安と焦燥とは、そこにある。
ヒットラー流『居座り』戦術……つまり、ラインラント進駐……方式の無法者のやり口に対して、この当時全くなすすべがなかった。
つまり『法を順守』する者がバカになり、『無法者』があざ笑う。
……やったもの勝ち……。
これが、サッチャーを怒らせた。
そして、それより先をゆくズル賢さが必要だ。
彼女は見事な演技を始めた。
まあ、いやだこと。
「不法占拠……恥ずかしくないの?レオポルド・ガルチェリ、あなたは国際法が分からないの、おかしな独裁者ね。マフィアじゃあるまいし。それが民主主義国家というもの」
セイモアは苦笑いしている。
世界は二枚舌どころではない。
舌の数なら軽く100は越えるだろう。
ヘルシンキ宣言から、レオドーニ・ブレジネフを徴発する彼女の野党時代の数々の『喧嘩上等』ぶりの発言は、実はここにあった。
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