19の恋②

彼はとにかくマメな人だった。連絡も必ず空いた時間で返してくれていたようで、むしろこちらが返信できなくてもメッセージを入れてくれるよな人だった。毎日少しでも会いたいからと学校とバイトの送迎も基本的に毎日彼がしてくれていた。完全なるお姫様扱いに私は戸惑いながらも甘え、とても良い気持ちだった。(当時の担任は私がロクでもない男と付き合ってると心底心配し、親のように毎日毎日どこの誰で何してる人でいい人なのかどうか聞いてきてくれた。今思うと非常にありがたく、いい担任だった。)

付き合ってからはお互い中々時間が取れず、毎日少しだけ会う日々が続いていた。
付き合いだして2週間が経ったころ、ようやく初デートを迎えた。スタイリッシュな彼に合うようにハイヒールにホットパンツを履いてVネックのボディラインがしっかり出るTシャツを着て、メイクもヘアも入念に仕上げた”一丁あがり”の自分で望んだ。
「あ、ちょっと家寄らせてね」この一言で”一丁あがり”に仕上げた自分を悔いた・・・彼は実家暮らしで、ご両親はもう仕事をしていなかったからお家にいるのだ。誰も好きな人の親に会うときに派手なキメッキメルックで会いたい訳が無い。印象が良くないに決まっている。「ねぇー、普通にお出かけ行こうよ〜〜〜家は何が何でも寄らなきゃいけないわけじゃないでしょ〜〜〜?」何を言っても「いや、ちょっとだけ車いじらせて!大丈夫とーちゃんもかーちゃんもjunなら歓迎するよ!」彼の言葉を疑いながら家に着いてしまった。

出迎えてくれたのは庭いじりをするお母さんだった。「あら!junちゃんね!お話は聞いてるのよ。さぁ上がって頂戴ね!一緒にお茶を飲みましょう」お母さんは私の手を取り家を案内してくれた。とてもとても優しくて品の良いお母さんだった。私は自分の格好が益々恥ずかしくなって、少しモジモジしてしまった。彼がサスペンションをいじりだし、こりゃ時間がかかるな・・・と思いながら見ているとお茶菓子を持ってお母さんが来てくれた。私たちはすぐに打ち解け、とても仲良くなった。彼のご両親は家の目の前にあるアパートを経営していて、不労所得でそこそこいい暮らしをしているようだった。お父さんは口数が少ないけどとてもマメで優しくて、彼はお父さんによく似てるとお母さんは話してくれた。

彼のお母さんにはとてもとても思い入れがある。私が彼と付き合っている間はもちろん、別れた後もお母さんは私によく連絡をくれた。後から彼に聞いた話だが、お母さんは心の底から私と結婚してほしいと思ってくれていたようで、別れてしまったことを彼はとてもとても責められたらしい。私も、嫁ぐならお母さんの元が良いと思っていた。彼と別れてからも色んな方とお付き合いをし、ご両親にもお会いしてきたが、この彼のご両親ほど打ち解けられた親御さんはいなかった。

さて、少し話が脱線してしまったので元に戻そうと思う。

車の整備も終え、私を助手席に乗せた彼は上機嫌だった。私をよほどご両親に紹介したかったようで、お母さんと打ち解けていた様子を見て大層嬉しかったらしい。私は私で彼と付き合ってすぐ親友たちに会わせていた。私がとても年の離れた男性とばかりお付き合いすることを親友たちはとても心配していて、私と彼も13年が離れているので一度会いたいと言ってくれたのだ。実際会ってみると、彼はぱっと見の印象こそ、そこまでよくはないが優しい声の持ち主だったのですぐに親友たちも安心した様子を見せてくれ「junをお願いしますね。このこ寂しがりやだから大変だと思いますけど、いい子なんで。頼みますね。」と私たちを応援してくれた。

周囲にも祝福されながら、私たちのお付き合いは順調に進んでいった。彼はとても優しいし私を大切にしてくれた。けれど、私の心の中では、どうしても”彼の瞳の奥の闇”が気になっていた。

この理由が分かったのは、付き合って1ヶ月が過ぎたあたりのことだった。6月も下旬になり、どんどん夏が近づいている夜のことだった。
「junちょっと話があるけどいいかい?」そう言って彼が私に語ってくれたのはこんなことだ。

・俺はjunに出会う2年前まで刑務所に2年入っていた。
・本当はずっと東京で料理の仕事をしていたんだけど、途中から悪い人たちとつるむようになって当時流行っていたオレオレ詐欺の片棒を担いでいた。
・今、同じ罪を犯しても正直実刑判決が下ることは早々ないのだけれども、当時は犯罪が横行していて手が付けられない世界だったから見せしめとして実刑が言い渡された。
・このことは俺の両親と兄貴しか知らなくて会社にも言ってないことだ。

ひとしきり話し終えた彼が「言い出せなくて本当にごめん。俺は、こんなに誰かと一緒にいて楽しくて幸せな気持ちはjunが初めてで、この関係を壊したくなかったから言い出すのに時間がかかってしまった。でもjunの未来も考えると、言わなくちゃいけないと思って話したんだ。こんな俺で本当にごめんな。」こう続けたのだ。

私は一瞬話の内容が飲み込めなかったが、すぐに彼の過去について理解し、受け止める準備に入った。しかし、不思議なもので、その時の私はとてもスッキリしていた。彼の瞳の闇の理由が分かったからだ。

「言いたくないことをきちんと隠さずに話してくれてありがとう。結構驚いたけど、今の話をきいたからと言って好きな気持ちはこれっぽちも変わることがないよ?過去は消せないから、未来のことを二人で考えていこうよ。」そう言って私は彼を抱きしめた。シフトレバーがとっても邪魔であばらに刺さって痛かったけど、そんなの御構い無しに彼を強く強く抱きしめた。

「ありがとう。junのこと誰よりも誰よりも俺が大切にするし守るからね」

そう言って彼は私を抱きしめ返してくれた。

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