買ったガレキがもったいなくて全く手が付けられない貴方のためのお試しキット

WFお疲れさまでした。狙っていたキットは無事に手に入れられましたか。
帰宅して、パーツチェックして、一息ついた所かと思います。
やっと手にした貴重で大切なキット、今からすぐに組みますか?それとも次の週末に?もしくはずっと、永遠に…?

この冊子のタイトルが目に入って、なんとなくお買い上げ頂いたということは、「組みたい気持ちはあるけれども」「組めないのでとりあえず積むことにする」タイプかとお見受けしました。私もそうです。

本書は、ガレージキットの作り方や塗り方の手引書ではありません。
そもそも私は上手に作れないので、なんの技術も人に教えられません。

本書は喩えるなら、バンジージャンプの踏み出し方について「だけ」書かれた本です。飛んだ後のこと、姿勢制御については何も書かれていません。

足がすくんでしまってる方に向けて、そして昔の自分自身に向けて、最初の1歩にだけ焦点をあてて色々書いてみました。自力で踏み出せる人、既に一回でも飛んだことがある方には、特に読むべき内容は無いかと思います。
間違って買っちゃった人がいたら、ごめん。

自分も飛んでみたい。でも飛べない。なんでだろう。どうすればいいんだろう。そんなあなたの背中を押して、沼の底に突き落とせたら幸いです。

注:本テキストは、WF2023夏において販売予定だったオマケつき冊子(冊子付キット)を電子化したものです。前日にPCがクラッシュしたため販売を諦めましたが、4000字を捨てるには忍びなく、説明書だけアップしています。「プラモデルは説明書が本体」と考えますので、これもアリでしょう。


あなたは転売ヤーではないので、そのキットをいつかは組むつもりで買ったはず。少なくとも、組んで完成したら素敵だろうな、とは思っているはず。
長年の自主研究(自分の胸に手を当てて聞く)によると、買ったガレキを組み始められない理由は、大きく2つに集約されます。

・いつか、ちゃんと組もう。
・もったいないから、組むのはやめておこう

いつか組もう。だが今はまだその時ではない。

まずは前者から考えてみましょうか。
「いつか組もう」は、時制に関する表現です。だからこう言い換えることができます。「今はまだ、その時ではない」。

私は小学生の頃、大きくなってストリームベースのお兄さんたち位の歳になったら、プラモデルが上手になると思ってました。
中学生や高校生の頃は、20代になればフルスクラッチとかも出来るようになるのかなと思ってました。
大学生の頃は、大人になって家と専用部屋を作って高いツールを揃えてから本腰を…と思ってたし、社会人になった後は、ブラック生活から脱出して、もっと自由な時間が持てるようになったらやるぞ…と考えていました。

その日はいつか来る。きっと来る。そうやって、未来へ未来へと、夢と希望を先送り続けてきました。逃げてきた、とはまで言いたくありませんが、まぁそれは主観の問題でしょう。
ともかく、無事にその時が来たときに後悔しないように、今はまず買い続けて、どんどんと積み続けてきました。

そしてふっと気づいたら、いつのまにかアラフィフになっていました。大人もオッサンも初老もとっくに通り越して、まもなくお爺ちゃんです。
とはいえ、まだまだ「いつか」の効力は健在です。全然先送りしていけます。古来より伝わる、とっておきのキメフレーズがありますよね。
「定年退職したら」「老後の愉しみに」。

でも、数年前のある日、唐突に気がついちゃったんですよね。うまく言葉にできませんが、「わかった」という表現が近いかなぁ。自分にはそんな老後は決して来ないという「わかり」が発生した。一般的な表現だと「腑に落ちた」あたりでしょうか。
知っていることと、わかることの違い。なんど体験しても面白いですね。

とはいえ、幸せな老後は来なくとも、死んだその先にさらに先送りする便利な言葉もあります。私の宗教観に基づいて、好んで使う慣用句でいうなら「それは来世で」「次のループでね」。どこまでだって先送りできる。

だからこの問題は、決めるべきことは、実は「いつ頃まで先送るか」「いつになったらやるか」という時間の話ではないんですよね。実は違う。
「今日やるか」それとも「死ぬまでやらないか」。その2択。
どっかのタレント先生のキメ台詞みたいで嫌ですが。詰めるとそうなる。

小学生の頃からずっと、40年以上も憧れても、ついぞフルスクラッチなんて出来るようにならなかった。でも「わかり」が来てしまったので、やることに決めて、今日粘土を買ってきて、今日開封して粘土をこねて、今日作ったものを型どりして、今日レジンで複製して、と、今日やるを何日間か積み重ねたら、無から物体が出来上がるようになりました。
同封されているレジンの塊、いまお手元にあるものもその一つです。この塊をもって「フルスクラッチが出来た」というのは、言い過ぎかもですが。
※注:この電子版にはレジンの塊はついていません。

多分いつかは決して来ません。しかし今日は毎日やってくる。
ありがたいことです。

台無しにしたら、もったいない。

もったいない。それは日本人ならでは感性で、世界に誇る良き言葉らしいです。まぁでも「いま組んだら、もったいない」と感じるとき、そのほとんどは、単に金銭的な話に帰結しそうな気もします。

