小さな小さな星の王子さま

あるところに小さな小さな星がありました。


星には小さな王子様が一人住んでおり、小さなバラの花が一輪咲いていました。


王子様はバラをとても大切にしていて、毎朝、 話しかけながら、水をやっていました。

『今日も可愛いね』
『笑顔が素敵だよ』
『赤がよく似合うね』

バラは水をやっている間は、ニコニコしているのですが、水をやり終わり、王子様がどこかに行ってしまうと、 少し機嫌が悪くなるのでした。

ある朝、王子様が寝坊をしてしまいました。


『しまった!早くバラに水をあげないと!』

王子様が慌ててバラを見に行きましたが、
いつも咲いている場所にいませんでした。

バラが咲いていた場所にはぽっかりと大きな穴が空いていました。 

『誰かが僕のバラを持って行ったんだ!』

王子様は淋しくてたまりません。 

慌てて、 隣の星に探し行ったところ、
バラがすました顔で咲いていました。
王子様は、バラに話しかけました。


『どうして僕の星を出て行ったの?』
『貴方が水をくれなかったからでしょ!』

バラは怒って言いました。

王子様は困った顔で答えました。

『この星の王子様は水をあげているの?』
『全然くれないわ!』
『だったらどうして?』

王子様は意地っ張りなバラの事を、また好きになりました。


『とにかく、僕の星に帰ろう!』


王子様はバラを丁寧に掘り起こし、 また自分の星に持って帰りました。


それからは今まで以上に、 水を一杯やる様にしました。



ある夜に、王子様がふと目を覚ますと、 隣の、そのまた隣の星の王子様が来て、
バラを見つめながら、 水をやっていました。


『僕はこうやって、君を見つめているだけで良いんだ。 』


バラはその王子様に水をもらうと、 ポーカーフェースを装いながらも、
ドキドキしてしまっている様子でした。
眠気が覚めた王子様は涙で一杯です。


『僕にはあんなにドキドキしないくせに!』
『僕と話すよりあの王子と話したいんだ!』
『今までの事は全部嘘だったんだ!-緒に過ごした時間は何だったんだ?!』


バラはとても困った顔をしていましたが、 王子様には嬉しそうにも見えました。


『どうして、あの王子様は水をやったの!』
『知らないわ!不可抗力よ!』


王子様はとても悲しい気分になりました。


『僕の水はもう要らないの?』
『そんな事ないわ。 』
『僕の水よりあの王子様の水の方がいいの?』
『そんな事ないわよ。 』
『僕にとって君は、 たった一つの大切なお花なのに!』
『わかってるわよ。 』
『あの王子様の水が良いの?』