もったいない。何がもったいないのか。ひとつづつ、考えてみましょう。

・せっかく苦労して手に入れたのに、作ってしまうのはもったいない。
限定品。再販がない。二度と手に入らない貴重な品物なのに。
プラモデルやガレージキットは、組んでしまったら失われてしまうプロダクトです。私は「プラモデルを組むという行為は、完全に完成したプロダクトを破壊して台無しにしていくことだ」という言い方をします。
そういう変なプロダクトなんですよ。そもそもが。

・組まなければ売れるのに。手を付けたら価値が下がる。
メルやオクに出せばすぐ利益が、寝かせておけば更に値上がりするのに。
でも、お金が欲しいだけなら、株やFXでお金そのものを転がしたほうがよほど効率がいい気がする。置き場所要らないし。劣化しないし。
損するのが嫌なら、そもそも買わなければよかったんじゃないか。でも欲しかったから買った。じゃぁ自分は何で買ったんだろう、何が欲しかったんだろう。

・いま下手に作ったらもったいない。失敗したらもったいない。
失敗したくない。無駄にしたくない。だから手が止まる。これはわかる。


オマケキットの出番です

あなたは、先送りせずに、一度やってみようと決めた。
とはいえ、今日買ってきたばかりの、高価で出来が良くて二度と手に入らない素敵なガレージキットに、いきなり手を出すのはやっぱり恐い。

そこで、同封した謎の物体、レジンの塊の出番です。
※注:この電子版には同封されていません。

この物体を、仮に「ガレージキット」だと思ってみましょう。
もったいなくて組めないですか?全然もったいなくないですよね。

まず安い。たしかに数百円は頂戴しましたが、お昼に立ち喰い蕎麦を食べたと思って、いったんお金のことは忘れましょう。
そして高く売れません。メルだろうがオクだろうが、だれも買いません。店に持っていっても値段が付きません。リセールバリューゼロです。
手放す時は捨てるしかない。捨てるくらいなら、組んでみませんか。

そして最後に残った壁「失敗したらどうしよう」「台無しにしたらどうしよう」についてはどうでしょうか。
じつはここがこの塊の最大の特徴で「このキットは絶対に失敗しません」。

そもそもガレージキットやプラモデルにおける「失敗」ってなんでしょう。
パーツをなくすこと?間違って切ったり接着したりすること?綺麗に塗装できないこと?
つまり「成功する」「ちゃんとやる」「上手に完成させる」の反対ですね。

でもこのキット、成功することはありません。誰もちゃんと作ることは出来ません。もしプロの方が組んだとしても、絶対になにも完成しません。

成功しないし完成もないのだから、失敗も挫折もしようがない。
失敗したくても、失敗できないのです。
あなたが手を動かしたせいで、キットがダメになることも、取り返しがつかなくなることも、無駄になることも、後悔することも、決してありません。

気軽に。うかつに。

まずはデザインナイフを手にして、バリを削りとりましょうか。
段差が出来たらさらに削りましょう。どこまでも削ってしまいましょう。削りすぎた!は起きません。やり過ぎたと判断する基準線がない。

紙ヤスリや神ヤス!で表面をならしてみましょう。どれだけヤスリを掛けてもエッジは落ちません。そもそもエッジがありません。繊細な彫刻もない。

気泡を埋めて、サフを吹きましょう。吹きすぎてもディティールは埋まりません。サフで埋まるディティールも存在しません。始めから、ない。

スプレー塗装してみましょう。何色でもいいですよ。指定色も正解もモチーフもありませんので。間違うことも、ズレることもない。
吹きすぎてタレたら、ダイナミックにヤスリで削るか、ペイントリムーバーにドボンしましょう。それでダメになる部分は何もありません。

完成しない作業に飽きたら、思い切って丘をニッパーで削り落として、好みの小ささにしてみましょう。ペッタンペッタンでも良いじゃないですか。設定も正解もないし、誰も見てませんよ。私は既に試しました。
または、ポリパテをたっぷり盛って、もっともっと大きくしてみましょう。なんか流行ってますよね、大きいの。重力の限界に挑戦してみよう。私もあとからやってみる予定です。

なにをどうやろうとも。
あなたが自ら「このキット製作はこれでヤメにします。私は失敗しました」と宣言しない限り、何をどうやったって、このキットは絶対に失敗しません。台無しにはなりません。
はじめから全てが失敗してるし、あらかじめ台無しにしておきました。

このキットには、いつかへ先送りする価値はありません。何ももったいなくありません。ご安心して、憂いなく、うっかりと、踏み出してみましょう。

そして…奈落の底へ。ようこそ。


※補足
弊害として、このキットは勝手に完成「してしまう」ことはありません。
「とりあえず完成」と言葉を添えて、写真をアップすることもできません。
それでも完成させる方法は、たった1つしかありませんが… そのお話は、また次の機会にしましょうか。

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