『本当にお水かどうかも、わからないけど…悪い気はしないわ。』


王子様はとても悲しい気分になりました。


『もう良いよ!そんな言葉、 聞きたくない!』


バラは目をパチクリとさせました。王子様がそんな風に怒るのは初めてだったからです。


王子様は言いました。
『僕も他の星に行ってくる! 他のパラに水やりするんだ!だから、君も隣の星に行けば良いんだ!』


王子様は渡り鳥に乗って、 地球に降り立ちました。

最初に着いた場所はバラ園でした。
王子様の目前には数千本のバラが咲き乱れてました。


『バラだ!バラがいっぱいある!』


王子様はびっくりしました。


『こんなに多くのバラの花に誰が、 どうやって、 水をやるんだろう?』


バラの花はみんなキレイに咲いていましたが、 よく見ると、 みんな同じ形をしていました。


『どうして、みんな同じ顔をしているんだろう?』
王子様は不思議でなりません。
『きっと水が足りないんだ。 まずは水をあげなくちゃ。 』


王子様は近くの井戸からバケツに水を汲み上げ、一つ一つのバラに声をかけながら水を
あげていきました。


『みんなキレイだね。 可愛いね。 』


しかし、バラの花は一斉に顔を見合わせ、 ヒソヒソ話をするのでした。
花の言葉は分かりませんでしたが、明らかに迷惑そうな仕草でした。

『君達は僕が一生懸命、井戸から汲んできた水をあげてるのに嬉しくないの?』


王子様は首をかしげました。


バラ達はまたヒソヒソ話をしています。
王子様は咳きました。


『違う場所に行こう。あまり歓迎されてないみたいだ。』


王子様はトボトボ歩いて行きました。

すると、草むらの陰から一匹のキッネが飛び出し
てきました。
キツネは笑いながら、言いました。


『さっきのバラとのやりとりの一部始終を見ていたよ。あんた、分かってないね。』


王子様は叫びました。


『何故、花達は喜ばなかったの?』


キツネは言いました。


『この星のバラはいろいろいるんだ。 さっきのは鑑賞用のバラを栽培しているバラ国。水やりなんて必要のないバラなんだよ』


王子様は驚いて聞きました。


『あんなにいっぱいあるのに1本も?1本も水が要らないの?』


キツネが意地悪そうに答えます。


『ちゃんと水やりしないと咲かない花の方が少ないんだよ。』


王子様は頭を抱え込んでしまいました。
キツネは心配そうに見ています。


『君にはちょっと刺激が強すぎたかな?』


キツネが続けて言いました。


『じゃ、次は違うバラを見に行こうか?いろんなバラがあるぞ。』


王子様は上の空です。
『水やりしないと咲かない花の方が少ないなんて…。 』

王子様はキツネに連れられ、 砂漠に行きました。
砂漠にはポツンポツンとバラの花が咲いていました。
ある花に、王子様が話しかけました。
『水は必要ですか?』
そのバラは言いました。


『どんな水でも良いから、いっぱい頂戴!!』
キョトンとしている王子様にキツネが説明しました。


『こんな砂漠に住んでるから、 水がいっぱいいるんだよ。』


その隣のバラの花は言います。
『水ならどんなのでも良いの!とにかく、早く!早く頂戴!』


王子様はバケツからありったけの水をかけ、 立ち去りました。


砂漠を抜け、森に入りました。 森には至るところにバラの花が咲いていました。 みんなキレイで、ちょっと個性的なバラばかりでした。
王子様は黄色いバラに話しかけました。


『水は必要ですか?』


黄色いバラは答えました。
『ちょっとで良いから、 毎日頂戴。 』


ピンクのバラはこう言いました。
『私だけにくれるなら、欲しいけど、みんなにあげるなら要らない!』


他にも
『しばらく水をやり続けてくれないと、 私にとって必要かどうか、 分からない。』
とか、
『私は、いろんな人からいろんな水をもらうの!一人じゃダメなの!』
とか、
『他に良い王子様がきたら、 替わってもらうけど、それまでなら良いわよ。 水をもらってあげるわ!』
とか、みんなロ々に勝手な事を言い出すのでした。
キツネが言いました。


『な、いろいろいるだろ?』
『僕の星のバラとここにいるバラの違いは何だろう?』


王子様は考え込んでしまいました。


『キレイなバラや変わった色や形のバラはいろいろあるんだ。だけど…。 』
『だけど、何?』


キツネは尋ねました。


『僕に…僕にピッタリ合うバラは無いんだ!』
王子様はきっぱりと言いました。
そして自問自答するのでした。


『僕にピッタリのバラ…。 ピッタリってどういうなんだろう…?』 


キツネは言いました。


『そう。自分にピッタリのバラは必ずあるんだ。 それなのに、 みんな、ちゃんと見つけようとしないんだ。見つけようと努力したら、 絶対に見つけられるのに!みんな諦めちゃうんだ。』


王子様は
『でも、ピッタリって、 どうやったら分かるんだ?どうやって確かめるんだ?』 と聞きました。


キツネは続けます。
『大事な事は目に見えないってヤツだよ。 覚えているだろ?目で見える物に惑われず、心で感じてみれば良いんだよ。』

王子様は叫びました。
『うん、それは分かってる。僕のバラは僕だけピッタリだと心で感じてるよ。…でも??』

キツネは続けます。

『それは毎日水をやり続けたら分かるんだよ。毎日水をやり続けたら、バラは必ず君に何かを与えてくれる。ピッタリだと思わせてくれる何かを!』

王子様は繰り返しました。

『ピッタリと思わせてくれる何か、?』

『そう。それはまさに『何か』なんだよ。それは言葉に出来ないけど、君にしか分からない、とても大切な物なんだよ。目に見えないけどね。』

王子様は、今まで、毎日水やりをして、バラと話した話や、二人きりで過ごした時間を思い浮かべました。

『そうか、、、。よし!早く僕の星に帰ろう!』

王子様は叫びました。

『早くバラに、ちゃんと伝えないといけない!』


王子様はキツネに言いました。


『僕にピッタリのバラは世の中でたった一つしかない。 他に代わりはいないんだ。だからその一つのバラを大切にしないといけないんだ。 当たり前の事なのに、やっと気がついた気がする。』


キツネは答えます。

『うん。自分にピッタリのバラはなかなか見つからないもんだよ。必ず神様が巡り合わせてくれるんだ。心で感じれば、 分かるんだ。 だから、毎日、バラにも神様にも感謝しないとね。』

王子様は頷きました。

キツネは続けました。
『大事な事は、、感謝だけじゃなくて、ロに出して伝えるんだよ。バラにも神様にも!』


『うん!分かった!』


王子様はキツネに感謝の言葉を伝え、自分の星に戻りました。
王子様はバラが咲いてる場所に行きました。

すると…隣の星に行ったと思っていたバラがすました顔で咲いていました。
王子様は声をかけました。


『待っててくれたの?』


バラは
『別に…待ってなんか…。 』


と言い顔を背けました。
王子様は強がりを言っているバラを抱きしめたくなりました。
王子様は急いで、井戸から水を汲み出し、バラに話しかけながら水やりを始めました。

『あのね、君は僕だけのバラだよ。世の中で一つしかない、 他に代わりがないバラなんだ。君は僕の水でないと、 他の人の水じゃ、 ダメなはずさ。 僕も君だけの王子様なんだからね。』


バラの花は何か言いかけましたが、遮る様に続けました。


『僕にピッタリって意味が分かったよ。毎日水やりしてると、 君の気持ちが分かるんだ。そして、君は僕にかけがえのない物をくれている。 』


バラの花は少し笑顔になりました。


『私があなたに?』
『うん。毎日ね。 』
『毎日?会えない時も?』
『うん。会えない時も、 ずっと君の事を考えてるからね。 』
『本当?』
『僕の心はいつも君の事でいっぱいだよ。 』
『本当かなぁ-?』


バラはいつもの口調で聞き返しました。
ようやくご機嫌が直ってきた様です。

『うん。それは君の為に費やした時間で分かるんだよ。後から気づく事なんだ。』
『ふふふっ。嬉しい。 』


バラは笑顔になりました。


『そう。そして、その笑顔が僕を最高に幸せな気持ちにさせてくれる。 君を喜ばせようと僕がいろいろ頑張ると、 君は嬉しい気持ちになる。君が嬉しいと僕はもっと嬉しくなるんだ。で、僕が嬉しくなると君はもっと嬉しくなる。どんどん幸せな気持ちが大きくなっていくんだ。』
『ふふっ、その通りね。』
『それで、やっぱり君じゃないとダメだ、 自分にピッタリだって感じられるんだ。』
『うん。』
『それに、君は僕にいつも何かを与えてくれる僕にしか分からない、とても大切な物を!』
『そう?』
『君と交わした言葉は僕の心の一番深い部分に残ってるんだ。 いつも、迷った時、困った時に、そこに答えを探しに行くんだ。』

『うん。』
『そこから、交わした言葉を取り出して、反復するんだ。 すると、物事がよく見える事、よく分かるがあるんだ。それは…探していた答えだったりするんだ。 だから、だから例え会わなくても、君に支えられているのを実感するんだ。 』
『私もあなたに支えられているのを感じる事があるわ。』
『うん。分かるよ!だから離れたくないんだ。』
『うん。私もよ。 』


王子様はバラを抱きしめ、キスしました。
バラは王子様の目を見つめました。
『君の瞳が好き。 』
『うん。』
『唇も、類っぺたも、 うなじも、 手も足も胸もみんな好き。』
『うん。嬉しい。 』
『他の花に水をやったりしないよ。 君だけにしかやらない。』
『本当?他にもキレイな花や可愛い花はいっぱいあるわよ。』
『君より可愛い花はないよ。 』
『あちこちで言ってるんじゃないの?』

『言ってない。そんな時間があるなら、君に言うよ。』
『ちゃんと言ってね。 言ってくれたら嬉しい!』
『例え、他の王子様が水をやってもね。 』
『水じゃないわ。』
『水だよ。』
『水かなぁ?』
『水だよ。水やりする王子様にとっては、ね。 』
『うーん。』
『僕には、君にとって必要な水かどうかが重要なんだよ。 』
『そっか!』


それから王子様は毎日水やりして、ずっとずっと、 幸せな時間を過ごしたのでした。





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